第6話 王子の孤独

「熱いくらいの情熱だね」


 風太ふうたの告白が、芽生めい裕貴ゆうきに強烈な余韻よいんを残していた。


「風太の気持ち、気付けなかった……」


 裕貴をカフェに同行させた事をやむ芽生。


「そんなに想われて良かったね。いさぎよくていい奴だから、つなぎ止めておくべきだよ」


「繋ぎ止める……って?」


監視かんし期間が終わったら、付き合えるように」


 裕貴の口から、そんな言葉が出るとは思わなかった芽生。


(何それ? 私は、富沢とみざわ君にとって、ただのこま……?)


「監視が終わったら、富沢君はどうするの? 親同士が決めた婚約者がいるとか?」


(監視から解放されたら、ホッとするはずなのに……何だか、心にポッカリ穴が空いたような感じ……)


「どう……って、いつも通りの生活だよ。婚約者もいないし」


「いつも通り……?」


「知りたい?」


(富沢君の秘密をこれ以上知るのは止めるよう命じている自分と、知りたくて仕方ない自分がいる……)


「うん」


「父は海外飛び回っているし、母はあの通り超有名人だから、たまにゴムマスクで変装へんそうして会いに来る」


 裕貴の物憂ものうげな表情が気になる芽生。


「お母さん、忙しそうだものね。ゴムマスク……? それでも、会いに来てくれるんだ」


(富沢君、寂しそう……でも、寂しいって言えなくて、小さい頃からずっと誤魔化ごまかして生きて来た感じがする。だから、彼氏役も上手いんだね)


「会いに来ているのも、ゴムマスクをかぶった影武者かげむしゃかも知れない。メイドとかは、入れ替わり激しいし。いつもそばにいてくれるのは、じいだけさ」


「爺……? あの運転手さん?」


「そうか、芽生も会っていたな。爺は優しくていい人だよ」


 そう語る時の裕貴のひとみ先刻せんこくまでと違い、あたたかみをびている事に気付いた芽生。


(富沢君は、ずっと親からの愛情が足りてなかったんだよね。うわべだけかざった世界ばかり見て育って、誰からの愛情も見返みかえりも期待してない。それなのに、富沢君の言葉に、私だけが、ドキドキ、ハラハラさせられて……そんなの、ズルイ!)


「富沢君は、もう私の事を信用してくれた?」


「まだだよ。それに、もう少し、この雰囲気ふんいきを楽しみたいし」


 テーブルに置かれていた芽生の手をにぎった裕貴。

 風太が抜け、並んで座る2人に、女性客の視線が集中していた。

 裕貴といると、いつも芽生が羨望せんぼうまととなる。


(どうして、そんな期待させるような事を言えるの? 富沢君には自然かも知れないけど、私にとっては不自然なのに……)


 振り回されてばかりなのが、もどかしい芽生。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る