第1話
柏木誠 三十三歳。
人付き合いはあまりせず、仕事もやってはすぐ辞めてしまい、今は無職でなんとなくな毎日を送る男。
ある晴れた日の夕暮れ時。
誠はひとり公園のベンチにいた。
お昼時はサラリーマンやOL達がベンチを占領しているような公園で木々もたくさんあり鯉などが泳ぐ池もあった。
春から夏へと変わろうとしている時期で、せっかちな夏の虫達が囁く心地よい夕暮れ時だった。
『あ~夏っぽくなってきたな~。
しかし今日も面白くない日だな。
あいつはうるさいし仕事は見つからないし・・・
ハァ~ため息ばかりだ。何かおもしろい事でも起こらないかね〜』
誠の頭の中はまるでカラスが荒らしたゴミ置き場のように散らかっていた。
今の事、将来の事、うるさい先輩の事や
お金の事・・・
考え直さなきゃいけない事はたくさんあった。しかし『なんとかなるさ』と行動にはなかなか移せないでいた。
そんな浮かない気持ちでタバコを吹かしながらベンチに座っていると、誠の前を少し茶髪のロングヘアーでモデルなみのキレイな女性が歩いてゆく。
と、その後ろをメガネをかけた真面目そうな男が少し距離を空けて歩いていた。
その男は後ろから前に回り女性のほうを振り向き、また後ろに回りと何やら怪しげな動きをしていた。
『なんだあいつ…友達でもなさそうな。
なんか怪しいな~』
誠は何気に男の動向を見ていた。
何かを探っているような、獲物を仕留めるチャンスを伺ってるような。
そんな事を思いながら。
と、次の瞬間!
ありえない事が誠の目の前で起こったのだ。
『・・・うん⁉︎ 』
その信じられない出来事に誠はびっくりするも、唖然とした表情でただ見つめていた。
なんと。
メガネの男が突然消えてしまったのだ。
それは一瞬であった。
『ハァ〜?
確かに男はいたし、男は消えたぞ!
何か番組なのか?どこかにテレビカメラでもあるのか?』
突然目の前の男が消えたのだ。
そんな風に思うのがベストだろう。
誠はベンチから立ち上がり、
男が消えた場所に駆け寄り周りを見渡すが
メガネの男はいない。
それにテレビカメラもありそうにない。
『う〜ん。おかしいな〜。
どういう仕組みなんだろう?』
誠はまだ辺りをキョロキョロと見渡しているがやはり何も出てきそうにない。
そしてふと下を見ると。
そこにあの男の物と思われるメガネが落ちていたのである。
男が消えたときメガネだけは消えずにそこに落ちていたのだ。
それはブランドものや高価な感じではなく、
ごく普通の黒縁メガネだ。
『なぜメガネだけ残ってるんだ?
マジック失敗か?』
誠はそのメガネを拾い、探るように見つめたあともう一度周りを見渡し、さり気なく上着のポケットにしまいこんだ。
『いったいなんだったんだ。
ま、なんにせよ人間がいきなり消えるなんてありえないんだからやはりマジックかビックリ系のロケでもやってたんだろ。
さってっと。帰って飯でも食べるか~』
そんな風にこの出来事を締めくくり
誠は公園を後にし、何もなかったかのように
家路を辿った。
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