第03章 クラス対抗戦編
第74話 石瑠家会議
――SIDE:石瑠藍那――
泣き止んだ麗亜を夏織に任せ、浴室へと連れて行って貰った後、私はリビングのソファへと腰掛けながら深い安堵の息を吐く。
――メイドの夏織から麗亜が行方不明になったと聞いた時は、思わず我が耳を疑ったものだ。しかも、行き先がABYSSだと……ッ!?
「……無事で良かった……」
手の甲を額に当てながら、私は脱力した様に呟いた。麗亜が探索者に憧れているのは知っていた。私の横に立ちたいと。可愛い事を言っていたのを覚えている。だが――まさかこんな無茶をするだなんて、夢にも思っていなかった。
「ッ! そう言えば翔真は――!?」
傍に控えるマリーヌへと問い掛ける。麗亜の事に夢中で、翔真の事まで気が回らなかった。奴は一体、何処に行ってしまったのだろう?
「麗亜お嬢様を送り届けた時は一緒でしたが、生憎、それ以降は私も存じ上げておりません」
「……詳しい話を聞きたかったのだがな。翔真め、またABYSSへと向かったのだろうか?」
言いながら、私は自身の
……む、鳳紅羽。
これは翔真の許嫁だな。
[シューター] LV.8 鳳紅羽 [5F]
ほぉ? 流石は鳳家の長女と言った所か。
入学して僅か一週間で第5階層まで歩を進めているとはな。レベルも8と順調だ。これならばD組と言えども上位の教室に太刀打つ事が出来るかも知れないぞ。
――面白い。
私は心中で呟いた。
「余り気にしていなかったが、こうして下級生のクラスを見るのも勉強になるな」
私は他の生徒へと目を向けて行く。
生徒番号の1番はコイツか。
[ディフェンダー] LV.9 相葉総司 [5F]
LV.9……! 恐らくはこの"相葉"という男が級長候補筆頭なのだろう。到達階層数が一致している事から、もしかしたら鳳はこの生徒とPTを組んでいるのかも知れない。
翔真からすれば、複雑か。
しかし、我が弟の生徒番号は一体幾つなのだろう? 一つ一つ確認してみるも、クラス表には出て来やしない。……まさか、最下位なんて事は無いと思うが――
「……」
思った側から、見付けてしまう。
スクロールの1番下。つまりはD組の最下位に我が弟の名は記載されていた。嫌な予感と言うのは当たるものだ。以前までの私ならば「恥晒しめッ!」と、翔真を相手に憤っていただろうが、最近では奴が頑張っている事を知っているからな。此処は大目に見てやろう。
――どれ。余り期待はしていないが、翔真の情報にも目を通してやろうではないか。
私が思った、その時だ。
「む……?」
何か――不可解な数値を見た様な気がして、私は自身の目を擦る。……おかしい。
いや、あり得ない!
何なのだこの数値は……高過ぎる!?
[ノービズ] LV.10 石瑠翔真 [11F]
LV.10という数値にも驚いたが、何よりも有り得ないのが、この到達階層数だろう。
――第、11階層ッ!?
「な、なななななな――ッ!?」
すると何だ? 翔真の奴は僅か一週間で10階層の階層主を攻略したという事か!? あの灼熱の魔神を!? 私達でさえギリギリだったのに!? 考え、余りの荒唐無稽さに笑えてしまう。
……他の人間の意見が欲しい。
「マレーヌ! 此れを見てくれないか!!」
「
端末画面へと目をやったマレーヌは、石瑠翔真の情報欄を読み、私と同様に絶句した。
「見たな? そして、どう思った!?」
「どう……と言われましても……何方かに手伝って頂いたのでは?」
「つまり、自力では無理だと?」
「当然です。まだ入って間も無い1年生が階層主を攻略しただなんて、有り得ない事ですから」
「そうだ、な……確かにそうだと思うが――」
――何かが引っ掛かる。
最近の翔真は確かに変わった。私の特訓にも何だかんだで着いて来ているし、今日だって奴が居なければ麗亜は発見出来なかっただろう。
石瑠家の当主として、自覚が芽生えて来たのかも知れない。そう思う反面「あの翔真が?」と、疑ってしまう自分もいた。
本来であれば喜ぶべき事の筈なのに。
何故か私は、弟の成長を喜べないでいる。
何と浅ましい。
まだ、未練があるのだろうか――?
「姉様……っ」
「!」
呼び掛けに気が付き、顔を其方に向けてやると、風呂から上がった妹がリビングにやって来た所であった。心配そうな眼差しを向ける妹に、私は安心させる様な微笑みを浮かべる。
「どうだ? 少しは落ち着いたか?」
「姉様……心配をお掛けして申し訳御座いませんでした。私はもう、大丈夫です」
「……一体、何があったんだ?」
「実は――」
麗亜は自分がした事――身分を偽装して不正に
中でも驚いたのは、翔真の事だ。
麗亜が言うには、翔真はPTを組んでおらず、
……俄には信じ難いが、翔真の事を嫌っていた麗亜が、奴を持ち上げる発言をするとは思えない。つまり、全て本当の事……?
――いや、結論を出すのは早いか? 全てを信じる事は出来ないが、今は麗亜の顔を立てて、頷いておくのが良いだろう。
戸惑っているのは私だけではない。近くで聞いていたメイド達。取り分け、翔真と接する機会の多かった夏織やマレーヌは、困惑の表情すら浮かべている。
「姉様、私……今までの事を翔真に――いえ、翔真兄様に謝罪したいの」
「今までとは?」
「ずっと前から、私は姉様こそが石瑠家の当主に成れば良いと思っていたの。……ううん、その気持ちは今でも変わらない。けれど、そうする為のやり方を、私は大きく間違っていたわ」
「……」
「兄様を追い出せば、後は自動的に姉様が当主に成れると思っていた。だから私は、メイド達と結託して兄様の事を徹底的に虐めていたの」
「ふむ……良く小競り合いをしていたのは知っていたが、まさかそこまで本格的とは……」
言って、メイド達の方へと視線をやると、彼女達は気不味そうに目を背けた。
「やらせたのは私です! 兄様の部屋を滅茶苦茶にしたり、靴で踏んだ朝食を食べさせたり、色々な嫌がらせを考えて、兄様がこの家から出て行く様に、その全てを実行してきました!」
「そ、そんな事までっ!?」
その様な事が行われていたとは、姉である私の眼を以ってしても気付かなかった……!!
……まぁ、仮に気付いていたとしても、止めていたかは微妙だがな。妹とはいえ、小学生相手のいざこざだ。己でケリを付けろと翔真に発破を掛けていたかも知れない。
「……翔真に対する嫌がらせは、今後辞めると言う事で良いんだな?」
「はい。――メイド達も、それでお願い」
慌てて「畏まりました」と頷くメイド達。言葉ではそう言うが、内心は複雑だろう。人間というのは他人に一度見せた顔を引っ込めるのは苦手とするからな。戸惑いは強い。
「……そうと決まったら、明日の夜は翔真の為に豪勢にしてやろうではないか。麗亜を助けてくれた事の礼もあるしな? パーティーをすると言うのも悪く無いだろう」
「パーティーッ! なら私、手作りケーキを用意するわっ! 夏織! マレーヌ! 材料の手配をお願い! それと――当日の料理の支度もね?」
「ハッ、畏まりました!」
「腕に寄りを掛けて、御用意させて頂きます」
頷くメイド達を見ながら、麗亜は当日が楽しみで仕方が無いと言った風にはしゃいでいた。
……兄に対して何かをしてやろうと思う事なんて、今まで無かったと思うからな。新鮮で且つ、楽しみなのだろう。兄妹仲が改善されていくのは、私としても喜ばしかった。
「兄様、喜んでくれるかなぁ……?」
「そうする為に頑張るのだろう?」
「――うん!」
麗亜の小さな肩へと手を置いて、私は妹を励ましてやる。不安は感じている様だが、やる事が決まった為に、その意気込みは強かった。
後の問題は、翔真か。
麗亜の事を許して貰えると良いのだが――
――――――――――――――――――――
近況ノートに原作翔真の時系列表を投稿しました。翔真と紅羽は何時知り合ったのか? 翔真の闇堕ちはどのタイミング? 麗亜が石瑠邸へとやって来た日は? ……などなど、本編だけではイマイチ把握し難い情報を整理して載せております。興味のある方は是非覗いてみて下さい。
☆での評価、♡の応援、感想コメント、レビュー等は作者のモチベーションとなっています。これからも宜しくして頂けたら幸いです(ᐢ 'ᵕ' ᐢ )
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