第32話 水色の姫君
「テラスティーネ様ですか?なぜカミュスヤーナ様の工房に?そして、そのお姿は一体。。」
カミュスヤーナの従者であるミシェルは、工房の中にいる少女を目にして声を荒げた。
「静かにして。ミシェル。カミュスヤーナ様が起きちゃう。」
少女は口の前に人差し指を立てて、静かにするようにささやく。
ミシェルは少女の様子を改めて見つめる。水色の足首までありそうな長い髪に、深い青い瞳。服代わりなのか白い布を身体に巻き付けている。
部屋の奥では、何も載っていない寝台の横に、プラチナブロンドの髪の青年が倒れている。
「カミュスヤーナ様・・!」
「だから大きな声を出さないで。眠っているだけだから、大丈夫よ。」
でも、私では寝台の上に引き上げることができなかったのよ。と少女は言葉を続ける。
「私もカミュスヤーナ様も、まだ工房の外に出ることはできないの。中に入って、カミュスヤーナ様を寝台に寝かせてくれないかしら。」
「かしこまりました。お待ちください。」
食事の用意が載ったワゴンを一旦脇に追いやって、ミシェルは工房の中に足を踏み入れた。
工房の中には大きな作業机と、いくつもの棚、そして寝台がある。
寝台の横に倒れているカミュスヤーナの身体を持ち上げ、寝台に横たえた。
カミュスヤーナは規則正しい寝息を立てている。
「ありがとうございます。ミシェル。」
「食事の準備をしてきましたが、どうされますか?」
ミシェルの言葉にテラスティーネは小首をかしげた。
「冷めちゃうし、私が代わりに食べるわ。そこの机に用意してくれるかしら。他にもお願い事があるのだけど。」
「はい。何か?」
「私の服を準備してほしいのと、フォルネス様を呼んでくれないかしら?」
「フォルネス様ですか?かしこまりました。先に服を準備させていただきますね。」
「助かるわ。あとこの件はフォルネス様以外には話さないで。」
「服を準備するのに、テラスティーネ様の侍女には連絡を取らないといけないのですが。」
「アンダンテには後ほど私から説明するから、それを待つように伝えて。」
「かしこまりました。」
ミシェルはテラスティーネに対して、胸に右手を当てて、軽く身をかがめた。
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