第0歳

 2005年9月15日22時8分30秒。この瞬間に2つの大きな出来事が起こったのである。

 

 1つ目は、福岡県のとある場所の客足の少ない古い産婦人科を震源地とした地震である。震度は4強。もちろん古い建物はそれなりのダメージを受ける。棚からは埃の積もった書籍や、様々な物が崩れ落ちてきた。そして、停電も起きた。


 その瞬間、震源地の産婦人科では1人の男の子が誕生した。その子は生まれた瞬間地震が起きたため、すぐに看護婦によって抱えあげられた。


 抱えあげられた瞬間だった。懐中電灯がコロコロと棚から落ちた。その懐中電灯は落ちた衝撃で電源がついた。そして真っ暗な室内の中央を照らした。照らされた部分は埃が舞い上がり曇っていた。その埃がすーっと薄くなっていった時、懐中電灯によって一筋の光が生まれた。幻想的な中照らされていたのは、この瞬間に生まれたあの男の子であった。


 そう、これが2つ目の起こった大きな出来事である。


 室内にいた全員がその男の子に注目した。室内は男の子の威勢のいい産声以外何の物音も立たなかった。


 全員が我に返るには数秒かかった。全員そのライトアップされた男の子に見とれていたのである。唯の0歳にだ。


 無事、院内の職員達も母親も生まれた男の子も地震による怪我はなかった。そして、母親と男の子は元気に病院を後にした。


 この事件は後に『神童爆誕事件』として後世に語られるのであった。



「そろそろ名前を決めないといけないわね、あなた」

 そう言うのは男の子の母親、龍凰院 暁美である。

「あぁ、そうだな。この神童に相応しい名をつけなければならないな」

 この自分の息子を神童呼ばりするのは男の子の父親、龍凰院 千疾である。

「そうね、確かにお義父さんの病院でこの子が生まれた時はまるで、神童のようだったわね」

 そう、あの産婦人科は千疾の父の病院だったのである。

「俺はこの子に何事も躊躇をしないで、突っ走っていくような子になって欲しい」

「でも、躊躇することもたまには大事よ?」

「だから、躊躇を破ると書いて『躊破ちゅっぱ』ってのはどうだ?」

「躊躇することによって、危険を回避出来ることだってあるのよ」

「そうか、賛成してくれるか。じゃあ、お前の名前は『躊破』だ!!!」

「そういえば、躊躇って漢字難しいわね、うふふ」

 そう、2人とも相手の話はまったく聞かないタイプなのである。いつも、話が通じるのは会話の最初だけなのであった。


 このようにして龍凰院 躊破は誕生したのであった。


 神がかった演出で躊破が生まれたのは、偶然か必然か、それは神のみぞ知る。

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