風の春

@abcinrxoancni

風の春

強い風が好きだ。

風に雲が流されていくように色々なものを吹き飛ばしてくれそうな気がする。


その日も強い風が吹いていた。それはプラットフォームに立つ僕のところにも吹き付けていた。

そのまま僕を吹き飛ばしてくれないか。そんなことを考えながら上りの電車を待っていた。

僕は本を読みながら立っていたがページが捲られて読みづらかった。

風に吹かれて桜の花びらが一枚飛んできて本の上に乗った。それはまだきれいな桜の花びらだった。まだ残っていたのかと思いながら顔をあげると、線路を挟んだ反対側のプラットフォームに見知ったシルエットが見えた気がした。

特急列車が通過したあとにはもう何処かへ行ってしまったのかいなくなっていて、列車が起こした強い風だけがあとに残った。

また本に顔を落とすと、さっきの花びらがまだ残っていた。残っていてくれてよかったとそう思った。そよそよと穏やかな春の風が吹いている。

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