天帝の星を導く〜王族専属風水師
水無月せん
第1話 風水師の血筋
〈 1 〉
幼いころ、祖父の膝の上に座るのが好きだった。
長い黒髪をなびかせて駆け寄る。背を向けて腰を下ろすと、黄色い衣装の裾が花びらのようにふわりと広がった。
祖父は木製の薄い円盤を手に持たせてくれた。
「これは羅盤」
「らばん……?」
座ったまま振り向き、白髪の祖父・
「方位の吉凶を調べる道具だ。風水師はいろいろな方法で吉凶を探り、人々を幸せに導く仕事だよ」
「おじいさま、おとうさま、私も?」
「そう、
白氏は代々風水師として皇帝などを支える由緒正しい氏族で、祖父は先の皇帝の専属風水師だった。
羅盤の中央には方位を示す針が埋め込まれていて、その周囲を文字や記号が何重にも囲んでいる。
眺めているだけでわくわくする。
天と地と、世界を構成する目には見えないすべてもの。知ることはひたすら楽しく、得た知識を自在に引き出せるようになれたら、もっと楽しいに違いない。
羅盤は大人の手のひらに乗せるにはちょうどいいが、子供の手には大きすぎる。掴んで、掲げて見る。
まるで世界を眺めているみたい。
祖父が出す道具は遊具よりもずっと魅力的だ。
「おじいさま、あれ出して! 神さま呼ぶやつ」
祖父は襟元から長方形の紙を出した。文字にも絵にも見える何かが書かれた札。
私は羅盤を足下に置き、札を受け取って息を吹きかけた。
ふわっと空中に浮き、くるりと回ってから空中で膨らみ白い塊となる。少しずつ細く伸びて蛇のようにうねりだす。青みが差し、先端がしっかりとした顎を持った顔になる。
二本の角と髭。
青龍だ。
腕に収まりそうなくらいの大きさなので怖くはない。
「こんにちは」
宙に浮く青龍に話しかける。
『用もないのに呼ぶではない、小娘よ』
つれない返答に頬をふくらませる。
祖父が言うには、神獣を呼び出す能力を持つ風水師はごく稀らしい。自然界にある気を繰り護符を使役に変えることから、この能力を持つ風水師は繰り師とも呼ばれる。
「この力を、気を繰る能力を鈴華が受け継ぐとはね」
祖父は愛しげに微笑んでいたが、私はまだ幼くて、言葉に滲む不安に気付けなかった。
「青龍はいつも冷たいよね。次は青龍じゃなくて朱雀に来てもらおう」
『そうすればいい』
「もう!」
風水師は呪術師ではない。優秀な風水師に何より必要なのは知識だ。だけど気を感じて繰る力があれば最強だろう。
ほかの家族でこの力を持っているのは祖父だけだ。
風水術の知識を重ねながら成長していった。
女性が好む華やかな衣装も、化粧や髪飾りも興味がなかった。
星を眺め、地形を読む。それ以上に楽しいことなどない。
だけど時は流れ、体つきも年相応となった。第三皇子との婚姻の話がきたのは、成人を迎えた翌年だった。
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