第64話 ズルいよ……
「よし、食べ終わったら足湯に行こう」
半分ほど食べ終えたとことで、スマホで予定を確認しながら言う。
「えぇ~、もっと食べ歩きしたかったのにぃ~」
「予定変更だ。俺の勝手なだけどな」
「なんで急に~」
ムスーっと頬を膨らませる双葉に、
「この後の撮影は足湯とあと旅館の紹介、夜ご飯だけでおしまい。あとはカメラなんて回さない」
と、予定の内容を伝える。
「え、それだけでいいの? 社長は結構撮ってみたいなこと言ってなかったっけ?」
「言ってたけど、それじゃぁここに双葉のご褒美で来た理由がないだろ?」
「まぁそうだけど、一応撮影なわけだし」
ここへ来た理由は、動画の撮影と双葉へのご褒美だ。
企画とは言っても、どちらを優先するのかと聞かれたら後者を取る。
ここまで来て仕事モードになんてさせたくないからな
「だから最低限の撮影はする。動画になるくらいのな」
「社長に怒られるんじゃない?」
「お前は怒られ慣れてるだろ。今さら怖がったって意味ないぞ?」
「そうだね……」
「俺も個室の露天風呂のシーンは絶対に撮れって言われたけど撮らない」
「へぇ、結構強気に出るね」
「温泉なんて足湯で十分だろ。それに双葉のお風呂シーンを見ていいのは俺だけだ」
「可児くんも怒られそうだね」
「俺だって社長に日々セクハラ発言をされてるんだ。このくらいしたっていいだろ」
と、俺は生意気に笑う。
多少なりとも動画の再生数に上下はあるとは思うがそれよりも大事なことがある。
数字に囚われいたら、本来の目的を忘れてしまうかもしれない。
それに、彼氏としては布一枚越しでさえ、双葉の体を他の人に見せたくない。
いくら仕事と言っても、決定権がある。それを選択するのは、社長でも双葉でもない。
マネージャーで彼氏である俺だ。
「食べ歩きは、明日明後日でゆっくりしようよ。カメラも回ってない2人の時間でさ」
この旅行は俺のためでもある。
これまで双葉は多忙でこうしてゆっくりと旅行する時間なんてなかった。
アイドルにYoutuber。そして高校生でもある。
俺も学校へ通いながら今は双葉のマネージャーをして多忙だし。
そんな生活をしている双葉と俺には、この旅行は貴重な時間だ。
撮影で来たとしても、休む時はしっかりと休みたい。
というか撮影をサボってでも2人の時間を大切にしたい。
「全責任は俺が取ってやる。だから双葉は楽しむだけでいい」
微笑みながら双葉の頭を撫でる。
「可児くん……こうゆう時にカッコいいの……ズルいよ……」
撫でられながらも俺の顔を見上げると、顔を赤くして目を逸らす。
普段は彼氏ずらできていないんだ。こうゆう時くらいカッコつけさせてくれ。
「双葉はいつも可愛いけど、今は格別に可愛いな」
照れている双葉の顔を意地悪く見つめる俺。
「ちょっと……ホントにズルいんだから……」
急に褒められて焦りながらも、嬉しそうにニコっと微笑む。
この顔こそが、本来の双葉。
カメラなんかに映してたまるものか。
アイドル活動よりも、世間の反応よりも俺を選んでくれた双葉を全力で守り、愛すのが俺の役目だ。
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