追放の破戒僧は女難から逃げられない
ミステリードール
パーティーを追放
人類と魔族は長年に渡り、一進一退の争いを繰り広げてきた。
しかしここ近年、世界で最大の力を持つドレーク帝国の活躍によって、人類は魔族の拠点である『魔族の島』にまで勢力を拡大し、魔族の王である『魔王』を倒すまで後一歩・・・といった所にまで追い詰めていた。
その最大の功績者であるのは、帝国で五本の指に入る実力を持つ冒険者パーティー『光の戦士達』である。
『光の戦士達』は結成以来破竹の快進撃を続け、今や世界中でもその名を知らぬ者などいらぬほどの影響力を見せていた。
他の上位ランクのパーティーを押しのけ、もうすぐ人類共通の敵とされている『魔王』すら倒せるのではないか・・・そう期待されている『光の戦士達』だが、今そのパーティーでは大きな変化が起きようとしていた。
「残念だがシュウさん。君にはこのパーティーを抜けてもらわなきゃいけない」
『光の戦士達』が拠点としている屋敷の一室で、パーティーのリーダーである勇者ライルは渋面しながらそう告げた。
「えっ・・・?」
パーティーからの追放を告げられたのは、パーティーメンバーである神官シュウ。
年齢はパーティーで最年長で27歳。高めの身長で線が細目でスラッとしており、目も閉じているのか開いているのかわからぬほどの細目で普段から柔和な表情でいるせいか、いつも笑っているようにも見える。
そんな優しそうな見かけと年長者であるだけあって「優しいお兄さん」といった位置づけでいた男だ。
そんなシュウは四年前にライルがパーティーを結成してからの古株であり、当時まだ15歳で戦士として未熟だったライルを支え、今までずっと一緒にやってきた。
だが、そんなシュウにライルは今、パーティーからの追放を突きつけたのだ。
「追放・・・ですか?」
シュウは困惑した表情で回りを見回した。
部屋には『光の戦士』のメンバー全員が揃っている。
綺麗な金髪、端麗な容姿で市井からの人気の厚い、リーダーである勇者ライル。
パッと見、線が細目の美女でありながら、その実類稀な腕力を持ち、純粋な剣術ならライルですら敵わないほどの実力を持っている赤い長髪の女剣士サーラ。
長く綺麗な黒髪と赤い眼を持つ、特徴的な見た目の寡黙な美少女・・・賢者アイラ。
ウェーブのかかった青い髪の美少女、回復役としてはシュウの後輩にあたっていた法術師アリエス。
そして目を引く綺麗な銀髪をした美女、強力な魔法使いレーナ。
この場にいる全員がシュウのことを黙って見つめている。
ライルの言うことに対し、特に異論も何も挟んでこないところを見るに、既に話はパーティー全員とついているのだろうということをシュウは察した。
「・・・」
シュウはちらりとレーナの方へ目をやる。
レーナは僅かに目を逸らすだけで、特に何かを言うことはなかった。ちなみにレーナはシュウの婚約内定者、という関係である。
「全員が追放に賛成であると?」
シュウの問いに、ライルが頷いて答えた。
「そうだ。これはパーティーメンバー全員の総意だ」
ライルは渋面を崩さずにそう言うが、その口元が僅かに緩んでいることにシュウは気付いた。
(なるほど。私を追い出すことに全員の合意が取れたことがそれほど嬉しいのか)
そこそこの付き合いであるはずのライルの変貌ぶり、婚約内定者であるレーナを含めたパーティー全員が自分の追放に賛成しているという事実に、シュウはやるせない気持ちになり、もはやすぐにでも去りたい気持ちになるが、しかし彼にはそうはできない理由があった。
「理由をお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
別に心から聞きたいことではない。しかし一応は建前上聞かなくてはならないことだったから聞いた。
「理由ね。まずはシュウさんは僕達の実力についてこれていない。これが第一の理由だ」
ライルの言葉に、パーティーの何人かがコクリと頷いた。
(まぁ、そうでしょうね)
これにはシュウ自身も自覚があった。
シュウは神官であり、聖魔術や薬学を駆使した傷の回復が得意であるが、逆に言うと取柄はそれくらいであった。
パーティーでは常に後方に控え、怪我をしたメンバーがいれば即座に回復する・・・それがシュウの役目である。前衛に出て殴り合うなんてことはしないし、遠距離攻撃の魔術を使うことも出来ない。
だが、パーティー初期の頃はそんなシュウの回復術を重用したこの『光の戦士達』も、今では法術師アリエスという、より優れた回復役がいる。
アリエスはシュウの持つそれよりも遥かに高い魔力を持ち、強力な回復魔術を何度も使うことが出来る。アリエスがその回復魔術を使えるようになったここ最近は、はっきり言えばシュウの出番はほとんどなかった。
とはいえ、厳密に言えばアリエスの魔力も無尽蔵ではないために、万が一を考えれば回復役のストックとしていられないこともないのだが。
「そして二つ目。そんな実力の劣るシュウさんがこのパーティーにいることによって、メンバー間で不和が起きかねないというのがある」
「と、言うと?」
「はっきり言ってしまえば、足手まといということさ」
本当にはっきりと言うなぁとシュウは思ったが、実にわかりやすかった。
足手まといがいるとそれだけでパーティーの空気は悪くなる。
実力不足で足手まといでしかない。
これだけ理由を聞ければ、追放されるのも仕方がないだろう。むしろこのまま『光の戦士達』に留まり続けると思うことのほうに無理がある。
情だけで帝国の、ひいては人類の希望を担っているこのパーティーに残るべきではない。
「理由はわかりました。それでは・・・」
「それと何より最後にもう一つ」
理由については納得したシュウは、これで話を終わらせようと思ったが、話はどうやら終わりではないようだった。まだ他にあったのか?とシュウはライルが何を言うのか待つ。
「この『光の戦士達』は、今や魔王を倒す可能性があるとさえ言われている、世界でも最も期待のかけられているパーティーだと言うのはわかるよね?」
「え、えぇ・・・それはわかりますが」
どことなく得意そうな顔をしながらそう言うライルを見ながら「昔に比べて随分と傲慢になったというか、変わったなぁ」などとシュウは嫌な感慨深さを感じていた。
「その僕達の中に、素行不良者がいては後々に恰好がつかなくなるんだ。正直なところ、これが一番の理由と言っていい」
「え?」
「シュウさんがいつも夜にひっそりと抜け出して、酒場へ飲みに出ているのは知っている。浴びるほど酒を飲み、大騒ぎをして、娼館に通いつめているね?個人の自由だと言いたいところだけど、『勇者』認定までされている僕のパーティーメンバーとしてそういう人がいるというのは、イメージを壊すというか、醜態でしかないというか・・・まぁ、わかるよね?」
「・・・」
苦笑いをしながらそういうライルに対し、シュウは冷や汗を浮かべて何も言い返すことが出来なかった。
(バレていたのか・・・!)
毎晩毎晩飲みに歩きに出ていきながら、シュウはバレてないと本気で思っていただけに大きくショックを受けていた。
「依存症かってくらい飲む、打つ、買う。そんな人間が勇者パーティーにいるというのは、正直どうなのだろうかと各方面から忠告を受けていてね。最もな話なんで、僕としても残念だけどここらで清算することにしたんだ」
反論する余地もない。ライルの言葉にシュウは穴があったら入りたい気持ちになった。
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