第6章 郷愁

その後、しばらく仕事で忙しく、30番地の方に行くことができなかった俺は、久々に赤い丸の喫茶店に向かう事にした。


新宿7丁目27番地、そこまではたやすく行けた。


しかし、なぜかあの30番地に行く道を見つける事が、できなかった。






それから、十数年後…。



俺は、今日も「お気に入りの喫茶店探し」をしに街をぶらぶらと歩いていた。


ある喫茶店の前で、なぜか、ふと足が止まった。


何でこんなありふれた喫茶店の前で足が止まったのだろうと思い、しばらく考え、何気なくその店の看板を見上げた。


そこには「喫茶 赤玉」と書かれていた。


赤玉→赤い球→赤い丸の店かも…。


俺の頭は、瞬時にそう判断し、気づいたら、店のドアを開けていた。


カランコロン


小気味いい、どこか懐かしい音がした。


中から20歳位の女性が出てきた。


女性「あらっ、こんな時間に珍しい。」


俺「こんにちは」


俺は、その女性に挨拶した。その直後に、彼女はこう言った。


女性「お父さん、お客さん来たわよ!」


女性の父「おぅ、そうか」


そういうと、その女性の父親らしき人が現れた。


女性の父「私がここの店長の赤丸です。何を差し上げましょうか?」


俺「ちょっとお聞きしたいのですが、10年ほど前、新宿7丁目の30番地で喫茶店を開いていませんでしたか?」


俺は、その男性に唐突に訊ねた。


俺「お客様、確か新宿7丁目は27番地までしか無かったと思いますが…、お客様の勘違いではございませんか?当店は十年以上前からここで営業しております」


俺は、少し落胆した。


しかし、なぜかこの店の店長の雰囲気も赤い丸に似ている気がした。


そして、先ほどの女性の雰囲気もそうだ。彼女のつけているリボンが、あの時小丸がつけていた、リボンのシールの柄に、そっくりだったせいかも知れない。


俺は、店長に思いきって、訊いてみた。


俺「『オレオレ カフェオレ』ある?」


店長「えぇ、ありますよ。それでよろしいですか?」


俺「じゃあ、『ホワイトコーヒー』も」


店長「承知いたしました」


俺は、その後、この店に通い続け、店長の娘と 結婚した。


それからも、時々思い出すのだが、あの30番地の向こうでの出来事は、この店で将来起こることを暗示する予知夢のようなものだったのではないだろうか…と。


きっと、そうだったのだろう。


きっと……。


俺は、今、そう思っている…。




  終わり





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