閑話 パウリの都

―― パウリの都


 パウリの都、その中心に位置する丘の上には小さな天守閣のある館が建っている。

 現在は館の持ち主でもある国王は遠征中で不在であるが都の主だったメンバーによる会議が開かれていた。


「まずは新規メンバーの紹介ですね。玉緒たまおさん、よろしくお願いします」

 一礼して会議の進行を務めるのは執事姿をした氷龍クロセルである。元々はフカルア山のダンジョンマスターをしていたが現在はわん太の執事としてこの館の管理をしている。


 クロセルに促されて立ち上がったのは着物を着た狐獣人の女性だ。

「ご紹介にあずかりましたキュウビ族の玉緒です。東の森に転移してきた迷い宿マヨヒヤドの一族でもありますが、この度宿の方がわん太様の管理化となりまして我々一族もわん太様の下に付くこととなりました。城下の方でも新しく宿を出していますのでよろしくお願いいたします」

 頭を下げる彼女の背後にはふんわりと揺れる五本の尻尾があった。


「迷い宿のおかげで東の森も安全に抜けられるようになり海の幸が手に入りやすくなった。流石はわん太様じゃ。ところで親方、街道の工事の具合はどうなってるんだ?」

「海岸の村までは既に開通済みだ。町長が気にしてる南側もエリアボスの居たところに建設中の仮拠点までは開通している。今はわん太殿が南の端でワールドエリアボスを探しているのでその前線基地づくりに若いもんを送り込んでるところだ」

 親方と呼ばれたのは土竜アースドラゴン族の代表の獣人でモグラのような姿をしている。土竜族では族長は代々『親方』を襲名している。

 町長は猫獣人系のドウェルフ族のヒャルメンである。こちらはパウリの町の町長の時からの『町長』呼びが定着していた。


「わん太のワールドエリアボス探しは難航しているようじゃな。頻繁に帰って来ることもできんじゃろから妾達の方でパウリの都は大きくしておこうではないか」

 にやりと笑うヒルメが目の前におかれた酒の器を手に取って飲み干した。


「既に住民および訪問者の増加が確認されています。また、わん太様達の南行によりいくつかの小さな放浪民達の受け入れも進んでいます」

 控えていた男性から皆に資料が配られる。


「冒険者による山沿いの道の調査も進んでいるようですね」

 エリアボス討伐後、そこを拠点としてわん太達は海岸沿いに南下。冒険者グループは山間を抜けるコースを調査しながら南下している。

 わん太達は既に南端へと達しておりワールドエリアボスの捜索にあたっていた。


「ええ、冒険者側は交代制で調査、探索を進めています。南ではなく北行のルートでは海岸の村へのルートも見つけています。しかし、わん太さん達の進行速度早すぎませんか? もう南端に到達して拠点作りですよ――」

 ギルド長の女性は資料を見ながら呆れたような疲れたような声音で呟いた。

 わん太の南行きにはギルドからも複数の冒険者のパーティが同行している。そして、わん太が進む毎に数多くの報告書がギルド長の机の上に積まれていくのだ。


「――ええ、日々早馬や使い魔によって届けられる報告書に交代要員として行き来する冒険者でギルドは大忙しですよ。クロセル様に兵士の増員を頼んでますけど、全然、ぜーっんぜん人手が足りないんですっ!」

 ギルド長は目の前の酒を一気に呷って、潰れた……


「ギルド長は置いておいて、ワシらんとこも人手が足りんのは事実だな。わん太殿は水精霊のナギサ様がいるから荒れ地だろうが湿地だろうが突き進んでるが、ちゃんとした、いや、とりあえずの道を作って追いかけるにも土魔法を使える職人が足りてない。あぁ、後は人員を補充するにも竜車の数も足りとらん……」


 道の整ってきた中間地点までであれば竜車をフル活用すればギリギリ一日で着くようにはなってきた。しかし、その先の前線までは竜車で進めるようにはなっていない。補給が追いつくのはまだまだ先のことになりそうだ。


「……ふむ、我々の第一はわん太様ですから……都の外壁の拡張は後回しとして、南の街道工事と前線拠点の構築に土木関連のリソースは回した方が良さそうですね」

 クロセルの言葉に皆が頷いた。


―― ピコン!


「……しばしお待ちを」

 何らかの通知を受けたクロセルが空中に指を走らせる。

 一部のNPCはプレイヤー同様、システムメニューが使用できるようになっており、メッセージ機能も有効になっていた。


「……わん太様からです。ワールドエリアボスのフィールドと思われる場所を発見したと……」


「なんと!」

「おおぅっ……」


 部屋には感嘆とも諦めともとれる声が響いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る