機械少女は微笑まない

那由田 なむ

第1話 日常

ただひとつ

静寂


カチカチと時計の秒針が不気味なほど部屋に響く


料理の音だろうか…

包丁がまな板叩く音がはっきり聞こえる


色んな音が白く混じって聞こえているのに

それを静寂に聞こえるのは


今日も私が空っぽだからだ


ー7時、起床の時間ですラララー

「うん」


私の名前はラララ


漢字で書けるらしいが

作者がいちいち打つのが面倒なため片仮名表記らしい


今日もギガの指示を聞くだけの一日が始まる


ギガ

自律型のAIで私のパートナー

説明はそれだけで充分だろう


頭につけているヘッドホンみたいなのがギガだ


私の生活はギガが支えてくれる


ーその問題の式は…ー

「うん」


ギガの言うことを聞いていれば全て上手くいく


ークラスメートが接近中

笑顔のし方は先ず…ー

「うん」


これまでも


「ラララちゃんまた満点なんだ

すごーい!」

ー私はエナの方が凄いと思うなー

「私はエナの方が凄いと思うな」

「えー?本当~?ありがとー!」


これからも


そうあり続けられると思っていたのに…



カーテンからの木漏れ日が暖かい


うっすらと目が開く


明るい


でもまぁ、ギガが起こさないということは

まだ起きなくていい時間なのだろう


「ギガ

今何時?」


―…―


応答はない


「ギガ…?」


応答はない


こんなこと初めてだ

ギガが私のことを無視するなんて…


「ギガ?

ねぇ…

ねぇってば!!!」


今まで故障したことなど一度もなかった


物心つく頃からギガとは一緒だったのだ


わからないことは何でも教えてくれる

すべきことはすべて補助してくれる


そんな存在だった


ギガを耳に強く当てる


「ねぇ!!!

ねぇってば!!!」


応答はない


なんで…

私これからどうすれば…


これから…?

違う


今からだ


今から私は一体どうすればいいのだ…


「えっと確か…

一日の始まりにはギガが起こしてくれて…

それから…それから…」


思い出せない

自分が今まで何をしていたのか…


思い出そうとすると考えがまとまらなくなる

考えようとすると何も考えられなくなる


「なんでよ…!

なんでなんもできないのよ!!!」


泣いた

喚いた

自分の体を思いっきり叩いた

だが…


本当に

自分が何をすればいいのかわからず


ただただその場に座り込んでいた


下から声が聞こえる


男性の声


どうすれば…

私はどうすれば…


いつもみたいに教えてよ…


いくら願っても

当り前のようにいつも聞こえていたあの声は聞こえない


いら立ち

焦燥

悲しみ

寂しさ


あらゆる負の感情がラララの頭を渦巻いて

思考を邪魔する


すると

体が突如揺れる


何が起きたかわからなかった


目の前に男性がいて

こちらを心配そうに見ている


いや

見ないで


私を見ないで

そんな目で見ないで


その時ラララの頭の中で感情が爆発し…


「ああああぁぁぁぁ!!!!」


他人の声と錯覚するほど

自分の声とは思えない金切声が部屋中に鳴り響く


そこで私の記憶は途切れる

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