第62話 人のお金でご飯を食べたりしたいの!
「美少女……草津に現る!」
「自分で言うな自分で」
忙しい毎日を過ごしていると、時が経つのはあっという間だ。
社長に企画を提案されてから1週間ほど経った今、俺たちの姿は草津の湯畑前にあった。
ここに来るまでに一通りの仕事を終わらせた双葉は、編集地獄から解放されて早速羽を伸ばしていた。
俺も多忙というわけではないが、双葉もノウハウが分かってきた頃なので代わりの編集に業務を移行してもらう作業や、案件などの対応。事務所の雑務までしっかりとこなしていた。
学校終わりにこの仕事量はしんどいところではあるが……全てはこの日の為。
ちなみに、今日も平日なので普通に学校があるが、問答無用で休んでここに来ている。
草津で誰にも邪魔されずに記念日を過ごせるというのに、それをやめてまで学校に行く必要なんてない。
……定期テストが近いことは知らなかったことにしよう。
「さて、何からしようか」
バッグからビデオカメラを取り出すと、調整をしながら双葉に聞く。
「そうだなぁ。まだ旅館のチェックインには早いし、とりあえずブラブラする?」
「無難にそうするか」
「撮影しながら、2人で行く場所をリサーチしておこ」
「お、ありだな」
「今日はカメラなんて気にしないからね」
「また炎上したくないなら、多少は気にしような」
石造りの柵に持たれかかる双葉に、苦笑する俺。
完全なオフを作りたいのなら、まずはやることをやってからだ。
本腰を入れなくていいものの、気の抜きすぎは厳禁だ。
「あそこにある温泉まんじゅう食べたい!」
俺の話を聞いていたのか分からないくらいに、双葉はカメラの存在を忘れている。
ま、とりあえず今日一日はカメラを回しておこう。変な画が撮れてしまったとしても編集で何とかなる。
ファンに出くわしてしまうのが最悪のパターンだが、そこまでは心配いらないだろう。
双葉に恋人がいるというのは世間に知られているものの、相手が俺だとは誰も知らない。
もし指摘されても、マネージャーとでも言っておけば凌げる。実際嘘は言っていないし。
「今日はなんでも食べてくれ。お金なら社長から余るくらいに貰ってるから」
子供のようにはしゃぐ双葉を見て、俺は後ろから声を掛ける。
撮影の予算とは別に、社長個人から双葉への労いを込めてお小遣いをもらった。
それが草津で一週間泊っても豪遊してもお釣りが出るくらいの金額だ。
「マジ! 社長太っ腹~!」
「散々迷惑かけたのに、優しい人だな」
「でも今事務所に貢献してるのは私だし? あそこの稼ぎ柱になってるんですけど?」
「否定はできないな」
「だからこのくらいは貰って当然じゃない?」
「お前は、その前に一生遊んで暮らせるくらいの貯金があるだろ」
「私は人のお金でご飯を食べたりしたいの。それに社長のお金とかいくら使っても罪悪感が湧かない」
「相変わらずいい性格をしてるな」
貰った以上、俺もお言葉に甘えて使わせてもらう。
どれだけ散財しても今回は何も言って来ないと思うし。ちょっとくらい羽目を外してもいいかもしれないな。常識の範囲内での話だけど。
「そうゆうことだから、とことん楽しむぞ」
「任せなさい。私はどんなところでも満喫する天才だ」
向かい合い、お互いキメ顔をしながらグータッチをする俺たち。
こうして『だ天使ちゃんのまったり旅行 ~草津温泉~』が始まったのだった。
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