第53話 決壊

 私はガーネットさんとバザールで会った後、その場で別れて家へと帰った。お買い物した食材を閉まっていると、ドアノッカーが鳴った。扉の向こうにはガーネットさんとグレイ、彼女には直接家に来てほしいと話していた。グレイも一緒なら彼も伴って――、と。


 来客用の椅子を並べてそこに座ってもらった。彼女たちは私が話し出すのを待つように黙っている。


 それはそうだろう。一度は突き放したのに、再び例の赤いスカーフをしてコンタクトを待っていたのだ。不思議に――、いや、不信に思っているに違いない。



「ごめんなさい。まさか本当に話しかけてくれるなんて――、ありがとうございます」


 私は謝罪とお礼を一緒にしたお辞儀をしていた。


「ノワラ様、謝らないで下さい。貴女が私たちを嫌うのは当たり前で、邪険にされて当然なんです。それに先代の聖女様の行方についてきっちりと伝えてくれたわけですから」


 ガーネットさんの隣りに座るグレイも無言で頷いていた。


「いくつか、お話したいことがあるんです。それで……、まずはこれを見てもらえませんか?」


 私はテーブルに、両親から届いた手紙の束を2つに分けて置いた。


「……これは?」


「私の両親から届いた手紙です。父と母は月に一度手紙をくれて、時々交代して書いていました。これはその手紙を父の分と母の分に分けたものです」


 ガーネットさんは難しい顔をして手紙を見つめている。グレイは無表情だ。きっとまだ私がなにを言いたいか測りかねているのだろう。


「先日、両親と会ったときに、古い手紙を読み返すように言われたんです。その時は特に意味なんてないと思っていました」


 私は母から届いた手紙の束を1枚ずつ並べてガーネットさんたちが読める向きに並べていった。


「最初はただの偶然と思いました。だけど、父からの手紙も同じようになるんです……。こんなの絶対におかしいです!」



 私が両親の手紙を読み返して気付いたこと。1通1通は単なる近況を記した他愛のない手紙だ。ただ、それを父の分と母の分に分けて、届いた順番に並べて手紙の最初の文字だけを拾って読んでいくと……。



『に・げ・ろ・く・に』

『き・険・き・よ・う・団』



 この並びが2度繰り返されていた。


「逃げろ、国。危険、教団……、こんな並びが2度も並ぶなんて絶対におかしいんです!」



 話している間に涙が溢れてきた。体が勝手に震えてくる。なんなの? 一体これはなんなのよ?


 視界に純白のハンカチが映った。ガーネットさんが差し出してくれていた。私は涙がテーブルに落ちる前にそれで涙を拭った。


「ありがとうございます……。私、どうしていいかわからなくて。誰に話してもいいかわからなくて……」



 両親の手紙には「教団が危険」とある。だけど、私の周りにいるのはみんな聖ソフィア教団の関係者だ。誰かに相談したくても話せば、なにか危険な目に合うかもしれない。もしかしたら私じゃなくて両親がそうなるかもしれない。そう思うと怖くて怖くて……、なにもできなかった。


 そんな中で、唯一これについて話せると思ったのが「反・聖ソフィア教団」のガーネットさんとグレイだ。だから、一度は突き放した彼らに一縷いちるの望みをかけて、赤いスカーフを首に巻いて何度もバザールを歩いてみた。



「よく話してくれました、ノワラ様。どれだけ不安だったことでしょう」


 ガーネットさんは涙を拭う私の余った方の手を強く握ってくれた。


「教えてもらえますか? ノワラ様がご両親と会われたときのことを」

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