第6話



扉を開けると、そこには、副担任の菊池先生が居た。



「あれ、僕の家なんかにどうしたんですか?」


「どうしたって、君の様子がおかしいらしいから、話をしにきたんだよ。」



あぁ、そういえばそうだった。


未来の事でいっぱいいっぱいでそんな事忘れてしまっていた。



「とりあえず中に入れてもらえる? 外が思ったよりも寒くて…………。」


「あぁ、どうぞ入ってください。」



まだ雪は降っていないものの、もう大分肌寒くなってくる時期だ。


そんな中、ここで話しをするのは申し訳無い。


俺は菊池先生を家の中に入れた。


菊池先生を家に入れ、リビングへ行こうと振り返ると、そこには未来が居た。



「へー。こんな時に女の人家に入れちゃうんだー。へー。先輩ってそういう人だったんですね。へー。」



こいつ、俺をからかってるな?


怒ったような事を口にしてはいるが、明らかに顔がニヤニヤしている。


それに反応する訳にもいかないので、無視してそのままリビングへと向かう。



「あ、今温かいお茶出します。」


「お、いいのかい? じゃあ、ありがたく貰おうとするかな。外が寒くてね。」



おぉ、まじで頼んでくるのか。


まぁ、一応茶葉ときゅうすは家にあるので、お湯を私、温かいお茶を入れて先生に出した。


俺が先生に向かい合うように座っていると、またもや未来が話しかけてきた。


「…………先輩。その心遣い、あんまり私以外の女の子にやらないで欲しいです…………。」



そう言って、未来は少し潤んだ目で上目遣いをしてくる。


うん。天使。


何故この子はこんなにも可愛いんだ?


嫉妬は醜いものだとよく言われるが、こんな可愛い嫉妬ならいくらでもして欲しいものだ。


もちろん俺はモテようと思ったり、未来以外の人に好かれようなど微塵も思っていないので、先生に怪しまれない程度にこくりと首を縦に振った。


俺の返事に、未来は嬉しそうに笑った。


少しして、お茶を飲み、少し温まった先生が話し始めた。



「さっきから様子を見ていたが…………うん。そこまで酷い状況じゃ無さそうだな。今にも人を殺しそうな様子だったと聞いたのだが…………。」


「まぁ、間違ってませんよ。僕は未来を殺したヤツらを絶対に許す事はできないし、今でも殺してやりたいですよ。」


「っ!? そ、それは…………。」


「けど、それはやめる事にしました。そんな事しても、未来は喜ばない。逆にそれで捕まったら未来を悲しませてしまう。だから…………やめたんです。」



天国の誰々がきっと悲しむとかそんな曖昧なものじゃなく、確実に悲しんでしまうからな。



「良かった。はぁー、緊張した! 君はずっと真面目に授業とかも受けてきて、真面目に生きてるのに、それをあんなクソ野郎共のせいで台無しにされるとか可哀想だからね。何としてでも止めようと思ってたけど、自分で止められたのね。」



自分で止められたわけではない。未来が止めてくれたのだ。


やっぱり俺は未来が居なければダメなようだ。



「他に悩みとかは無い? 体調も大丈夫?」


「はい。体調に至ってはいつもよりいいまであります。」



だって、生きてる時出来なかった、未来を抱き締めるという事ができたのだ。しかも、告白も…………多分成功したのだ。


心も体も絶好調に決まってる。



「教師がこんな事言うのもなんだが、今週と来週位は休んだ方がいいと思う。多分その間は噂話が結構されてると思う。お前もいい気分はしないだろう。」


「まぁ…………そうですね。今の状況で奴らのの噂話を聞いて、誰なのかわかってしまったりしたら…………。」


「うぐっ、だ、だよなぁ。」



先生はそう言うと少し項垂れた。



「では、お言葉に甘えて少しの間休ませてもらうことにします。」


「分かった。何か辛いことがあったらなんでも相談に乗るぞ。教師の人達みんな心配してたからな。特に担任の本間先生なんかはいつものあの厳しい雰囲気では考えられない程オロオロしてて、凛斗は大丈夫か? とか、なんて言ったら思いとどまってくれると思う? とかずーっと言っててな。まぁ、しっかり休んで、気持ちも落ち着かせて、また元気に学校に来てくれ。約束だからな!」



そう言って菊池先生は拳を突き出してきた。


俺は大きく頷き、その拳に自分の拳を合わせた。


何だか、人間の温かさに触れられたような気がして、何だか嬉しかった。


本間先生には電話で結構きつい口調で話してしまったと思うし、今度あったら謝っておこう。


その後、菊池先生はプリント類を俺に渡した後、学校に戻って行った。



「先輩。」


「ん? なに?」



俺は後ろから未来の声が聞こえたので、振り返ろうとすると、背中に柔らかい感触を覚える。


未来が後ろから抱き着いてきたのだ。



「先輩は、まだ私をいじめた子達を殺したいですか?」


「…………あぁ。これだけは本当に許せない。」


「そうですか。…………これを聞いたら先輩は引くかも知れないですけど、話しておきたいことがあります。嫌いにならないでくださいね?」



引くはずは無い。というか引いたとしても、俺は未来にベタ惚れな為、それが揺るぐはずは無い。



「聞かせてくれ。」


「分かりました。じゃあ、話しましょう。」



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