第3話 ただのはずれスキルの無駄遣いなのだが?
その後も――
俺はアリアから追放を宣言されるべく、日々自分の持っているスキルをアリアを甘やかす事だけに惜しみなく費やしていた。
前にも言ったが俺のスキルは『親の七光り』というユニーク(はずれスキル)で、日に七回だけ、親の持っていたスキルや力を自分のものとして使う事が出来る。
俺の父はパラディンで持っていたスキルは『守護』、母は僧侶で持つスキルは『治癒』
だから一応親父の力を使い剣を振るえば、ローザと共に攻撃に回れないこともない。
しかし、アリアとローザの
なので……。
「お爺ちゃん、喉が痛い」
東で昨晩毛布を盛大に何度も蹴飛ばして寝冷えをしたアリアがそう言えば、行って『治癒』のスキルを使って回復魔法をかけた上で蜂蜜を固めた飴をレイラにバレないようにこっそり渡してやり、
「お爺ちゃん疲れた」
西でアリアがそう言えば『守護』のスキルを使って身体強化をした上で、アリアの気が済むまで負ぶって歩いてやり
「お爺ちゃん虫が!!!」
南の洞窟でアリアがそんな死にそうな声をあげれば、『守護』と『治癒』の合わせ技『聖なる光』で辺りを照らし暗い所を好む虫を追っ払ってやり、
「お爺ちゃんレイラとローザが、お爺ちゃんに甘えすぎだって叱るの」
北でアリアがそう言いながらシュンとしていたら、俺が変にアリアをかばいだてして代わりに二人からこってり叱られたりと……。
本当にしようもない事ばかりしていた。
◇◆◇◆◇
母の力を使って手早く夕食の下ごしらえを済ませ鍋を火にかけ、それらが煮えるまでの片手間に、短いアリアの髪を可愛らしく編み込んでやっていた時だった。
レイラがその場にガクッと膝をつき
「ハクタカさん、私より女子力高いなんて。アリアもローザも怪我なんて滅多にしないから、アリアのお世話が私のこのパーティーにおける存在理由だったのに……。攻撃も治療も出来るハクタカさんがいる以上、『再生』のスキルしかない私って、もしかしてこのパーティーからそのうち追放されるんじゃないでしょうか」
と、そんなとんでもないことを言い出した。
この高位スキル持ちは何を血迷ったことを。
ローザの持つ『破壊』も凄まじいが、『再生』もそれに匹敵する百年に一人いるかいないかの逸材だぞ?!
滅多なことを言うんじゃない。
追放される
「俺のはあくまでスキルだからな。スキルを使わないとただの不器用なお爺ちゃんだぞ?」
レイラに去られでもしたら大変だと慌てたのだろう。
俺の言葉に同意するように、アリアが俺の横で全力でブンブン首を縦に振っている。
「そのスキルも日に七回しか使えない、所謂はずれスキルだし」
アリアが引き続き首を全力で縦に振っている。
そこは少しフォロー……。
いや、分かってるなら早く
脱力して肩を落とせば、アリアが不思議そうに俺を見た。
「そう言えば、アリアのスキルって何なんだ?」
何気なく振った俺の話題にアリアがギクリと固まる。
何だ? 聞いちゃ悪かったか??
そう思ってローザを見れば
「アリアのスキルは『生贄』だ」
ローザが少し声を潜めるようにして、そう教えてくれた。
「生贄?」
ローザやレイラのスキルの様に聞いた事はない。
俺と同じユニークと類されるものなのだろう。
「攻撃の時には自分、回復の時には相手の『大切な何か』を生贄に効果を発動するスキルだ。……代償が大きい程効果も大きい」
それでか。
ローザの話を聞いて色々納得がいく。
俺はずっとアリアのことを物をよく無くすドジっ子だと思っていた。
『喉が痛い』
アリアがそう言うから蜂蜜の飴をコッソリ渡した時、アリアは
『お爺ちゃんの目の色と一緒』
と喜んで食べずに大事そうにポケットに仕舞っていた。
しかし後日、
『いい加減溶けてベタベタになる前に喰えよ』
と言った時、アリアは実に気まずそうに
『なくしちゃった』
そう言っていたのだ。
思えばその少し前に、この辺りにいるはずのない強敵であるオークキングから奇襲を受けた際、その首をアリアが鮮やかに刎ねたのを見た。
アリアは以前、別のパーティーにいた時に足手まといだからと森に置き去りにされて死にかけたことがあるのだとレイラは言っていた。
アリアの事だ。
パーティー内で上手く立ち回ることも出来ず、仲間を守る為自分の持っている大切な全て使いつくしたところで、暗い森の奥深く一人置き去りにされたのだろう……。
「行くぞ!!」
思わずアリアの手を強く掴んで立ち上がれば、
「どこに???」
「ハクタカさん落ち着いて!!」
「もうアリアを置き去りにしたパーティーは全滅してると言っただろう?!」
俺がかわいい
皆が慌てた声を出した。
「何の話だ?? 全滅したやつらのことなんか心底どうでもいい! 向かう先は明白だろう? 菓子屋と服屋とおもちゃ屋だ!!!」
そう言いながら拳を握りしめる俺を見て。
三人が訳が分からないとポカンと口を開けた。
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