第5話 やけくそ
「嫌われるって、具体的にどうやるんだ」
人に嫌われるなんて簡単な事だ。いくらでもやりようがある。
どの程度にもよるが、双葉のやりよう次第で好感度も嫌悪も操作し放題だ。
「私の本音を赤裸々に語るだけだよそんなの」
「これまで思ってた事を全部?」
「もちろん! ファンに思っていたことだったり、可児くんへの思いだったり、その他諸々全部話そうと思うよ?」
「炎上どころじゃなくなるぞ……」
「いいの! もうここまで来たら全力で嫌われに行かないとヤリ損でしょ!」
「やけくそだ……」
「来週の月曜の夜に引退会見だから、それまでに全部言うこと考えて、ファンが暴動を起こさないように対処もさせて……やることがいっぱいだぁ~」
どこか楽しそうにはしゃぐ双葉。
どう見てもアイドルを引退するテンションではないようにも思える。
普通なら、どんな引退理由でさえ最後くらい涙を見せる展開がポピュラーだ。
しかし、双葉はその逆で笑顔を見せている。
その理由は、多分俺にしか分からない。
双葉がアイドルから解放されるというのは、世の監視から解放され、自由を手に入れる。
青春を手に入れるという高校生が一番欲しているものを掴み取るんだ。
これ以上嬉しいことはないだろう。
いつも、ライブの後や握手会の後に愚痴を漏らしては泣いているのを目にしているのは、ファンでもマネージャーでもなく俺だ。
やめたいと言ってもやめれない、逃げたくても逃げれないのが現状。
だけど吹っ切れたようだ。
だから俺は、双葉がアイドルをやめようが、炎上しようが、雲一つない笑顔を見るのがこれほどにもない幸せなのだ。
「私、頑張るから可児くんからご褒美が欲しいなぁ~」
と、俺の方に体を倒す。
「ご褒美ってなんだよ」
上目遣いで見てくる双葉を、細い目で見つめ返す。
「そんなの決まってるじゃん」
「ケーキ奢れとか?」
「違うよ~。私たちが何かやる気を出したり、特別な事が終わった時にするアレだよ~」
「……俺、今日疲れてるからまた次の機会に―――」
言いかけた途端、双葉は俺をベッドに引きずり上げる。
そして、馬乗りになり、手首を抑えられ完璧に身動きが取れなくなる。
「逃がすわけないじゃん」
耳元で囁くと、徐に服を脱ぎ出し、下着姿のまま俺の上に倒れ込む。
「今日は、私が満足するまでシてもらうから――」
俺達が特別な日にする行為。というか単純に双葉が忙しすぎて頻繁に出来ない行為。
男女が2人、ベッドでする事と言ったら一つしかない。
今日、その日が久しぶりに訪れ、激しさがいつもより倍な事はこの後すぐに分かることであった。
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