1-3 任命

 ソフィと魔王城の待合室で会ったセルジオは、その後再度魔術特急に乗ることとなった。

 理由は魔王城の離れというのはユーゲントキーファーの町ではなく。先ほど魔術特急に乗った駅。ヴアイゼインゼルの町にあったからだ。


 ソフィとともに再度魔術特急に揺られる。また、移動中にセルジオとソフィは簡単な自己紹介は済ませておいた。

 そして実はソフィがまだ20歳。魔族年齢だが。でも自分とほぼ同じ年と知ったのだった。その際に無駄に『私はまだまだ赤ちゃんなので何をしても許されるのです』という話を聞いたセルジオは――少しなんとも言えぬ不安を覚えたが。でも堅苦しい雰囲気ではないのはありがたく。少しずつ慣れていた。


『あっ。硬く話しかける必要はないので私の呼び方はご自由にどうぞ。離れは特に厳しい決まりなどありませんから』

『そうなんですね。勝手に堅苦しい感じがしていたのですが』

『いえいえ、全く。もうゆるゆるですよ』

『ゆるゆる?』

『そのうちわかりますよ。私も夜はだらだらですから。私お酒好きで。それはそれは産まれた時から飲んでいたと』

『……』


 移動中こんな会話もありさらに少し不安を覚えたセルジオだが――今は何も言わなかった。にしても産まれてすぐはないだろう。と思ったが。でも話すソフィの雰囲気から――何かを感じたセルジオだった。

 そんなこんなでソフィと話していると2人を乗せた魔術特急はヴアイゼインゼルの町に到着し。そのあとセルジオは今後の勤務地。魔王城の離れへと向かったのだった。


 ★


 駅から歩くことしばらく。周りに民家がなくなってきたこともあり。セルジオが少しどこに連れて行かれるのだろうか?と不安になりだした時だった。


「こちらとなります」


 ふいにソフィが足意を止めて、セルジオに声をかけた。そしてセルジオはソフィが見ている方を見ると――。


「えっ?ここが――魔王城の離れですか?」


 驚きの声を漏らした。ちなみにこの驚きは予想外だったからだ。


「驚かれると思いますが。このちょっと大きめの普通の家が魔王城の離れです」


 魔王城の離れとはどんな豪邸なのかと。先に魔王城を見ていたセルジオは少しドキドキしつつ。ヴアイゼインゼルに付いてからはソフィと話しつつ歩いていた。

 のだが。ソフィに案内された場所は――町の中心から少し離れたところにポツンとあった家だった。

 確かに普通の家よりはちょっと大きいが。ぱっと見は魔王城の離れには全く見えない。というかわからない。魔王城にあったオーラがこちらには全くなかったからだ。

 本当に普通に先ほど駅から歩いてくるまでに見た家と同じような建物だった。ちなみに、庭は少し広い感じだ。なお、柵とかがあるわけではなく。どこまでが庭なのかはわからない。はっきり言って町はずれにある単なる一軒家だ。

 どんな立派なところかと身構えていたセルジオはまず、普通の家すぎて驚いていた。

 

 そしてもう1つ驚いたことがあった。


「ここには次期魔王。ルーナ様が住んでいます」


 セルジオがあまりに普通過ぎる建物に驚いていると。ソフィがさらっとそんなことを伝えてきたからだ。


「――ま、魔王様に仕えるんですか!?俺いや、人間――俺人間ですが――えっ!魔王!?」


 セルジオは唐突にこれから自分が担当するお方を教えられたのだった。

 

魔王様ですがね」


 セルジオの発言に次期が抜けていたからか。再度ソフィが言いなおす。


「いや、次期魔王様って――再度ですが俺人間ですよ?」

「大丈夫です」


 いやいやいや……頭の中がパニックのセルジオ。それもそうだ、つまりは、これからセルジオは魔王様。次期魔王様に仕えるのだから。

 そして再再度セルジオはこの後驚く。今度は何かというと――。


「とにかく今日は遅いですしお休みください。お部屋の案内だけしておきます」

「――あ、はい。って、部屋?」

「はい。個室ですよ」

「――個室。ありがとうございます」


 個人の部屋が割り当てられていることにだった。しかしその前の次期魔王様に仕えるというインパクトが大きすぎたセルジオは、今までの路地裏から急に自室。部屋を与えられ。普通なら感謝していたところだが。普通にお礼を言うだけとなったのだった。


 その後セルジオはソフィに言われるがまま魔王城離れへと足を踏み入れたのだった。


 ちなみにその際。敷地内から建物をセルジオが見ると――1か所だけ明かりが付いている所があったが。特にセルジオは気に留めることなく。ソフィの後を付いて行った。


 ソフィに続き魔王城の離れ内へとセルジオが入る。

 玄関部分は少しだけ広くなっていたが。それでもそこまで大きくない。先ほど見た魔王城と比べると雲泥の差だ。ちなみに、ソフィを待っていた時に居た待合室よし少し広いくらいだ。いや、待合室と同じくらいかもしれない。


「次期魔王様の部屋は2階にあります。他には同階は空き部屋だけ。あとは1階に食堂などがあるだけですので覚えるのは簡単かと思います」


 建物内へとセルジオが入るとすぐにソフィが建物内を簡単に紹介した。

 一気に言われて覚えきれるのか心配だったセルジオだが。実際のところ室内も広くはなく。覚えるのはそこまで難しいことではなかった。現に一度聞いただけでセルジオは室内を把握できたのだった。

 それからセルジオはソフィに付いて行き2階へ移動した。

 2階は数個扉があった。そのうち1つは大きくそこそこ雰囲気のあるドアだったが――そこは通過し隣の普通のドアの前でソフィは立ち止まった。


「セルジオ様はルーナ様のお隣。こちらとなります」

「――は?」


 そして間抜けな声を出した。

 何故なら今とんでもないことを言われたからだ。


「いや、隣?俺が次期魔王様の隣?いやいやいや――えっ!?」


 どこの誰かもわからない奴をそんなところに入れていいのだろうか?いや、俺が狙われているのか?そんなことを瞬時に考えるセルジオ。


「はい。ルーナ様に何かあったらすぐに駆けつけるためです。これからのセルジオ様のお仕事です」

「な、なるほど。じゃなくてですね。いいんですか?俺なんかがその――次期魔王様?の隣なんかにいて――」

「大丈夫です。同じですから」

「――?同じ?」

「明日わかります。今はゆっくりお休みください。明日から忙しくなりますよ。あっ、お風呂は1階にありますのでご自由にお使いください。」

「あ――は、はい。って、俺なんかがお風呂使えるんですか!?」

「はい。大風呂の方がルーナ様。隣に使用人用があります」

「……あ、はい」


 あまりの待遇に驚くセルジオだった。するとソフィがドアを開けた。


「こちらがセルジオ様のお部屋です」

「――部屋だ」


 セルジオが案内された場所は普通の部屋だった。ベッドだけがある小さな部屋だ。どうやら本当にこれからこの部屋を使っていいらしい。


「着替えはベッドのところに」


 ソフィに言われてセルジオがベッドを見ると確かに着替えが置かれていた。


「サイズに関しては後日調整します。今のところはあちらで」

「あ、はい。ありがとうございます」

「では。おやすみなさい」

「あっ。はい。おやすみなさい。ソフィさん」


 挨拶をするとソフィはセルジオが与えられた部屋から出て行った。


 ★

 

 魔王城の離れにやって来たセルジオ。現在は与えられた個室内に居た。


 そして、本来ならすぐにベッドに寝転がりたいところだったが。いろいろここに来るまでに聞いた話を整理していた。

 これから自分はルーナ様と言う次期魔王様のところで働く。次期魔王様だ。無能の自分で本当にいいのだろうか?俺なんかで何ができるのか?すぐに殺されるのでは?などと考えていたが。結局向こうの思惑が全くわからなかったセルジオは少しすると、ベッドに横になりいつの間に眠っていたのだった。


 ★


 翌朝。セルジオはコンコンというドアをノックする音ですぐに起きた。


「セルジオ様?」

「あ、はい。起きてます」


 今起きたばかりだったセルジオだがベッドからはすぐに飛び起きた。これは今までの生活が影響しているだろう。呼ばれたらすぐに動く。また物音がしたらすぐに目を覚ます。それが身体に染みついていた。


「15分後ルーナ様のところへ行きますので準備しておいてください。」

「は、はい。わかりました」


 慌ててドアの方に返事をしたセルジオは。そのあと部屋を見渡し。改めて自分が魔王城の離れに居ることを確認した。そして、小さな窓の方を見ると。外は薄暗かったが。少し明るくなり出していた。どうやら時間はまだ早朝みたいだ。セルジオ本人は深夜に魔王城の離れに来たので、あまり寝た感じはなかったが。でも今日からは次期い魔王様に仕えるということで、次期魔王様は朝から忙しいのだろうと勝手に解釈して急いで着替えを始めた。昨日ベッドのところに置かれていた服を着る。さすがにサイズは合わない――と思っていたが。意外とぴったりだった。

 今までとは違い少しピシッとした服に着替えたセルジオは、その後廊下で待機した。すると、少しして昨晩と同じ服装のソフィさんが来た。今日もすごくいろいろ目立つ姿に変わりはなかった。むしろ明るくなりいろいろ身体がすごいことを改めて知るセルジオだった。


「おはようございます。セルジオ様」

「あっ、はい。おはようございます。今日からよろしくお願いします」


 セルジオは挨拶をしてすぐに頭を下げる。


「硬くならなくても大丈夫ですよ。昨日もお話ししましたが我々しかいませんから。リラックスしてください。砕けた感じで問題ありませんから。むしろ私も楽にしていたいので」


 これは昨日魔術特急の車内で聞いた話だ。

 この魔王城の離れ。とある理由で、今はソフィと次期魔王様の2人しかいないとのことだ。離れといえど魔王城なのに警備などもないのか?とセルジオはいろいろ疑問に思ったが。説明の途中だったこともありちゃんとは聞けていなかったが。実際今も屋敷は他に人がいる気配がなかった。


「それもなのですが。そもそも、魔界にいるというたけで――やはり硬くなると言いますか――はい」

「なら、ルーナ様に会ってさらにガチガチになってもらいましょうか?」


 緊張でがちがちだったセルジオ。するとそんなセルジオを見たソフィは笑顔で、そんなことを言いながら歩き出した。

 目的地は隣の部屋のようだ。ちなみに、その時のセルジオは『ガチガチ?』と、思いつつソフィに付いていっていた。


「こちらが次期魔王様。ルーナ様のお部屋です」

「えっと、普段からこんなに早いのですか?」

「いえ、普段はここまで早くありません」


 ソフィは歩き出してすぐに少し立派なドア。セルジオが使っていた隣の部屋の前で足を止めた。


「あれ?」


 じゃ何故今日は早いのだろうかと考えるセルジオ。


「今日は特別です。ルーナ様のことを知っていただかないといけないので。もちろん早速ですがセルジオ様にも協力していただきます」

「えっ?いや、協力と言われましても――俺が何かできることなど」

「あります」


 困惑する俺に対して、はっきり言うソフィ。そんなセルジオの姿をソフィは少し面白そうに見ていた。


「とりあえずこちらがルーナ様とお部屋です」


 再度ソフィがセルジオに説明をすると――今度はノックもせずドアを開けた。


「えっ?普通に入って――」


 セルジオが驚いている間にソフィさんは室内へと入っていった。


 開いたドアから見える室内は、薄暗くて正確にはまだわからないが。明らかにこの部屋は広かった。特別な人がいる様子だった。さすが次期魔王様の部屋。セルジオの第一印象だった。

 セルジオがそんなことを思っていると、その間に室内を進んでいたソフィがカーテンを開けた。すると――室内が明るくなり室内の様子がわかる。


 窓際にはそこそこ大きな机。そして部屋の隅には棚や暖炉。そして部屋の真ん中には大きなベッドがあった。そしてベッドでは誰かが寝ているみたいだ。ベッドの真ん中には小さな膨らみがセルジオの居る場所からでも確認できる。

 それを見たセルジオは『もしかしてあれが次期魔王様?いやにしては小さい?』などと思いつつ入口に立っていた。


「セルジオ様もこちらへどうぞ」


 すると、ソフィが声をかけてきた。


「えっ――いや――まだ寝てませんか?」

「大丈夫です」


 ソフィに言われゆっくり室内へと入るセルジオ。ちなみに明るくなった部屋を再度見てみると、机の上は――紙がちらかっている。何かの書類?または――落書き?そして床にはなぜか服?が散乱していて。お世辞にも綺麗な部屋ではなく。そこそこ散らかった部屋だった。どうやら次期魔王様――片付けが苦手?などとセルジオが思いつつ落ちている物を避けながらソフィのもとへと行こうとすると再度ソフィに声をかけられた。


「あっ、セルジオ様。床に落ちている物を全て拾ってください。あとで洗濯もしてもらいますから」

「あっ。はい」

 

 ソフィに言われ自分は雑用係だったことを思い出したセルジオは、すぐにしゃがみ床に落ちているものを拾う。ちょうどセルジオの足元にあったのは黒い布――と白い布だった。黒い布は――多分……キャミソール?だった。以前掃除係で働いたときにいろいろ服は見たことあったので、なんとなくわかることがあった。また肌触りが良く。良い品というのがセルジオでもわかった。そして白い布は――。

 

「――うん?これ――えっ?!パンツ!?」


 はじめはハンカチか何かとセルジオは思っていたが。手に持ってみると、それが下着。パンツとわかった。それも――女性物のパンツだった。シンプルな白で少しだけ刺繍?のあるおしゃれなパンツだった。

 そしてセルジオは今頃気が付いた。ルーナという名前。それは――男性ではなく女性と。そして聞かずとして、女性と確定させるものを今セルジオは手に持ってる。


「ルーナ様。ルーナ様」


 パンツを拾い。また次期魔王様が女性ということに気が付き驚くセルジオをよそに、ソフィは寝ている人。ルーナ様ということは――次期魔王様に声をかけていた。


「――えっ?ルーナ様ってことは、今寝ている人が――次期魔王様?」


 次々起こることにセルジオが呆気に取られていると。


「ルーナ様。起きないと知りませんよ?セルジオ様は男の子ですよ?いいんですか?」


 寝ている次期魔王様の耳元で囁くソフィ。

 ちなみにいろいろ驚き呆然としていたセルジオは拾った服とパンツを持っているセルジオはわからないまま、ただその様子を見ていた。


「――うん。まだ眠い……」


 するとかわいらしい声が聞こえてきた。さらに『ふぁあ』という気の抜けそうな声も聞こえてきた。


「いつも通りだらだらですが。この部屋に男の人いますからね?」

「――男!?」


 ソフィさんの再度の囁きで、ばさっとベッドから起き上がる人影。

 セルジオの目に飛び込んできたのは――薄い水色ぽい銀髪のボブカットの女性。いや、少女だった。そして目が合う。驚いた表情をしている。

 さらに、目が合うと同時くらいに少女の身体に巻き付いていたシーツが捲れた。

 すると――セルジオの前の少女は上半身裸姿に。綺麗な細い首から、小さな小さな丘が2つ。華奢な身体。くびれははっきり。それより下はまだシーツの中。


「――えっ」


 いきなりの光景に驚くセルジオ。バサッと手に持っていたキャミソールとパンツが床に落ちる。


 はっきり言って、ベッドに寝ていたのは、かなり美少女だった。この子が次期魔王様?確かに可愛い角はある――などと少し考えたところで、セルジオは自分が見た光景に気がつき。慌てて視線を逸らした。


「きゃぁぁぁぁぁぁあああ!?!?」


 当たり前のことだが。セルジオが視線を逸らすと同時に、魔王城の離れ内には、早朝から盛大な少女の悲鳴が響き渡ったのだった。


 悲鳴と同時に少女は慌ててシーツを身体にぐるぐる巻く。そしてすっぽり包まると小さくバッド上で丸まったのだった。


「――今日は朝から元気ですね。あちらが本日からこちらで働くことになったセルジオ様です」


 明らかに今それをしなくても――というタイミングで、普通にセルジオの紹介を始めたのはソフィ。

 1人はシーツに包まり。

 1人は明後日の方向を見ている状況。今誰かがもし部屋に来たらこのように言うだろう『何してるの?』と。

 もちろんこの状況をソフィが気が付かないわけがないが――あまりにもソフィが普通に話していたので、セルジオは頭を振りつつ行動を再開した。


「――あ、いや、ソフィさん俺外に――出ます。はい」


 そしてセルジオはぎこちない足取りで、一応まだ明後日の方向を見つつ。そっと後ろへと移動する。


「大丈夫です。居てください」


 しかしすぐにソフィに声をかけられたためセルジオは止まる。


「いやいや、大丈夫じやないですよね!?」


 セルジオは視線を明後日の方向に逸らしたまま返事をする。


「大丈夫です。ルーナ様も魔術使えませんから。まあしばらく無視。または物が飛んでくるかもしれませんが。死ぬことはありませんから。そもそもルーナ様は喧嘩がめっちゃ弱っちいので、押さえつけたら大丈夫だと思います。羽交い絞めにでもしたらやりたい放題です」


 いやいやソフィさんよ。次期魔王様相手に弱っちいとかいいんですか?そんなことを思いつつ。まだ明後日の方向を見ているセルジオはどうすれば――と動きが取れなくなった。

 すると何事もなかったかのようにソフィは話を続けた。


「ということ、裸で寝ていたのが次期魔王様。ルーナ様です。ちなみに下もすっぽんぽんです。証拠はセルジオ様の足元ですね」


 いやいやだからいろいろおかしい。その紹介おかしいと心の中で突っ込むセルジオだった。


 ★


「すみませんでした!」


 衝撃的な?次期魔王。ルーナとの出会いからしばらく。セルジオはルーナの前で土下座をしていた。

 ちなみに今のルーナは、ちゃんと服を着て黒のワンピース姿になっていた。

 

「ソフィ!これはどういうこと!?なんでいきなり私は見ず知らずの人に裸見られないといけないわけ!?」


 そしてルーナは顔を赤くしながらソフィに怒っている。


「ルーナ様のお世話係ですので」


 ケロッとした表情で答えるソフィ。


「意味わかんないわよ!あと、確かに新しい人が来るとは聞いていいたけど、男の人とか聞いてないんですけど!今まではずっと女の人だったのに!」

「ずっと1人で引きこもり。自由にぬくぬくしていたルーナ様には刺激。男性がいる方が、良いかと思いまして、今回はすべてを一任されている私の判断です。それにセルジオ様は、そこらの跡取りよりいい男性かと思いますよ?」

「男の人に変わったくらいで、魔術使えるようにならないから!」

「大丈夫です。私はルーナ様に無理に何かしてもらう予定はありません。それは以前にも申しましたよね?」

「……はぁ。ホント、ソフィはわからない。今までの人と全く違うし。こっちがごちゃごちゃよ。何を考えているか全くわかんない」


 土下座継続のセルジオの前では、ルーナとソフィが言い合っている。

 雰囲気は最悪――というより姉妹喧嘩?いや、姉が妹をいじっているような雰囲気で話している。


「そうそう、ちなみルーナ様。セルジオ様も無能ですので、無能同士仲良くしてみては?」

「えっ?」


 セルジオは驚きつつ。ふいに視線をあげた。無能という言葉に反応したからだ。


「魔術使えないの?」


 すると、ルーナの方も驚いた表情をしつつセルジオの方を見つつちょうど声をかけた。ルーナと目が合うとセルジオは慌てて視線を床に戻し。土下座のまま答えていた。


「はい、全く使えません。初級魔術すら全く。何もできません」


 返事をしつつセルジオは『……あれ?ルーナ様は次期魔王様だよな?なのに魔術が?』などと思っていると。ソフィが話し出した。


「セルジオ様。お気づきになったかと思いますが。ルーナ様も魔術が使えません」

「あっ。は、はい、わかりました。漏らせば命はないということですよね――」


 瞬時に頭の中で導き出された答えをセルジオが答えると――。


「いえ、魔界では皆知っていますが?」

「――――えっ?」


 何を今更?とでもいうようなソフィの返事が返ってきたのだった。


 ★


 ソフィの言葉を頭の中で少し考えるセルジオ。つまり今のソフィの言葉から察するに――『次期魔王様は魔術を使えない。そしてそれは魔界では有名な事?』と考えていると。またソフィが答え合わせをするかのように話し出した。


「魔界では有名な話です。魔術が使えず、実質左遷された次期魔王。それが今目の前に居るルーナ様です」

「ソフィ。私左遷はされてない。ただ魔王城に居ても――何もできないから、環境を変えるように言われて離れに居るだけ」

「それをほぼ左遷というのでは?現に今。ルーナ様は次期魔王のお仕事を何かしていますか?何もしてませんよね?実質次期魔王様は残ってますが。他は何もないのではなかったですか?」

「……」


 ソフィの言葉でルーナが黙る。 


「そしてルーナ様も以前は真面目に努力されていたようですが――ここ数年はもうそれはそれは堕落した生活を送っていると。いつ縁を切られてもおかしくない状況と」

「ちょ、ソフィ。堕落は――」

「お酒飲んで?」

「っ」


 ルーナ。お酒好きらしい。ちょっと見た目からは意外?


「裸で寝て?」

「そ、それは――」


 確かに――少し前その姿で寝ていた。忘れないとな。


「昼間は基本寝て?」

「――」

「処女で」

「ちょっと!?それ言わなくていいよね!?全く関係ないし。ってかなんで知ってる!?からの変な事言わせるな!」


 ――『ソフィさんよ。確かにその情報俺の前で言うことではない』と、セルジオが思っていると。


「ちなみにセルジオ様は童貞です」

「その情報もいらないですよ!?って、なんで知ってる!?」


 さすがにセルジオもいきなりだったが。自分のプライベートなことをいきなり公開されたの口を挟んだ。ちなみに何故ソフィが知っているのかはセルジオには全くわからなかった。


「とにかく、セルジオ様にはルーナ様のお世話をしていただきます」

「「……」」


 そして2人の声をサラッと無視するソフィ。何事もなかったように話を続けた。


「ルーナ様はまず生活を変えましょう。でなければいつか大変なことになるでしょう」

「な。何よ。大変なことって」

「さあ?」

「ちょ、ソフィ!」


 その後セルジオの新しい生活は、土下座継続のまましばらくルーナとソフィの話を聞くという時間で続いたのだった。

 なお、この後セルジオはルーナから『さっき見たことは忘れるように』という約束をし。ルーナとは一応和解したのだった。


 セルジオ・クシランダー。魔界に来てしばらく。まだ生きている。

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