第86話 冬将軍
「こんにちわ~ん、ぬいぐるみ系VTuber、猫乃わん太わん。今日は南の森を抜けて更に南下したところまできてるわん……」
岩の影に伏せ、小声で配信を始めた。
▽[突然配信始まった思ったらスニークミッション?]
◯[草原かと思ったらあそこだけ雪原が見えるんだけど、それに、甲冑武者?!]
∈[もしかして言ってたエリアボスの冬将軍かにゃ?]
この島の季節は既に夏と言っても良い。フカルア山から吹き上げていた雪も消え、背後に見える山々にも残雪はない。
「けどさぁ、あそこのフィールドだけ完全に冬わん。雪が積もりすぎだと思わないかわん?」
青い甲冑を纏った冬将軍の周囲数十メートルだけは雪で覆われている。
「あれは、近づくに近づけないみゃぁ。あの雪が積もっている範囲は奴の手の内だみゃぁ」
ボクと同じく岩陰から覗いていた
今回のエリアボス戦だがボクらの他にも冒険者や警備隊等で構成されたレイドバトルとなっている。
ただし、エリアボスはボクたち、というか勝魚さんがメインだ。これは勝魚さんたっての願いということもあるが、エリアボスである冬将軍が小型の人型モンスターであり、複数で挑むのに適さないのだ。
なお、エリアボスは眷属を呼び出すのがデフォルトであり冬将軍も大量のスノーマンを呼び出すことが確認されている。
「わん太さん、配置完了しました」
「それじゃあひと当てして一気にいくわん」
みんながエリアボスを囲うように配置についたの確認して合図をおくる。
―― キンッ!
「嘘っ!」「なぜ気付いた」
冬将軍の背後から音もなく放たれた矢が切り落とされた。
◎[えぇっ、あれ気づくの。てか、いつ刀抜いた?!]
▽[おそらくあの雪自体が感知範囲になってる。すこし舞ってる雪でも感知してるな]
◯[あれ、エリアボス戦って開始前に攻撃できるんだ……]
―― エリアボスとの戦闘を開始します。
遅れてアナウンスが流れる。
「それでは、打ち合わせ通り某がお相手仕るにゃぁ」
勝魚さんが刀に手を添え白いフィールドへと踏み込んだ途端、矢を切り払い後ろを向いていた冬将軍が振り返った。
―― ॰अॠऎजोॼचॹॹजऌॼचॼँ
兜の奥の目が紅く光り、呪詛のような聞き取れない言葉が紡ぎ出される。
▽[魔法?! いや、エリアボスなら眷属召喚か!]
◎[おぉぉっ、いっぱいの魔法陣きたーーーー]
∪[うわっ、なんか出てきたぁ]
雪のフィールドに展開された魔法陣から次々と白く丸い塊が生えてきた。
「わん太様、スノーマンが出ます。気をつけてください」
単体ではそれほど強くないスノーマンだが冬将軍が際限なく呼び出すため、未だに突破できていないらしい。
だが、今回はその冬将軍の相手を勝魚さんが行うことで追加の呼び出しを防ぐ作戦である。
そして、勝魚さんは既に冬将軍の目前まで迫っていた。
「いざ、尋常に勝負にゃぁぁっっ!!」
―― キンッ! ガキンッ!
低い姿勢から切り上げられた勝魚さんの刀は受け流され、くるりと回転する勢いで振られた脇差しは小手によって防がれた。
∴[流れるような二刀流。いつ抜いた?!]
◯[二刀流かっけぇー、そういや刀を売ってるところってまだ見つかってないよね]
▽[わん太も実は素早いけど、これは上位互換味が強いw]
勝魚さんは冬将軍の周りを素早く駆け抜けながら攻撃を繰り返している。
「ふふふっ、今日はボクもスノーマン対策の新しい武器で二刀流なんだわん」
この日のために用意したメイスをインベントリから取り出す。
◯[流石はわん太……?]
▽[……それは、武器か? いや、新しい武器というのであれば構わないのだが……]
∈[わん太、それはマラカスじゃにゃいのかにゃ?]
「んん? これは特注メイスわん。まずは長すぎるメイスをボクが二刀流で使いやすいように短めに調整、次に威力と重さを両立させるべく先端部をある程度空洞にしつつ、砂をいれることでインパクトの瞬間にその加速と重量が過不足なく伝わる構造――」
―― シャカシャカ♪ シャカシャカ♫♫
「―― 難点は振るとシャカシャカ音がなることぐらいわん。あ、先端の丸いとこはフェンとヴァンが色を塗って飾りつけをしてくれたわん」
先端部は色鮮やかに塗り分けられ、星やハートマークがあちこちに描かれている。
❤〚……シャカシャカ♫〛
▽[メイス、メイス……マラカスじゃねぇか!!]
∈[どう見てもマラカスにゃぁ!!]
叫ぶリスナーのコメント欄を横目にスノーマンを潰していく。
―― シャカシャカ♪ シャンシャン♪
「ふ~んふふふ~んふふ、てぃっ!」
:――――――――――――――――:
名称:ぼくさつ★まらかす♫
説明:片手で持ちやすく改造されたメイス。
シャカシャカと小気味よい音がなりモンスターのヘイトを集める。
連続してダメージを与えることで攻撃力がアップする。
:――――――――――――――――:
次々と押し寄せてくるスノーマンを無心に殴り飛ばし続けた。
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