変化
4-1 失敗しても
ルーナが俺に魔術の知識を教えてほしいと言ってきた翌日。
早速その日の昼食後にルーナとの勉強は始まろうとしていた――のだが。
「いい?ソフィは立ち入り禁止。今からセルジオを大切な話をするから」
現在自室の前でソフィに命令しているのはルーナ。腕を組んで仁王立ちをし、ソフィに対して俺と真面目な話があると言っているのだが……場の雰囲気は和やかだ。
「はい。邪魔しませんよ?ニヤニヤ」
そしてルーナに命令されたソフィは、超笑顔で声にも出しているが。本当にニヤニヤしている。それを見たルーナはというと、言わなくてもわかると思うが。
「ニヤニヤ言うな!」
「いえ、男女2人ですから。それはそれは身分を超えた壮大な愛の物語がここから始まるのではないかと。期待で胸がドキドキ――」
するとわざと自身の胸を見せるようにアピールするソフィ。以前から思っていたが。ソフィのスタイルはホントすごい。
「違うから!ってか、強調するな!」
「どうぞどうぞ。お楽しみください」
「もう!表出ろ!」
基本この屋敷内で、2人で何かをするというのは大変目立つ。そもそもこの屋敷には3人しかいないためだ。そしてルーナもはじめの言い方が悪かったと思う。現にソフィにいろいろ楽しい妄想をさせるような結果となってしまったので、先ほどから何やら入口で大揉め?となっている状況だ。
ちなみに俺は勉強が始まらない気がしてきた。さらに今。ルーナはまた余計なことを言ったからさらに勉強が遠のいた気がする。
「いいでしょう。ルーナ様どうぞ。ぜひともお手合わせを」
ルーナの一言でソフィの目が光った。そしてさらにソフィの表情が笑顔になった。あれは――『やれるもんならやってみろ』と言っている気がする。間違いない。
「あっ、いや――」
もちろん俺がわかることはルーナもわかったようで、すぐに1歩、2歩と下がる。しかしルーナが下がれば、ソフィが1歩、2歩とルーナに近寄った。そしてルーナはすぐに自室のドアにぶつかる。
「さあさあ遠慮なさらず。丸裸にして差し上げましょう」
「お、おかしいから!」
お願いですから室内で魔術の発動はやめていただきたい。俺の家。いや、俺の今生活している部屋が隣にあるので。また路地裏生活とか勘弁です。
「ちなみに丸裸とはそのままの事ですっぽんぽんですので。セルジオ様にすべてを見ていただくことになりますので心の準備――あっ、すでに見られてましたか。ほほほー。なら初めから全力でいかせてもらいましょうか」
「変態か!あと勝手に話を続けるなー!って、近寄るなー!セルジオ!」
しっしっっと、手でソフィを離そうとするルーナ。しかしそんなのは全く効果がない。あと、俺を呼んだところで変わりませんから。俺とルーナでは何もできないから。即負けるから。
「嫌なら防げばいいこと――無能様?いきますよ?」
「最近のソフィ人を馬鹿にし過ぎだから!セルジオ何とかして!」
「いや――ルーナ様。俺では――」
一応確認となるが。この家で一番偉いのはもちろんルーナである。しかし現状は――完全にトップとは見られていない様子だ。
「お2人とも無能ですからね」
「くぅー」
俺にも飛び火してきたよ。ちなみにソフィは満面の笑み。今の状況がかなり楽しい様子だ。
「さあさあ、無能様たち。お手合わせを」
「無能無能うっさい!」
たち。になっちゃったよ。俺は巻き込まれたら危険とすぐに察知したので意味がないにしても数歩下がっておいた。
結局しばらくの間ルーナとソフィが廊下で言い合いをしていたため、勉強初日の開始はかなり遅くなった。なおこの時の決着はというと。
「――む、無能ですよ。無能ですから、ふん」
「やれやれ」
ルーナが拗ねたことで終わったのだった。ちょっと涙目だった気もする。そのためかすぐにソフィもあきれ顔でルーナをいじるのをやめた。
いやいやこちらとしては、勉強会開始前にルーナがご機嫌斜めとか。俺の命が脅かされるのですが……だったが。どうなることか。
なお、勉強開始直前。もちろん俺とルーナが何をするのか、わかっているソフィは『では、よろしくお願いします』という意味だったのか。俺にウインクをしてきたのだった。俺としては『いきなり何をしてくれたんですか?』だったがね。
もちろんそんなことは言えないので心の中だけでつぶやいておいた。
★
場所は変わりルーナの部屋の室内。
ルーナが椅子に座り机の上に紙。筆を準備している。どうやら机の引き出しにいろいろ勉強道具は隠しいていたらしい。なお、本など参考書のようになるものは、本当に持っていなかった。そして、今の俺はルーナの隣に立ってルーナの様子を見ている。
「ソフィのせいで勉強時間が短くなった――もう」
「あはは」
すこしご機嫌斜めのままなのは――どうしたらいいだろうか?
「でも、何とか勉強することはバレなかったみたいだし。セルジオ。よろしく」
「はい」
勉強をしていることが。ソフィにバレてないとルーナはまだ思っているみたいだが……バレています。そもそもそうなるように仕組まれています。俺はいろいろ気が付かれないようにとりあえず返事をしておいた。
ちなみにだが。今の会話は近く(屋敷内)に居たら多分聞こえているはずだ。なんせこの建物壁が薄いのか話し声が普通に1階まで聞こえるようなところだからだ。ルーナはいつも話す側のため、そのことを知らないのだと思うが。
もし今この屋敷に訪問者が来て、ソフィが訪問者の人と玄関。応接間で話してくれたりするとルーナも気が付くかもしれないが。そもそもこの屋敷訪問者などいない。だから基本ルーナと俺、またソフィが話すので、そう簡単にルーナは壁が薄いということに気が付かないだろう。そもそも今まで住んでいて気が付いていないのだから。もしかするとずっと気が付かないかもしれない。
「ところでルーナ様。まずはどのようなことから――」
余計なことは頭の隅に追いやり俺は切り替えて、勉強を始めるためルーナに話しかけた。
「えっと。一応私、火、地、水。風、空の基礎はわかるわよ?」
「ではまず基礎の確認からしましょうか」
俺自身もルーナがどのくらいの知識を持っているのかがわからない。なのでまずはどれくらいルーナが知っているのかの確認から始まった。
ちなみに結果を言っておくと、少し甘さはあったが。ほぼほぼ、9割くらいルーナは各方面の知識はあった。さすが魔王様の血を継ぐもの。偏りはほとんどない感じだった。しかし今はまだ基礎。簡単に言えば、この基礎。それぞれの力の源に関してはあまり知らなくても魔術を発動することができる。
大切なのは知識があってからの構築。術式である。
すべての生き物は魔力の源。魔力のタンクと言うのか。身体の中にそのようなものがある(ここにない者が2人もいるが……)。ちなみにこの魔力の源はもとは皆同じくらいの量と言われてるが定かではなく。個人により使える魔力は変わるし。練習。実践を繰り返すことで大幅に増やすことができるらしい。
そしてその魔力タンク内の魔力を使うために、例えば火なら火の術式を頭の中で構築。そして発動すると、魔力タンクから魔力が身体の中にある魔力管。魔力回路とでも言うのか。血とは別にあると言われている管?みたいなところから流れ発動させることができる。
一番シンプルなのは、火を手のひらに起こすなら。火を起こす術式を頭の中で描き。そして発動するだけ。そうすれば手元に火が出る。正確に言うと発動と同時に魔方陣が現れるのだが。初級魔術は発動までが早く。魔方陣は一瞬のことで、ほとんど見えない。
ちなみに、中級、上級となれば発動から発生させるまでに時間がかかるので、魔方陣を見ることができる。とまあ、魔方陣は本人からすると術式の時に脳内で描いたものなので特に見る必要はないが。
でもこの術式をしっかり構築しなければ威力は大きく下がる。
初級魔術ならそこまで気にしなくてもいいが(そもそもの威力が弱いため)。でも大きな欠陥があれば初級ですら不発することはある。と言っても、基礎に関しては大量の図形、文字などを――ということはないためそこまで苦労することはない。だから何も知らない子供でも自分の得意な魔術なら、初級魔術は簡単に発動してしまうということだ。
しかし、中級になると、基礎プラス複数の図形。文字。術式構築が必要になり複雑化する。上級ともなれば、火だけではなく。風などの術式と混ぜて威力をあげることもある。しかしこれが大変難しい。ただ基礎と基礎を足すのではなく。威力が上がるように術式を構築しなければいけない。そしてそれは正解があるようでない。
基礎は決まっていても応用になると、無限と言ってもいい組み合わせが発生する。その中で1か所でも術式にミスがあれば威力が下がる。また術式の構築に時間をかけていたらそれはそれで無防備な時間が長いということ。その時攻撃されたら終わりだ。だからスピーディにそして正確に複雑な術式を構築するというのは一般人には相当難しいことだ。だから王。勇者。魔王など上級魔術を操れる人は一目置かれる存在なのだ。
ちなみに偉そうに語っているが。俺は知識だけあり上級魔術の構築まではできても――発動ができないため。単なる無能である。
そしてこの勉強会はある欠点がある。それは魔術を使える人がいないため。術式などを構築しても、正しいのか答え合わせができないのだ。。普通なら誰もができることなのだが、ここには魔術が使えない2人しかいないためだ。
一応だが俺は学校に在籍した時は、独自が考えた術式を披露し先生に確認してもらうというのがあったが。それがこの場ではできない。ちなみに学校では、教員たちも発動出来て中級魔術。しかし俺は普通に上級魔術の構築をしていたので――上級魔術の使える人が居ないときは確認できなかったな。一応だが。その時の俺の上級魔術は問題なく発動できると言っていた。でも学校は中級魔術ができたらすごいだったので、上級魔術がたまにしか見てもらえないのは特に問題はなかっ――って、あったな。卒業できなかったし。あれは大きな問題だったな。もう遠い昔の事だが――。
あと、魔術に関してだが。他人が考えた術式を他の人が使うことはできる。しかし。その人の得意不得意があるので、発動しても元の威力が出るとは限らない。でも発動するということは、一応その術式は正しいということになる。間違っていたら何も不発となるのでね。
ちなみに今の場合。答え合わせをするならソフィが必要だろう。だが、ソフィの力もわかっていないので、どこまで答え合わせができるかは不明だが……でもどこかでソフィを呼ぶ必要はあるが今ではない。
とにかくだ。今は知識を使える使えないではなく、知識を教える時だ。
「まずは、各初級魔術から順番にでよろしいでしょうか?ルーナ様」
「あー、うん。それが普通よね。お願い」
「では、まず基本の型から」
しばらく俺が説明。紙に図形、文字などを書いて教える。または共に初級魔術発動の術式を紙に書いて答え合わせということをした。
ちなみに普通学校ではこのように紙に書くことはほぼほぼない。はじめの座学の時に説明するために書くくらいで、その後実践となれば書く必要はまずない。もちろん試験時などは確認のため書くこともあるが。でも基本書くことは少ない。学校を出ればまず書く者はいないだろう。
ちなみに、俺はいつも書くしかできなかったので、嫌というほど書いた過去があるため。今でも記憶に染みついたとでも言うのか。各術式などはすらすら書くことができる。
ちなみにルーナはたまにミスはあったが。初級魔術の術式はやはりほぼほぼ問題なかった。
★
それからしばらく順調に勉強は進んでいた。
「あれ?えっと風と――火は――違う。これとこれを合わせるときは、この術式だと威力が――うーん」
「――ルーナ様。まずここに、おかしいところがありますね」
紙とにらめっこするルーナに指摘をする俺。
「嘘。どれ?どこがおかしい?」
「この場所がおかしいので――ここで合わせた時に――確認できませんが多分不発になります」
俺はルーナが書いた図形を一部訂正する。
ちなみに勉強中のルーナは基本素直に話を聞いてくれるので、スムーズに勉強は進んでいた。
「――あー、そうか。そこで地と火がごっちゃになってるのか」
ポンと手を叩くルーナ。今のところ何とかまだ詰まることはない様子だった。
「ですね。これは地の術式。1のミスですべてズレてしまいますから。特に初級のところでミスをすると中級。上級の魔術は格段に威力が落ちますのでお気を付けてください」
「なるほど。にしてもセルジオ――本当に全部頭の中に入ってるの?すらすら出てきているけど、本とか何もないよね?ここ」
「えっ?あっ、はい。学校では馬鹿みたいに書いていたので一応――」
少し驚いた表情で聞いてくるルーナに俺は答える。ちなみにだが。俺は自分の記憶の引き出しの中から知識を出してきている。ルーナのいう通りこの場に本などがないからだ。
「――セルジオ……すごい」
再度になるが。魔術が使えない2人なので、試すことができない。
しかしルーナは今のところそれでいいらしく。俺のやり方に何か言うことはなかった。こちらが間違っている可能性もあるので、何か言ってきても――ということは俺にはあったのだが。ルーナはずっと素直に俺のことを信じてくれていた。なので、俺の方はミスしてはいけないと。表情には出さないようにしているが。頭の中は大忙しなのだがね。
余談だが。今は少し間違っていたたルーナだが。さすが魔王の力を引き継ぐ者。一度覚えると、どの分野でも基本その後は問題なく得意そうに進めていた。
もちろん普段魔術を使っていないからと思われる甘さは出るが――でもほとんど問題はないレベルだった。
★
「ルーナ様では次は――」
「あっ、ねぇねぇ。セルジオ」
またしばらくして、俺が次のステップへと進もうとしたところでルーナが声をかけてきた。
「はい?どうしましたか?」
「そのさ。ルーナ様の。様やめない?」
「えっ――はい?」
唐突にルーナがそんなことを言いだした。
「なんか――堅苦しいってか。もうルーナでいいよ?そもそも私堅苦しいの嫌だから。普通に話してくれる方が楽」
「いや、でも俺は雑用係ですから。そりゃ今まで俺はこのようなことをしたことがなかったので、いろいろ失礼な接し方をしているとは思っていたのですが――上下関係はちゃんとしておいた方が良いかと」
「なら、次期魔王の命令、様いらない。言ったら――死んで?」
笑顔でとんでもないことを命令してくる次期魔王。なんちゅう命令だ。と心の中で俺は思いつつ返事をした。
「――さ、さすがに……」
「命令。はい」
するとどうぞ。練習。という感じでルーナが名前を呼ぶようにと催促してきた。これは――従うしかないらしい。
「――ルーナ」
とりあえず様を付けずに呼んでみる。ちなみに俺は頭の中で考えるときなどは、様を付けずにそもそも考えていた(いままで様というのを使うことがなく。自然と頭の中では楽な。慣れた方で思っていた)ので、様を付けずに話す――というのは実は自然な感じだったりする。今までの話す時だけ様の方がちょっと違和感があったくらいだ。
「うん。セルジオ。これでいこう。あと、堅苦しく話したら――死んで?」
「だから、それおかしいですよ!?あっ。すみません」
「うんん。今の感じ良いよ!これからそんな感じで」
「あっ……はい」
「硬くなったー。死ぬ?」
「いやいやいや」
「ふふっ」
再度死刑宣告?をされた俺。ふと突っ込んでしまったが――その際の反応が気に入ったのか。ルーナは良い笑顔となっていた。また、一瞬だけその笑顔にドキッとしたのは――バレていないみたいだった。
改めてとなるが。ルーナは美少女である。普段はソフィという破格の美人(破格の美人とはなんだ?と脳内で疑問が浮かんだが――いいだろう)。どういう成長をしたらそんな姿?にというお方がいるので、ルーナは隠れがちなのだが。こうして2人っきりだとすごい美少女と一緒に居ることを実感する俺だった。
とまあ、途中にそんなことがあったが。勉強は順調に夕食時まで続いた。スタートが遅れたが。その後はみっちり初日の勉強会は進み。さすがにルーナの集中力が切れてきたところで終了した。
なお、勉強後ルーナは『部屋に籠ってナニをしていたのですか?ニヤニヤ』などとソフィにい質問攻めにあっていた。
「――秘密。言えない」
そして答えに困ったルーナは何故かそんなんことを言ったので、さらにソフィを楽しませたのは、いうまでもない。
そもそもルーナよ。ソフィ全部知っているぞ?なんだがね。もちろん俺が言えることはなかった。
また、その初めての勉強会後。俺がルーナに対して、話す際様を付けなくなったことに対しては、ソフィはもちろんすぐに気が付いただろうが。全く触れてこず。代わりにというのか。ずっとニヤニヤこちらを見てきたのだった。
本当は様の事に関してソフィが突っ込んでくれたら、すぐに説明ができたのだが。ソフィは聞かない。という選択をしてきたのだった。多分それの方が面白いと踏んだのだろう。こちらから説明するのもなんか変だからな。しばらくソフィはニヤニヤしていたのだった。
ちなみに、これはルーナ曰くだが。少し前にソフィに対しても『様はいらない。私たちほぼ同年代じゃん』みたいなことを言ったらしいが。『では今後は無能ちゃんとお呼びします』などと笑いながら言われたらしく。そこでひと悶着。その後は何も言っていないらしい。
ソフィ――強いというのか。もしルーナが魔術使えたら……毎日姉妹喧嘩?してそうと思った俺だった。
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