厨二病の後輩が遂に本物になっちゃった件
黒飛清兎
第1話
登校中。
俺は声をかけられる。
「はぁ、またお前か? 友達居ないのか?」
「む、心外ですね。私はその…………そうだ! 先輩に取り着いている霊共から先輩を守るために…………!」
「あー、はいはい、分かったよ。」
そういう彼女は
後輩と言っても俺もこいつも別に部活に入っているわけじゃないから特に絡みも無いはずだんだが、何故かこいつはずっと付きまとってくる。
まぁ、こいつの容姿はまぁまぁ可愛いくて、嬉しいっちゃあ嬉しいのだが…………。
「ふふふ、先輩は私の力が無いと生きていけないのですよ! この右眼に宿りし漆黒の…………!」
「あー! あー! わかったわかった! わかったからもう喋らないでくれ! ご近所さんから変な目で見られるだろ!」
そう。こいつはなかなかの
右眼に眼帯を付け、腕には包帯を巻いたりしていてかなり痛い。
これでも校則は守っているらしい。
校則を守っていると言えど、こんな格好をしていると勿論クラスから浮く。
だから少なくともこいつに友達と言う友達は居ない。
哀れな奴だ。
「むー! またその私を哀れみる顔! また私に友が居ないことを哀れんでるんですね!? 私はいいんですよ、私の力を恐れて普通の人間とは仲良くなれないんですから!」
だったら俺はどうなんだよ。と、思うが、本人曰く「先輩には霊が沢山ついているから大丈夫」とかいうよく分からない答えしかかえってこないので、もうこの事について考えることはやめることにしている。
「もぅ、本当に先輩は困った人ですね。」
未来はそう言うと両手を広げやれやれとする。
少々ウザイ。
「えいっ。」
「ぴゃぁっ!」
俺が額を小突くと、未来は変な声を上げた。
「な、ななな、何をするんですか!? 痛いですよ!」
「いや、ちょっとウザかったから。」
「ウザかったって何ですかウザかったって!?」
未来は額を抑えながら文句を言ってくる。
本当にこいつは…………痛々しい厨二病さえ直せればただの可愛い女の子なのに…………勿体ない。
「ほらっ、さっさと学校に行かなきゃ遅刻するぞー。」
「そんな事くらい分かってますよ! 哀れな下等生物である先輩に付き合ってあげてるだけです!」
「はいはい…………。」
哀れなのはお前なんだけどな。
そんな事を考えているうちに学校に着いた。
「…………じゃあ先輩。
「あぁ。
俺と未来は先輩と後輩の関係だ。つまりはここで一旦のお別れと言う訳だ。
まぁ、いつも授業が終わったあとはすぐそこの公園で待ち合わせをして一緒に帰るからまたすぐ会うんだけどな。
俺はいつも通り自分の教室へと向かった。
◇◇◇◇
周りでは陽キャ共の会話が聞こえる。
彼女がどうとか、別れただかなんだか本当にイラつくが、俺はそんな会話聴こえてないかのように机に突っ伏す。
そう。秘技寝たフリである。
時は昼休み。
1年生の頃、友達が出来なかった俺は2年生こそは誰かと友達になりたいと思ったが、1年生で培ったコミュ力を舐めないでもらいたい。
そんな俺はお昼休みに昼食をとったあと、あの何もやる事がない微妙な時間を耐えられるはずがない。
だからと言って外に出ても、また陽キャ共が遊んでいるだけだ。
俺に居場所は無い。
つまり、俺に必要なのは周りに干渉をせず、なおかつ周りに干渉されないすべ。
つまりは秘技寝たフリなのだ!
キーンコーンカーンコーン
はぁ、俺は何を考えているのだろうか。
どこからともなく押し寄せてくる虚無感に押し潰されそうになりつつも、俺は真面目に授業を受ける。
お陰で教師たちからの評価は
こんな劣等種を優等生と言う日本は本当にどうにかしてると思う。
はぁ、早く授業が終わらないかな。そうすれば少なくとも
俺の日々の活力はそこから来ていると言っても過言では無い。
あと2時間
あと1時間
俺は誰とも話すこと無く荷物をまとめ、教室を後にした。
◇◇◇◇
俺は小走りで公園へと向かって行く。
公園まであと少しという所で俺は走るのをやめ、ゆっくりと歩き出した。
息を整え、とんだ髪を直し、姿勢を正す。
俺が授業中も何時でも早く会いたいと思ってる事なんか知られたら俺は恥ずかしくて死んでしまう。
はっきりいって俺は未来の事が好きだ。
というか大好きだ。まじ愛してる。
だからこそ、絶対に嫌われたくない。
未来はたまにそっち系が好きな男子から告られている。
その場面は俺も見た事がある。
俺と同じくぼっちである未来は確実に困っているだろうと思い、いつ助け舟を出すかタイミングを伺っていると予想外なことに未来はきっぱりと断っていた。
俺はその様子を固唾を飲んで見ていた。
その時の未来の冷酷な表情は今で忘れられない。
そしてその時俺は悟ったのだ。
未来は俺が好意を寄せていなかったからこそ仲良くしてくれていたんだ。
だからこそ俺はあいつに行為を寄せている事をバレないようにしなくてはいけない。
早く会いたかった様子なんかバレたら「先輩もそういう人だったんですね。見損ないました。さようなら」って言われるに決まってる!
うぅ、涙出てきた。
これも拭いてっと。
よし。準備万端だ。
俺は公園へと歩みを進める。
「あれ、居ない。」
いつもはこの時間になると必ずこの公園のベンチあたりで俺を待っている筈なのだが、何故か今日はその姿が何処にも見当たらなかった。
「まさか何かあったんじゃ。」
俺はそう思ってすぐさまメールを送った。
すると、メールはすぐにかえってきた。
ほっとしながらメールを確認すると、どうやら今日は用事があるから先に帰っていて欲しいとの事だった。
「はぁ、用事があるなら先に行ってくれよ。」
俺は公園をそのまま通り過ぎ、家へと向かった。
未来に用事がある事は珍しいため、少し気になるが、あまりプライベートに干渉しすぎるとあまりいい印象は持たれないだろうから、メールでは少し素っ気なく了解と伝えるだけに留めておいた。
できる男である俺は無駄な詮索はしない。
それに、どうせ明日になったらまた会えるんだ。その時になったら何か話してくれるだろう。
俺は久しぶりの孤独に耐えながら足早に帰宅した。
◇◇◇◇
「…………。」
おかしい。いつまで経っても未来が来ない。
いつもならこの時間にはほぼ必ずと言ってもいい程俺の家の前に居るはずの未来の姿が何処にも無い。
寝坊か?
俺はそうは思ったが、すぐさまそれは無いなと考えを改めた。
未来はあれな感じだが、意外にしっかりものなのだ。
だから未来が寝坊した事など見た事が無いし、寝坊するなどとも思えないのだ。
風邪を引いてもすぐに連絡を寄こすし、今日みたいに何も無い日に未来が俺の家の前に居ないのは初めてなのだ。
周りを念入りに見渡しても未来の姿は無い。
未来は悪戯をするような性格でもないから何処かに隠れている事もないだろう。
俺はキョロキョロしながらゆっくりと歩き出した。
このままここに居たら普通に遅刻してしまうし、今日は何か仕事があって先に登校したのかもしれない。
俺は
だが、それが間違いだった。いや、正確に言えばもう手遅れだった。
それから俺は今までの人生で一番の絶望を味わう事となる。
◇◇◇◇
遅刻ギリギリで学校に着いた俺は出来るだけ気配を消して自分の席についた。
なんだろう。今日は妙に騒がしいな。
いつもクラスの陽キャ軍団はホームルームが始まる前まで喋ったりしているが、今日はそいつらだけでなく、なんというか、学校全体が騒がしかった。
何かあったんだろうか。
誰かに聞こうにも俺は友達が居ないので、情報が何も無い状況だ。
俺が周りの会話に聞き耳を立てようとしていた時、扉が開く音がした。
喋っていた生徒たちが一気に静まりかえる。
うちの担任はかなり怖い人で、昔1回思いっきり喝を入れられたことがあり、それ以来クラスの人達はビビって扉の音が聞こえただけでも静かになるようになったのだ。
先生は俺たちを一瞥した後、教卓に着いた。
「起立、礼。」
日直がそう言うと、クラスの全員が立ち上がり礼をした。
先生は無言で何かのプリントを配っていく。
これは…………いじめアンケート?
滅多に配られるものでもないが、特に珍しいものでも無いので、俺は気にせずにそれをファイルにしまった。
全員にプリントが行き渡ると、先生は話し始めた。
「まず、お前らも知っていると思うが、昨日、1年生の女子生徒が飛び降り自殺したそうだ。」
心臓が異常なまでに脈打つのを感じる。
俺は最悪の考えが頭をチラつくのを必死に気づかないようにしながら、ただ無感情で先生の話を聞いた。
「原因はクラスメイトからのいじめだったそうだ。その生徒の所持品から遺書が見つかった。そこには誰がとは明確には書かれていなかったが、クラスメイトからのいじめに耐えられなくて自殺してしまったようだ。」
少なくとも、あいつがいじめられている所なんて見た事がないそれにいじめられている様子も無かった。
だけど…………。
最悪の考えは俺の頭から消えてくれなかった。
「お前らの中でいじめなんかが起こっているとは思えないが……………まぁ、一応だ。いじめアンケートが配っておく。お前らわかってると思うが、くれぐれも嘘は書かないでくれ。次に…………」
その後も先生は連絡などを話し続けたが、俺の頭には何も入ってこなかった。
そして、今日と明日は色々とやらなくてはいけないことがあるため、休校となるそうだ。
そして俺は何も無いまま家に返された。
帰宅途中、俺は歩きスマホをしながら未来へと電話をかけたり、メールを送ったりした。
返信はない。
俺は自分の家に帰ることは無く、そのまま未来の家へと向かう。
家に着いたら、未来が元気な姿でそこにいて、いつもの調子で俺に痛い発言をしてくるはずだ。そうに違いない。
先生はその女子生徒の名前を言わなかった。
いや、言ったのかもしれないが、俺は聞かなかった。
その女子生徒は未来なはずが無い。
あの未来が死ぬはずがない。
頭の中でそんな思考がぐるぐると巡っていた。
そして、未来の家に着いた。
未来の家には何回もお邪魔した。
その度にゲームをしたり、本を読んだり、一緒に色んなことをした。
そのうち、未来の家は俺にとって自分の家よりも好きな場所だった。
しかし今はどうだろうか。
今の未来の家からは楽しい雰囲気など感じられず、とても入りがたいおどろおどろしい雰囲気が漂っている。
ピンポーン
俺はインターホンを鳴らした。
「はい…………。あ、あなたは…………。」
出てきたのは未来のお母さんだった。
明らかに顔色が良くない。
「どうぞ、入ってください」
「分かりました。」
俺は未来のお母さんに促されるまま、リビングに入った。
俺と未来のお母さんは向かい合って座る。
少しのあいだ沈黙が続き、ようやく未来のお母さんが話し始めた。
「ここに来たってことは…………未来が自殺したことはもう知ってるんですね?」
「…………。」
聞きたくなかった。
未来が自殺した。
もう薄々勘づいていたことだったが、心のどこかで、勘違いなんじゃないか。自殺した女子生徒は未来じゃなくて、他の女子生徒なんじゃないかという考えが残っていた。
しかし、未来のお母さんから告げられたその一言で未来の死は確定してしまった。
「ううっ……うぁっ…………。」
突然の別れに涙が止まらなかった。
俺が泣いていると、呼応するような未来のお母さんも泣いていた。
未来のお母さんは泣きながらも俺に喋りかけてきた。
「あなたには感謝しているんです。あの子とあそこまで親しくしてくれたのはあなただけだったので…………。けど、あなたがもっと支えてあげていれば…………あの子は…………。」
そういいかけて、未来のお母さんはハッとした様な顔をした。
「ごめんなさい…………。」
部屋には俺の啜り泣く声のみが響く。
当分泣きやめそうにも無かった。
俺は自分では未来との仲はとても親しいものだと勘違いしていたのかもしれない。
未来のあの痛い発言の中に隠されたあいつの悩みすら気づけなかった。あいつの心の支えになってやれなかった。
泣いても何も解決しない。
それは分かっているのに、涙は止まらない。
気づけば時計は夕飯時を指し示していた。
「ごめんなさい。長居してしまって。」
「いえ…………。明日未来の通夜があります良かったら来てください。」
そう言うと、未来のお母さんは日程や場所の書いた紙をくれた。
俺は泣きながら暗くなった道を進んだ。
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