第四章 大好きなあなた
11本目
【もしも……また……あなたに会えたら……今度こそ伝えたい想いがあるの】
今、わたしは王都にいる……憧れの王都。友達も周りの大人達はみんな声を揃えて言う……王都は流行の最先端で一度は行ってみたいって。
てっきり王子様への贈り物のご褒美に領主様に招かれたのかと思って観光を楽しみにしていたのだけど、実際はお披露目までに木が枯れてしまわないように世話をしろと言う事だった……それなら最初から言ってよ!
今は王都にある領主様の別荘に滞在していて、わたしとお父さんが特にやる事も無いのに木の様子を見ている振りをしている。
そうなのだ、特にやる事は無いのだ。
わたしの育てた木は不思議な事に普通に適度な太陽の光と水があれば枯れたりはしない。そもそも前世の日本とこの国の気候が違うのに、木は何の問題も無く育っていた。
何故問題ないって分かるかって? それが何故か分かるのだ。これもジョブのお陰なのかもしれない。
だからといってそれを説明するわけにはいかないので、さも世話をしているフリをしているの……はぁ、今頃お母さんとお兄ちゃん達は王都の観光を楽しんでいるんだろうなぁ。
「すまないなアーリャ、本当は皆と一緒に行きたかったのだろう?」
顔に出てしまったのかお父さんが気遣ってくれた。
「ううん、大丈夫だよ。きっとまた後で見に行く機会があると思うから」
あるよね? お披露目終わったらいきなりバイバイとかないよね? あるといいなぁ~。
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □
そんな感じでお披露目当日はやってきた……うん、もちろん木には何も問題なかったよ。領主様も王子様へ献上さえ済んでしまえば、お抱えの林業師がいるから大丈夫だって言っていた。
わたしは植えられた木を最終確認して御役目終了となりました。植えられた場所はお城の敷地内だけど一般に開放されている公園のような場所だった。
少し高台となっている場所でお披露目の間は高台には進入禁止で、見たい人は下の広場に集まる事になっている。
下の広場にはもうお披露目のために待っている人がいた。
「何あの木、超綺麗~ 早くから並んだ甲斐あったわ~」
「みんな『昼ぐらいに集合しよう』ってなってたんですけど、なぜか俺の集合時間だけ5の鐘だったんですよ」
「王子様はどんなお子様なんだろうねぇ?」
たとえ王都でも人々は娯楽に飢えているから、みんなこの日を楽しみにしていたみたい。でもわたしはさすがに今からお昼までここで待つ気力は無いな~
「アーリャ、そろそろいくぞ、またお昼になったら来ような」
「はーい」
王子様も気になるけれどわたしの興味は既に王都の見物に向かってしまっている。はやく見回りたいな~。
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □
お昼前に広場にやって来ると……うわぁ~、もの凄い人だかりだ。さっきはあれほど近くで見れた桜の木があんなに小さい。
「アーリャ、抱っこするからもうちょっと前に行こうか……おっと、もうすっかり大きくなっているな」
お父さんはわたしを抱っこしてくれると人垣を進み始めた。
『おおーーーーっ』
みんなの声が大きくなった……どうやらお披露目が始まったみたい。何だか偉そうなおじいさんのお言葉が続いている。わたしは桜の木の方を見るけど、人垣を縫いながら進むせいで向きがめまぐるしく変わってよく見えない。
「ふぅ、ふぅ、もう、ここらへんで、いいかな?」
「うん、ありがとう」
わたしを抱っこしたまま人垣を進んだお父さんがバテてしまった。まぁ、かなりの重労働だったと思うしね。
再び桜に目を向けるとそこに小さな男の子が立っていた。
「え?」
桜が舞い散る木の下で……金髪の青い目をした少年が笑っていた。もちろん初めて見る顔……見る顔なんだけど……とても上品な布で作られた服を来て、生まれた立場が違うんだなってハッキリ分かるような雰囲気。
わたしはその人を一心に見上げて……でも、高台にいるあの人の目にはきっとわたしは映っていない。
……桜の花びらが舞い散る木下で彼が微笑んでいる。
「……まーくん」
姿も顔も全部違う……共通点なんて無い。でもわかる……心が……魂が叫んでいる。16年一緒だった……もう5年も会えなかった……だいすきな人。
……わたしは生まれ変わって、見た事も無い違う世界で再び彼を見つけた。
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