借金令嬢の領地改革~蒸発した両親の代わりに領主をやることになったので、身売りされる前に大金持ちに成り上がります~
ジャジャ丸
第1話 朝起きたら当主になってました
「突然ですがルリス様、今日からあなた様には領主になっていただきます」
「はい?」
小鳥のさえずりが聞こえて来る、長閑な朝のひと時。
いつものようにベッドから体を起こした私を待っていたのは、専属メイドのミアからのそんな一言だった。
「いきなり何を言っているの? 私、まだ十歳なんだけど?」
寝ぼけてるのかと思って、私はそう問い返す。
私の名前は、ルリス・フラウロス。フラウロス男爵家の長女だ。
煌びやかな白銀の髪に、エメラルドのごとく輝く翠緑の瞳。
白磁のように透き通った肌を持つ私は、将来確実に美人になるだろうと噂されるほどの容姿を持ちながら、百年に一度の逸材と言われるほどに頭脳明晰。
より正確に言えば、前世の記憶を持つ転生者だったお陰で、他の子供よりもずっと理性的で物覚えが早かったの。
その気になれば、国王の側室すら狙えるんじゃないかと、夢見がちな両親から英才教育まで施されていただけあって、そこらの大人より……もっと言えば、その両親よりは確実に賢く育ったと思う。
それでも、私は十歳だ。成人もまだだし、何の力もないただの幼女だ。
そんな私に領主をやれとは、どんな妄言だと問われても仕方ないだろう。
けれど、ミアは全く動じることなく、ごく当たり前のように告げた。
「フラウロス男爵家を治めていたルリス様のご両親が、借金を残して夜逃げしましたので……自動的に、その唯一のご息女たるルリス様がこの家の主となります。ついでに、借金返済の責任もついてきますが」
「嘘でしょぉぉぉぉ!?」
借金!? 夜逃げ!? 何それ、私聞いてないんだけど!!
「どうやら、当主様ご夫妻で合わせて相当な額のお金を借り入れていたらしく……これがその明細になります」
ミアから紙をひったくり、その内容に目を通す。
なまじ、この世界に転生してからたくさん勉強してきたからこそ分かる。分かってしまう。
その借金が、どれだけふざけた内容かってことが。
「何をどうしたらこうなるのよぉぉぉ!?」
商人や貴族はおろか、闇金にまで手を出して借りまくった借金の総額は、男爵領の年収にして実に十年分近い額に上っていた。
それだけあれば、当然のごとく利息もヤバい。年収全額注ぎ込んでも利息分にすら届かないって何? 普通こんなに借りれないよ? お父さんもお母さんも、こんなところで変な才能発揮しないでよ。私泣くよ?
「当然ながら、こんな多額の借金を返すことなど不可能です。困り果てた当主様ご夫妻は、ありとあらゆる物を売却し始めました。男爵領の統治権や財産、その他もろもろ全て。まあ、それでも足りなかったので夜逃げしたわけですが」
「最悪じゃん……」
「ちなみに、売却されたものの中には娘であるルリス様も含まれています。幼女趣味で有名なコーンウェル侯爵が、ほぼ言い値でルリス様を買い取ったそうですよ。既に契約は交わされているので、破棄したければ買い戻すしかありません」
「本当に最悪じゃんーー!!」
この売却金は借金の返済ではなく、高飛びのための資金にされたようですね。などと、軽い調子でいらない情報までくれるミアに、私はよほど噛み付きたくなった。物理的に。
「そして、こちらがそんなお二方がルリス様宛にと残されたお手紙です」
こんな悲惨な状況にしておいて、この上どんな言い訳を残したというのか。
滾る怒りに震えながら、それでも一応は産みの親だしと目を通して……。
愛するルリスへ
ごめんね!
「うがぁーーーー!!!!」
ついに我慢しきれず、私はその手紙を食い破った。
何が「ごめんね」だ!! こんなふざけた仕打ちを娘にしておいて、この一言で済ませる気かあいつらぁーー!!
「というわけで、実際にこのフラウロス男爵領及びルリス様ご自身が他の方の手に渡るまでの一ヶ月間、ルリス様には当主としてのお仕事を……」
「この状況で呑気にお仕事なんて出来るわけないでしょおーー!?」
私、幼女趣味の変態貴族に買われたんだよ!? このまま一ヶ月が過ぎたら、一体どんな目に遭うか想像もつかない。
涙ながらに叫ぶと、ミアは「でしょうね」とあっさり流す。
「なので、ルリス様には運命に身を委ねる以外に二つの選択肢がございます。一つは、このままご両親と同じく逃亡すること。個人的にはこれを推します」
「まあ、うん、この状況だし、そうなるよね……」
「私達二人きりで、誰もいない無人島に移り住み、しっぽりむふふで淫らな関係を築きましょう」
「そうだった、こっちも変態なんだった」
真顔でとんでもないことを口にするミアに、私は頭を抱えた。
そう、この人、メイドとしてはとっても有能なんだけど、ちょっと趣味がアレというか、私に惚れているらしい。そっちの意味で。
ラブを表明するだけで、今のところ手は出してこないけど……無人島で二人きりになんてなったらどうなるか分からない。それでも変態貴族よりは遥かにマシだけど。
ただ、ミアに食べられることを許容するとしても問題はある。
借金から逃げても、それから先一生借金取りに終われ続ける毎日が待ってるんだ。それは嫌だ。
「出来れば却下の方向で。もう一つの案は?」
「残念です……」
心底残念そうに呟くミアに、再度がっくりと肩を落とす。
そんな私の気を知ってか知らずか、ミアはそのまま語り続けた。
「もう一つの案というのは……一ヶ月以内に、この借金を完済してルリス様の権利を買い戻すことです」
「……到底返せない額って、さっきミアも言ってなかった?」
「言いましたね。ですが、ルリス様なら不可能ではないと思っております」
「…………」
そう、こんな変態でありながら、未だにミアを専属のままにしていたのは……こうして、私のことを心から信頼してくれてるからだ。
実際、そうでなければ……こんな風に私のために状況を教えたりなんてせず、お父さん達と一緒にこんな家逃げ出せばよかったんだから。
「うん、分かった。私、やるよ」
ただでさえやるしかない状況で、その上ここまで言われて泣き寝入りだなんて、そんな恥ずかしい真似出来るわけない。
こうなったら、やってやろうじゃない。
「バカな両親が残した借金、私が全部耳を揃えて返してやるわ!! 私の貞操を、この変態どもに奪わせないために!!」
「さらっと私を
「…………」
そういえば私、寝起きのままだった……。
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