二日目:本当の地獄は
授業が終わって、私とリリカは教室に二人残った。リリカは口を利ける状態ではなく、私から話しかけない限り沈黙が続くだろう。私から話しかければ、彼女は首を縮めて震える目でこちらを見つめた。
「……文芸部、行く?」
「で、でも……でも、文芸部に行ったら……昨日と同じことに……」
「私もそう思う。だけど……」
スマートフォンを見る。文芸部グループには連絡がたくさん来ていた。男子たちと先輩二人のやりとりが続いている。
カリヤとマナミ先輩、そしてウヅキの連絡は無い。代わりにずっとヒイラギ君とハヤト、ヨザクラ先輩で会話が行われていた。その結果、とりあえず状況を確認したいからとヨザクラ先輩が文芸部に集まることを提案していた。
「ウヅキは来ないかもだけど、皆は文芸部に集まるみたいだから……」
「そう……そうだよね。皆集まるもんね……」
そう言って立ち上がるリリカだったが、その足取りは安定しない。私が支えることでようやく立ち上がったというところか。ごめんね、とリリカは申し訳無さそうに言う。
二人でなんとか文芸部に辿り着いたところで、ふらり、目眩がする。二人で倒れるか、と思ったところを誰かに支えられた。顔を上げれば、好青年が立っていた──ヒイラギ君だ。そして、辺りは薄暗くなっていた。昨日見た悪夢と同じ光景が広がっていたのだ。
きゃあ、とリリカが声を上げて尻もちをついた。そんな彼女を救うようにしてヒイラギ君が手を引く。
「二人とも、大丈夫?」
「わ、私は大丈夫……マキちゃんは?」
「おかげさまで、私は──」
「大丈夫なんかじゃないわよ!」
私の声を掻き消すように一人の女子が声を上げた。大きな声にびくっと肩が跳ねる。そちらに目を向けると、ウヅキが一人で部屋の隅で座り込んでいた。マナミ先輩が近づこうとして拒絶されている。あぁ、と情けない声を上げてマナミ先輩が手を縮こめていた。
「こんな状況で大丈夫だと思うの!?」
「り、リオちゃん……」
「私は帰ったはずなのに……どうして部室にいるの!? 誰が連れてきたのよ!」
「それは僕も同感。部室に来るなんて悪手すぎると思って僕も帰ったはずなのにここにいるのは疑問」
声を上げるウヅキに同調するようにカリヤが続けた。ハヤトは白い頭を掻きながら、まぁまぁ、と困ったように笑った。
「確かに愚策だったかもね。でも、結局ここに辿り着いちゃったってことで……」
「なんであんたはそんなに呑気なのよ……!」
「呑気じゃないよ、別に。騒ぐよりもっと生産的なことをしたいだけで」
へらへらと笑顔を浮かべながらも辛辣なハヤトに、ウヅキが食ってかかろうとしたが、これもまたヒイラギ君が止めた。ハヤトは、困るなぁ、と一人呟いていた。
さすがにウヅキが可哀想で、私はハヤトを諫めるように口を出した。
「人が消えた状況でパニックになるのは当然だと思う。ちょっと言いすぎじゃない?」
「そうだよ、ハヤト。こんな状況で対立したら向こうの思う壺だよ──」
『おー、揃ってるね、文芸部員たち! どうかな、これがデスゲームだってようやく実感してもらえたかな?』
ヒイラギ君の声に被さるようにマイクのハウリングが聞こえてきた。スピーカーに視線が集中する。ヨルの声だ。
ウヅキが吠え返すように、何が目的なのよ、と言った。すると、うーん、と唸るような声が聞こえたあとに、子供っぽい無邪気な笑い声が続いた。
『今の凄惨な状態を見ることかな! 今のキミたち、最高に面白いよ!』
「面白くないよ。人が死んでるんだもの」
ヨザクラ先輩が静かに返す。私たちの間にあった、高まっていた感情の波が消えていくようだった。ヨルは言い負かされたように沈黙を挟んだが、すぐに、つまんないの、と拗ねた様子で返事した。
『まぁまぁ、着席してよ。今日も話し合いをして一人殺してもらうからね』
「誰がそんなこと──」
『あ、ウヅキリオ、キミたちに拒否権は無いよ。そろそろオレは飽きてきたから、早く話し合いしてね』
「……話し合いをしようか、皆……また一人適当に殺すって言われたら、怖いもんね……」
ウヅキが立ち上がり、椅子に足を開いて座った。ヨザクラ先輩の言葉に従う気になったようだ。ヨザクラ先輩はウヅキの隣に座る。
ヨザクラ先輩がここを纏めるのも当然だ──彼女は副部長なのだから。そして、誰よりも落ち着いているのだから。
マナミ先輩がイヤホンを外し、その隣に座る。ヒイラギ君は足を揃えて座ると、ほら、カリヤもこっちに、と言って一人威張っていたカリヤを手招いた。ハヤトはカリヤの隣に緩く座った。カリヤが腕を組んで座れば、残りは私たちだ。
リリカは辺りをきょろきょろ見ながら座った。ポニーテールが揺れて、まるで怯える小動物のようだ。最後に私が座れば、一つ空席になって、八人が座った。
誰を殺すのか、話し合いが始まる。空調も無いのに、足元から冷えるような感覚に襲われる。空気がぴりっと凍てついて張り詰めた。
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