第6話 運命の出会い

 私は足に思い切り力を込めて跳んだ。「怪力」は別に腕に限った話じゃない。ブーツの踵が駄目にならなきゃいいけどね……。


 路地裏横の民家の屋根に無事着地できた。平坦な屋根のお家があって助かった。家主さん驚かせてごめんなさい、今は不在であることを祈っているわ。


「ほら見て! 聖女パーラ様はこんなことできないでしょ!? 私はノワラなの! ノ! ワ! ラ!」


 私は屋根の上からこう叫んだ。高さがあると今一つ距離感が掴めなかったから、下にも絶対聞こえるくらいの大きな声を出した。

 下にいる男たちは唖然というか、呆然とした表情で私を見上げている。


「殴っちゃった人にはごめんなさい! けど、私はパーラ様じゃないんでもう追いかけて来ないで下さい!」


 言いたいことだけ言った後これでもかと頭を下げて、私は屋根伝いを跳んでこの場を去った。

 なんでこんなおサルさんみたいな逃げ方しないといけないのよ、「キレイなお嬢さん」が台無しだわ……。




 バザールで騒ぎを起こしてしまったから、お買い物にも戻りづらくなった。今日はもうお家に帰ろう。ご近所の料理屋でお昼だけ食べて帰ろうかしら? 料理屋さんのメニューを思い浮かべながら、なにを食べようかと考えを巡らせていた。


 帰り道、街の中心から離れて、舗装されていないデコボコした道へと差し掛かる。時々振り返って、念のため誰かが付けて来ていないかも確認していた。


 すると、白い頭巾みたいなので顔を隠した人が小走りにやって来るのが見えた。進行方向が同じなだけなのか……、いや、明らかにこちらに向かって来ている気がする。さっき私を追って来ていた男たちとは服装も雰囲気も違う。



「あなた、ノワラちゃんよね!?」



 頭巾の人は、どこかで聞いたことある声で私の名前を呼んだ。


 女の子の声だ。


 彼女は表情が視認できる距離まで近寄ってくると、勢いよく被っていた頭巾を外した。


 彼女の顔が目に映った時、ちょうど陽の光が2人の間を照らすように射し込んできた。


 美しいブロンドの髪がよりいっそう輝いて見えた。あおい宝石のような瞳の中で、虹彩が美しく煌めいている。


 そして……、彼女もきっと同じ光景を目にしていたのだと思う。



「気になって追いかけて来ちゃった! はじめまして! ワタシ、パーラ・シロッコです!」



 それが、私たちの……、「運命の出会い」だった。

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