ハイデン・ソード-暗い月の復讐の刃-
九六式
序章 泡沫の夢
第1話
セツナ=カタラギには誇れるものがある。
「ほら早く早くっ!」
「おいシグ、急に走り出すなって……」
「ごめんねー」
「謝る気ねぇだろ」
やれやれと肩をすくめながら自分を急かす幼馴染の少女、シグナ・クラデーラの元へ。
「ふっ!」
そこには一振りの刀を一心不乱に振り続ける親父の姿があった。
シユウ・カタラギ。彼こそが俺の誇りであり、自慢の父だ。しばらく見ていると父はこちらに気づいたようで刀を振るう手を止める。
「………ん?セツに、クラデーラさんの所の……」
「こんにちはおじさんっ」
「ああ、こんにちは。2人ともどうしたんだ?こんな場所に」
「おじさんを見にきたんだー」
「あまり面白いモノでもないと思うんだがなぁ、まあ好きにして行くといい」
「ありがと、おじさんっ」
異国の出身だがエリート揃いの王都の騎士の中でも群を抜いて強いらしい。まさに「剣聖」と言う名に相応しい実力だとか。本人曰く、他にも強い人が沢山いるとのことだが、俺たちの憧れの存在だ。
「セツナ」
急に頭に手を置かれる。でっかい手だ。
「何?父さん」
「強くなるんだぞ、皆んなを守れるくらい強くな」
「………おうよ」
「よし。それじゃそろそろ帰ろうか。母さんが上手い飯作って待ってるぞ」
「はーい」
父の荷物の一つをシグと一緒に運びながらその大きな背中を眺める。
「いやー、おじさんカッコいいなー」
「なんたって俺の親父だからな」
ちなみにこの幼馴染、少々男勝りな所がある。喧嘩も結構強いしもうすぐ学園に入ると言うのに未だに俺と走り回って遊んでいる。
「私もあんな風に強くなれるかな〜」
「ん?お前騎士になんのか?」
「まぁね、今の時代女の騎士だって結構いるもんだよ?」
「でもお前、剣下手くそじゃん」
「うっさいなぁー、別に騎士に必要なのは剣だけじゃないもん」
近年、王都では剣と魔法を使う魔法剣士というスタイルが流行している。遠近両方に対応するためだとか。それに魔法は一時的に自分の身体能力を向上させたりとか何かと応用も効く。
「というかセツナは逆に魔法使えないじゃん」
「そうなんだよなぁ」
悲しいことに俺は逆に魔法の才能があまりなかった。
「そうだ。私は魔法を極めるからコウは剣術極めてよ」
「あ?何で」
「セツナはおじさんに似て剣が上手だけど魔法は全然でしょ?逆に私は剣が下手で魔法が得意。だから苦手な分野をお互いに補って2人で最強を目指そうよ」
ニコニコしながらそう提案してくる。しかし成る程、それ結構良いかも。
「その話乗った」
「やった!そうと決まれば2人で頑張らなきゃね!」
幼き日そうして誓い目指した2人の夢は、ある日突然、儚く散った。
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