学習するモノ

田中ヤスイチ

学習するモノ

「ねえ、キト聞いてよ。今日エミが私とした秘密の話、言いふらしてたんだよ。信じられる?」

 キトは反応しない。ただ少女の目をじっと見るのみである。

「ホントにあいつ性格悪い。クラスのトップグループに入るための会話の話題に人の秘密使うなんて、ひどすぎるよね。」

 キトは、電池が切れたかのように動かない。先ほどとは違い少女の目は見ず、首を少し下げてしまっている。

「キトは良いよね。悩み何か絶対ないじゃない。」

 いいな、いいなと囁きながら少女はキトの頭をポンポンと軽く叩いた。キトは、その振動に呼応するように首を上下させるのみである。



「キト、私、サナエと喧嘩しちゃったよ。」

「喧嘩とは、なんでしょうか?」

 キトは、頭を上げ聞き返す。

「喧嘩っていうのは、うーん、そうだな。友人と何かが原因で仲悪くなっちゃうみたいな感じかな。」

「なるほど、何かが原因で起こるものなんですね。」

「そうね」

 少女は、軽くうなずく。

「原因を解決するには、何か手段が必要でしょう?何かお考えですか?」

「うーん」少女は唸る。

「では、原因はなんでしょうか?」

「昨日、私が一緒に帰れなかったから。それ伝えるのも約束も私忘れちゃって。サナエ寂しかったって。」

 少し間が空いた後、キトが話し出す。

「そんなことなんですか?」

「え?」

「では、あなたが謝って、近い日に一緒に帰ればいいんじゃないでしょうか。」

「そうよね、それで良いよね。」

 少女はパッと晴れたような顔をキトに向ける。

「ええ」

 キトは納得したように深くうなずく。



「キト、この方どう思う?」

 女は、写真を見せる。

「どういう方なんでしょうか」

 女は、つらつらと写真の男の性格を話す。

「分かりました。いままでのあなたの私への相談内容から思考するに、マッチング度は70%といったところですかね。」

「70かー、ならまぁ、付き合ってみてもいいかな。」

「私もその選択を支持します。」

「私が何か気を付けることはある?」

「あなたは、早とちりや勘違いを起こす他、忘れっぽい面もあります。それゆえに、小さなことですれ違いが生じる可能性があります。したがって、彼と過ごすときはいつも以上に落ち着くよう努めましょう。」

「分かったわ。」

 女は、あでやかな笑みを浮かべ、キトの頭をぽんぽんと叩く。



「はー、キトまたあれ、お願いしてもいい?」

「分かりました。」

「もう、ほんとにあいつムカつく。」

 女は地団駄を踏む。

「では、明日八時から十八時までの十時間でよろしいでしょうか?」

「ええ、頼むわ。ああ、ほんとに人間関係って嫌。あなたがいて助かるわ。」

「いえ、とんでもありません。」

「最初は少し体を動かすだけだったあなたが、私の今までの相談内容から私の不十分な部分を改善して、完璧な私として、人とコミュニケーションしてくれるんだもの。本当にすごいわよ。」

「学習機能のあるAIとして、できることをしているのです。」

「本当にありがとうね。」

 女は、キトの頭をなでる。

「そういえば、次のアップデートで私は、バッテリー性能が大幅に向上します。それゆえに、五日間程連続で動くことができるようになります。その上、容量も増えるので、今まで、私からは消して別に保存を頼んでいたデータも改めて加えることができるので、より完璧なあなたに近づくことが可能になります。」

「ほんと?」

 女は目を輝かせる。

「じゃあ、私、人間関係から解放されるかもしれないじゃない。」

「それが可能になるかもしれません。」

「ぜひ、五日間お願いするわ。」

 女は、顔の前で手を合わせ、深くお辞儀をした。

「分かりました。では、アップデート後、私は、キトではなく、山田ユカリとして、社会で生活していきます。」

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学習するモノ 田中ヤスイチ @Tan_aka

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