第46話 終局

「テラスティーネが二人?それにその赤子はどうされたのですか?」

 アルスカインは、私の後ろに赤子を抱いて立っている少女を見て問いかけた。


 今日はこれまでの経緯を説明するため、私、テラスティーネ、アルスカイン、フォルネス、アンダンテが集まった。皆、円卓に向かって腰かけている。

 既にミシェルによって、お茶の用意が調っている。ミシェルは我々に向かって一礼すると、部屋を出て行った。


 私は2人を指して説明する。

「テラスティーネに似たこの少女はアメリアという。もともと魔王が作った自動人形だったが、取引を持ち掛けてこちらに協力してもらった。アメリアが抱いている赤子は元魔王のエンダーンだ。」

「は?その赤子が魔王ですか?」

 アルスカイン、フォルネス、アンダンテが驚いたように2人を見る。


「私が力を奪ったので、それに伴って赤子の姿になった。」

「カミュスヤーナ様が、テラスティーネ様とのお子をもうけたのかと思いました。」

 アンダンテがさらりと爆弾を投下する。

「アンダンテ・・。テラスティーネは成人前だが。」

 隣に座っているテラスティーネを見ると、なぜか顔を赤くして照れている。


「アンダンテ。そういうことは言うのをやめてちょうだい。恥ずかしくなるから。」

「かしこまりました。でもお2人の仲が良くなられたようで、よかったです。」

「・・それについては心配をかけた。」

「ここに魔王がいるということは、干渉の脅威は去ったと考えてよろしいですか?」

 アルスカインが話の隙をついて口を挟む。


「魔王に奪われたものは全て元に戻った。それにエンダーンはもう魔王ではない。魔王は私だ。」

「・・・。」

「魔王を倒した者が魔王になる。」


「・・・兄上は魔人の住む地に移られるおつもりか。」

「当初の予定通り、摂政役としてこちらに残る。魔王はこちらの領主とは違って、領政、いや治世か。それに関わらない者もいる。エンダーンは館に住むもの以外、民を率いていないようだから、仕事の合間にあちらに向かって体制を調えればいいだろう。」

 私がこちらに残ると聞いて、アルスカインとフォルネスが、安堵したように息を吐いた。


「エンダーンは、本人の希望によりアメリアが面倒を見る。懸念は成長した時に今までの記憶が戻る可能性があることだが・・その時には私が対処するので問題ない。2人には、しばらくテラスティーネの館に滞在してもらう。あちらの体制が調ったら、先んじて移動してもらおうと考えている。こちらは魔人としては生きにくい故。」


 アメリアは皆の視線を受けて、こくりと頷いた。

「エンダーン様が皆様にご迷惑をおかけしないよう、教育していきますので、その点はご安心くださいませ。」

 テラスティーネと同じ声で言葉を紡ぎ、アメリアはニッコリと笑った。


「次にテラスティーネの件だが・・。アンダンテ、院の方はどのように話を付けてある?」

「半年お休みされているので、その分は補講授業で対応いただくことになりました。来年卒業したら院で教鞭をとられる予定でしたが、いつ通えるようになるかがわからず、教師としての前提授業に参加ができるか未定でしたので、教師になる話は一旦なかったことにしていただいています。」


「教師になる件は致し方ないな。後ほど私の方から院側には話しに行く。双方が戻ったので、延期になっていた婚姻の儀とアルスカインの領主就任を行うつもりだ。どちらも準備はできているな。」


「念のため確認しますが、兄上とテラスティーネが婚姻するということで、よろしいですね?」

 私はアルスカインの問いかけに、テラスティーネの方を見やった。テラスティーネが頷いたのを見て、アルスカインに向き直る。

「双方の意識は折り合わせ済みだ。それで問題ない。」

「それならよいのです。」


「フォルネスもすまなかった。意にそまぬ婚約を押し付けてしまった。そなたの婚約はこれをもって破棄する。」

「かしこまりました。」

 フォルネスが胸に手を当てて、頭を下げた。

「他に婚約したい者がいるなら、希望を受け付けるが。」

 私の言葉にフォルネスが珍しく顔を赤くさせ、視線をさまよわせた。


「・・まだ相手と話し合えておりませんので、準備ができましたら、お声がけします。」

「承った。」

 アンダンテがフォルネスの方にチラチラと視線を送っている。

 フォルネスは気が動転しているのか、その視線には気づいてはいないようだ。

 私は口の端をあげて、2人を見やった。

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