第4話 選手交代したいのだが?
翌日――
大急ぎで王都に戻った俺は、アリアの目に留まった物、その全てを買い漁った。
ローザからモンスター討伐の分け前を十分に貰っていたため、資金は潤沢にある。
本来それらは王都を旅立つ前に支度を整える為の物だったけれど……。
俺には関係ない。
俺は。
はずれスキルしか持たない俺は、この先アリア達と共には行けないから。
だから、アリアが欲しがりそうなもの、アリアに似合いそうな物も何でもかでも片っ端から買い込んだ。
少しでもアリアのちょっとだけ大切な物が増える様に。
この先、これらがアリアの
綺麗な護符やブレスレットを売る露店の前を通った時だ。
アリアがふと足を止めた。
アリアの視線を追えば、そこにはトパーズの首飾りがある。
貴重性も低い石に穴を開けそこに革ひもを通しただけの、実に簡素な物。
アリアにはもっと良い物の方が似合うように思ったが、気に入ったのならそれも買ってやろうか。
そう思った時だ。
その石の色が、アリアが
『お爺ちゃんの瞳の色と一緒』
そう言った蜂蜜の飴と同じ色をしている事に気づいて辞めた。
自分の瞳と同じ色のアクセサリーを送るなんて。
そんな独占欲丸出しの行いは、『お爺ちゃん』が『孫』にするには全くふさわしくない。
「アリア! こないだやった蜂蜜の飴を売ってる店を見つけたぞ!!」
俺はアリアがその首飾りを見ていたことには気づかなかった振りをして彼女の手を取ると、その場から逃げる様に走り次の店に向かった。
◇◆◇◆◇
色んな味のする飴を大量に買い込んで。
流石にこれ以上は旅の邪魔になるとアリアに言われ、更なる買い物は断念したときだった。
「ハクタカ、いいところで会った! 新しい仲間を紹介するからちょっとギルドに寄って行ってくれ」
ばったり出くわしたギルマスにそう声をかけられた。
これも俺の念願の田舎でのスローライフの為と、嫌がるアリアをローザとレイラと何とか説き伏せギルドに向かった。
ギルマスから紹介されたのは、トレーユという賢者だった。
僅かに癖のある明るいブロンドの髪と煌めくエメラルドの瞳。
彼のその正体はなんと、人格にも優れたこの国の第四王子様なのだという。
トレーユは元々は神官だったが
彼のスキルは二百年に一人とも言われる『矛盾』
攻撃にも回復にもずば抜けた力を持つと聞く。
そしてどこからどう見ても金髪碧眼高身長で引き締まった体をしたイケメン。
しかし、その立ち振る舞いやかっちり着込んだ服装から妙に生真面目で誠実そうな印象を受けた。
『コイツならアリア達を守ってくれるだろう……』
そんな事を思った瞬間、安堵感からなのか、それとも張っていた気が抜けたのか。
俺は自分の体から力が抜けていくのを感じた。
「本当はトレーユ様が最初からアリア達をサポートするために入って下さる事になっていたんだが、到着が間に合わなくてな。ピンチヒッターとしてハクタカを紹介させてもらったって訳だ」
ギルマスよ……。
詳しく聞かされていなかったから、うっかり押し切られて引き受けてしまったが……。
荷が重いにも程があるだろう?!!
月とスッポンどころか、太陽とありんこ以上に違い過ぎる!!!!
ローザもレイラも
「「成程!」」
って頷いていないで
『こんなはずれスキル持ちが、ピンチヒッターってなめとんのかー!!!』
って。
俺を哀れと思うならせめてツッコんでくれ。
「…………」
ダメだ。
このパーティーにはボケが飽和している。
悲しいかな、もう俺自身でツッコむしかないのか???
そう思った時だった。
「いらない」
ぼそっとアリアが呟いた。
「えっ?」
何の聞き間違いかと思い皆で声を揃えて聞き返せば
「いらない……新しい仲間なんていらない! レイラとローザとお爺ちゃんだけいればいい!!」
アリアがそんな事を叫んだ。
「お爺ちゃん?」
一人ぽかんとする
しかし、アリアは頑として聞き入れようとはしてくれない。
お前からも何とか説得してくれ!
仮にも人望厚き第四王子かつ聖職者様なんだろう?
そう思わず目でトレーユに助け舟を求めれば、トレーユはそんなアリアの態度に腹を立てることもなく
「命を預ける仲間だ。突然現れて、いきなり信頼しろと言われても受け入れがたい気持ちは理解出来る。僕はしばらくここに滞在して君達の信頼を得られるのを待つよ」
と、大人しく引き下がってしまった。
なんだよ??!
お前もいいヤツかよ!!?
そこは
『こんなはずれスキル持ちがこの僕の代役とは片腹痛い。さっさとどこへなりと失せるがいい!!』
とか何とかいって華麗に俺を追放する絶好のチャンスだったろう?!!
帰り際、一刻も早くギルドを出て行こうとするアリアの背中に向かい、トレーユが落ち着いた声で言った。
「魔王の出現により、各地の魔物の被害は日に日に大きくなっている。遅れてきた僕が言えたセリフで無い事はよく分かっているが、あまりこんなところでのんびりしていられないのもまぎれの無い事実だ。その事は覚えておいて欲しい」
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