第65話 拉致の一報


「くぁ〜〜、暇だなぁ……」



 探索区のカフェテラスで暇を潰していた僕は、大きな欠伸をした後で、眠気覚ましにテーブルの上のメロンソーダを一口飲む。


 ……ん〜! ンマイッ!


 炭酸のシュワシュワ感とバニラアイスの甘さが程良く調和した飲み物だ。コイツを発明した奴には、ノーベル賞をあげたいね!


 テキトーな事を考えながら、僕は手元の|魔晶

端末ポータルを操作する。


 現在時刻は午後の13時。


 クラス表を開いてみると、1-Dの連中は第4階層を頑張って探索している最中だった。


 細かい順位とかは、正直分からない。逐一チェックをしている訳でもないし、誰が一位になろうとも、大差は無いと思っていたからだ。



「しかし、このままじゃもつれそうだなぁ?」



 予想では各PTの到達階層数は第5階層が限度だと思っている。第4階層は今日中には更新出来るだろう。問題はその次――第5階層である。


 此処を抜けるのは、厳しいだろうなぁ。


 1階層から10階層をゲームで言うところの1ステージに例えると、5階層と言うのは丁度中間。後半戦へと差し掛かる部分なのだ。


 ABYSSと言うのは前半と後半で大きく難易度が変わるのだ。出て来る魔物も様変わりするし、その切り替えがいきなり過ぎるから、どうしても第4階層でストップせざるを得なくなる。


 直前に出て来る魔物はスライムやゴブリン達だろう? 経験値効率も悪いし、稼ぐとしたら偶に出現するウェアウルフを狩るしか無いんだが、こっちはこっちで逃げ捲るから面倒臭い。


 この時点での最適解は、装備を新調する事である。アルバイトに勤しんだり、第4階層で金策に励んだり、そうして"鋼"シリーズを身に付けたなら、今度は第5階層でレベリングをする。


 段階を追ってかなきゃ、難しい部分なんだよ。だから、連中は第6階層には進めない。


 全員が一律で第5階層に留まるだろう。


 そうなった場合は、各リーダーとのサシの勝負だな? 単純な実力勝負なら、相葉総司に勝てる奴はいないだろう。


 必然的に、級長は相葉という事になる。

 反対意見は何も無い。


 むしろ、原作通りで万々歳かな?


 芳川や武者小路には悪いけど、やっぱ相葉の方が安定感はあるんだわ。


 内心で謝りつつ、僕は追加のデザートを注文する。家じゃあ中々食べれないからね。今度は苺のタルトに行ってみよう!


 出て来るスイーツに舌鼓を打ちながら、僕は休日を満喫した。たっぷり1時間は時間を潰したかな? そろそろ出ようとした時だ。テーブルの上に、一枚の紙が置いてある事に気が付いた。



「あれ? 領収書はこっちだよな……?」



 追加注文をした時の領収書かと思っていたけど、そっちは古い方と入れ替えで、一枚に纏めてあるんだよなぁ? 店員の置きミスだろうか?


 兎に角、中身をチェックして――と……。



「――は?」



 僕は思わず目を疑った。

 紙には短く、こう書かれている。



『妹を預かった。今日中に第9階層の転移石までやって来い。遅れたら殺す』



 ……何これ、悪戯?


 心臓がドクドクと高鳴っていた。不吉な予感にまさかと思いつつも、僕は手元の魔晶端末ポータルで、自宅へと電話を掛けていた。



「――はい」



 電話に出たのは、メイドの夏織だ。心無しか、その声色には覇気が無かった。


 思い過ごしなら、それで良い。

 今は真実を確かめたい。



「……夏織か? そっちに、麗亜はいるのか?」


「お嬢様は、その……」



 夏織からは、躊躇う様な気配を感じた。

 僕は急かす様にその先を求める。



「――いないんだな?」


「しょ、翔真様……?」


「何処に行ったか、心当たりは?」


「……もしかしたら、ABYSSに向かわれたのかもと、話をしていました……」



 話をしていた?

 メイド長のマレーヌと一緒にか?


 ABYSSと麗亜に、結び付く物は何もない。

 そう考えた理由は何だ?



「麗亜が、何でABYSSに来るんだ?」


「それは――」



 言い淀む夏織。

 いや、大事なのはソコじゃないよな……?


 今は兎に角、時間が惜しい。

 そこら辺は放置しよう。



「居なくなったのは、何時だ?」


「土曜の朝方です」


「姉さんは、この事を知っているのか?」


「まだ何も……藍那様は、土曜から御自宅には戻られてませんので……」



 思わず、舌打ちをしそうになってしまう。

 後手後手じゃないか。


 一体、何をやってるんだか……ッ!



「――分かった。もう良い。兎に角、こっちでも麗亜の奴を探してみる。姉さんが戻ったら、今の経緯を全て話しておけ!」


「あ、翔真さ――」



 話の途中で、通話を切る。

 これで、愉快犯の線は消えた訳だ……。


 このメモ書きは、間違い無く僕を指名している。どういうつもりかは知らないけど、麗亜の奴は第9階層に居るのだろう。


 今日中に来いだって……?


 馬鹿が。



「取引にもなっていない……! 僕じゃなけりゃ、絶対に間に合わない時間だぞ……!?」



 メモ書きを指で弾きながら、僕は憤る。


 最初から麗亜を殺す気で、無理難題を書いてきたのか? だとしたら犯人は相当に意地が悪い奴なのだろう。全てを承知で、僕なら可能だと分かっていたなら――それはそれで腹が立つ。



「いいさ、踊ってやるよ――」



 24時まで、残り10時間。その間に第3階層から第9階層まで上がってやる。僕を動かした報い、必ず受けさせてやるからな!!


――――――――――――――――――――


※いつも応援ありがとうございます! サポーター様向けに近況ノートに現時点でのキャラクター表を限定公開しました。


最初にやっておけよ! っていう話なんですが、カクヨムさんに慣れてなかったので分かりませんでした…(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)ゴメンナサイ…


作品を面白いと思って頂けたなら、星での評価や♡の応援。感想などをお願いします。正直、滅茶苦茶モチベーションになっています。


それでは、お目汚し失礼しました。

今後も作品をお楽しみ頂けたら幸いです!!

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