第3話 日常が終わり始める出会い



しずくと食卓を囲み、まず私から学校であった出来事や愚痴を2つほど。スッキリした後にしずくから最近の出来事を聞いた。

どうやら黒スーツの噂は小学校にも出回ってるらしく『三嶋七不思議』の1つに早くも入れられているらしい。

そんなたわいもない話を終え、片付けはしずくと共にサッと終わらした。

そうなるとあとは個人のやりたいことへと移るのが千年原家の習慣だ。しずくはリアルタイムのドラマを見に、私はお風呂へと向かったのだった。



「ん~~」


40℃のお風呂に足先からゆっくりと浸かる。この徐々に温もりが伝わってくるのが堪らない。

足がつかり次は膝、そして腰まで浸かると次は先ほどよりもよりゆっくりに腰を下ろす。


「ふわぁぁ…」


思わず緩み切った声が口から溢れてしまう。

肩まで湯に浸かると最後に足を伸ばして全身にお湯を感じさせる。

この時間がなによりも好きだ。体をリラックスさせられるって言うのもあるがそれよりも頭の中をクリアに出来るから。

例えば学校であったことを一つ一つ思い出して今日も楽しかったと笑えるし、例えば日頃、目を背けているものを受け入れるようになるために向き合う時間にしている。

今日、私は向き合うためにこの時間を使うのだった。



母が死んだのは11年前。

母は1日に数時間程度パートを入れていて、そのパート先で母は心臓発作で倒れた。そのパート先から電話が入り、当時幼かった私はただただ母が危険だと思い仕事中の父に連絡。

父と一緒に病院へ行きそこで母の死を知らされた。私としずくが泣き崩れる中、父だけは納得がいかず何度も何度も医師に理由を問いつめていた。なんでも母はとても元気で心臓発作を起こすような持病もなかったからだそう。

しかしどれだけ問い詰めても結果は変わらない。母はこの世を去ったのだ。


私は溢れてきそうになるそれを飲み込むために風呂へ顔を沈めた。

どうやらまだ受け入れるには時間がかかるらしい。




「ふいぃー…のぼせたぁぁ」


「のぼせたって、おねぇまだ20分くらいしか入ってないよ」


廊下に出てきたしずくがうまい具合にツッコミを入れてくる。しかし私にとって20分は長いのだ。

私はだらしなく着崩していたパジャマを指で指摘されふらふらと着直す。


「あ、そうそう。夕方に届いたよおねぇの荷物」


ふと思い出したように手を鳴らして玄関の方へと向かう。帰ってきたしずくの手には小さめのダンボールが収まっていた。


「荷物……? あーそう言えばAmozonでハードディスク頼んでだっけ」


増える生徒会の仕事と比例するように増えていく保存データ。

ハードディスクを買うという結果は必然であるというのに、なぜかハードディスクを買うお金は生徒会費にしてはいけないなんてほんとに酷いや。


先生との悲しき口論を思い出しつつダンボール箱を受け取る。

すると、しずくは少し不思議そうに首を傾けた。


「でもこれ変なんだ。運送の人、庭においてどっかいっちゃってさ」


………なにそれすごく怪しい…


「そんな怪しいもの家の中に入れちゃダメでしょ」


私は持ってしまったダンボール箱に鼻を近付けたりノックしたりするが何の変哲もない、ただのダンボール箱のようだ。


「でもおねぇ受け取りお願いって言ってたし…」


そう言えば生徒会の仕事で絶対遅くなると分かっていたから雫に頼んだっけ……って事は私も悪いじゃん。


でも怪しいものは家に持ち込んじゃだめ、とだけ注意をするとしずくは口を尖らせて頷いた。


「と、とにかく開けてみるか…」


中身が爆弾だったりとかないよね? もしかしたら中身は死体?

まるで映画のワンシーンのように不安を煽るそのダンボール箱は、覚悟してた割にはすんなりと開いた。

すると中身は、


「なんだ、ただのハードディスクか」


中身は真っ黒な四角い箱が入っていた。角の部分は丸められており、ぐるりと回してみるとUSBの差し口とコンセントにつなぐ専用ケーブルの穴だけ存在していた、


(え、説明書とかなし? いやそもそもハードディスクが入ってる箱は? 保証書は?)


そう。このダンボール箱にはハードディスク「のみ」だったのだ。怪しさを極めたハードディスクは照明の明かりを反射してさらに怪しく魅せてくる。


(なに? 無茶苦茶怪しいものか、それともただ仕事放棄をされただけ? でも中身だけを送るなんて聞いたことがない。どういうこと?)


そんな風に熟考していると、


「ふぁあ……もう私寝るね、おやすみー」


私が首を傾げる中、しずくに眠気が襲ってきたのかうつらうつらと自室へと向かっていった。

おやすみ、とふらふらのしずくの背中に言って私も一旦部屋に戻ろうと考えた。



部屋に着くとまずダンボール箱を調べる。


名前なし?お父さんの荷物は会社に届くはずだし、しずくは注文していない。


「ってことはやっぱりわたしのか」


その後スマホからAmozonのアプリ起動し調べてみる。やはりハードディスクはお届け済みになっている。


「一応Amozonに報告だけしとこ」


まさか中身だけ送るなんて向こうも考えていないはず。

この報告文を読んでビックリしている大人の顔を想像すると少しクスリと笑ってしまう。

しかしこれでこの黒い箱が私のハードディスクだということが証明できた。多分。


「まあ1回使ってみようかな」


それでもし変な感じだったら途中で抜けばいい、そんな楽観的に考えて、専用ケーブルをコンセントに、そして黒い箱に繋いでさらにUSBを私のパソコンへと繋げた。


『【BWR PROJECT】を実行しますか?』


ハードディスクを繋げた途端パソコン画面の中央にデカデカとそんな文言が出てきた。


下には「実行する」と「しない」があり、どうやらこのハードディスクを使う許可を求めてきているようだ。しかし、意味深な言葉に真昼の手は止まる。


(? BWRってなんだろう?ハードディスクを使いますかってこと? ちょっとネットで調べてみよ。もしちゃんとした製品じゃないなら使わない方が良いし)


そもそも自分が機械オンチなことを思い出して、今更だがその専門用語を調べようとスマホを開きBWRと入力して、


「!?」


気づけば既に実行するを選択されていた。


『【BWR PROJECT】実行します。』


「え…ちょ、ちょっと待って! 消さないと!」


ひとまずマウスを動かそうと乱暴に扱うが画面のターゲットは微動打にしない。

しかしそれとは打って変わってBWR PROJECTの実行を表すメーターがぐんぐんと上昇し始めた。


「え、これ良くないよね……えっととりあえず消す方法でなにか……あっ!」


画面上を右往左往する視界に隣に置いてあるパソコン本体、そこにある電源ボタンが視界に入る。

私はすぐさま電源ボタンを長押しするというPCの直切りを行った。しかし、パソコンはまるで壊れてしまったかのようにうんともすんとも言わない。どうやら外部からの操作を完全にシャットダウンされたらしい。


って何落ち着いてんの私!


「やっちゃダメって教えられたけど、これしかない!」


そう考えた末に禁断の技、電源ケーブル直抜きを行おうとする。

しかし次の瞬間、


『────────エラー発生エラー発生。

データが破損しています。データが破損しています』


画面を埋めるほどのエラー報告。それに一瞬考えが追いつかず、


「へ、なに、なにかやっちゃった!?」


そう叫ぶ頃には画面に読めないプログラミング用語が上から下へ埋め尽くされていく。


『緊急プログラム、実行。データ損失率80パーセント。バックアップから転送し損失したデータを復旧します。────エラー発生。バックアップが存在しません。バックアップが存在しません。

残存している全てのデータを1度オリジナルへ転送し、データを修復します。

───────実行できません。オリジナルへの接続を確認できません。データ修復実行できません』


「へ………?」


いきなりの急展開に呆け顔で立ち尽くす私を前に結局プログラム?は行われずただエラーの文字が列を作っていた。


(どういうこと?実行できなかった、、って事はまだセーフってこと? あっ、とりあえず消さないと!)


しかしどれだけマウスを動かしても意味は無い。やはり禁断の技、直抜きをしようと電源ケーブルに手をかけて─────



『生きたい』



─────手が止まった。


私しかいないこの部屋で誰とも知らぬ声が発せられた。

まるで赤子が外界に産まれ出て最初に鳴らした鼓動のように。


「…っ!?」


私は勢いよく振り向くがしかし声の発信源は見つからず、またその間にもパソコンの画面にはエラーの文字が埋め尽くさんばかりに増え続けていて、


『プログラム実行できません。データ修復実行できませ────────データ修復を実行します。損失したデータを新たに再構築します。』


それはあの不思議な声に呼応したかのように一転した。


BWR projectのメーターとは別に修復プログラムがまたよく分からないプログラム言語を書き連ねていく。

私が状況を理解するために息を呑んだその3秒で修復プログラムが完成され、その後にBWR projectのメーターが100パーセントまで達したのであった。


そうなるともう不要だと言わんばかりにプログラム言語が書かれたウィンドウは我先にと消えていきそして、いつものデスクトップへと戻った。


画面には可愛らしい犬がボールを加えてこちらを見ている。それが自分で設定した背景画像だと気づいて、それからようやく私は現実へ引き戻された。


「へ……?もしかしてウイルス入っちゃった……?」


すぐにマウスが使える事に気づいた私は急いでウイルスバスターのソフトを起動する。


昔見た動画が頭の隅をよぎる。ウイルス感染したパソコンはまず操作不能になり情報が抜き取られ最後には個人情報が至る所で使われる。


私は嫌な想像で息が上がり冷や汗が出るのを感じる。


ようやく開いたウイルスバスターを起動させこのパソコンの隅から隅まで検査する。


最初3パーセントから動かなかったメーターはもしかしたら大きなウイルスがあるのではないのかと私に不安を煽っていたが、すぐにそれは100パーセントまで完了されウイルスバスターの答えが出た。


「はぁぁあぁ…よかったぁ」


画面には【ウイルス感染なし】というこのパソコンの安全を確保した言葉が出ていた。


(じゃあこの黒い箱は本当にただのハードディスクだったの?)


説明書がない。裸で入っていた。データ破損やBWRproject………。様々な奇異なものから目を背け、ポジティブな思考に包まれる中、また1つの異変に出会った。


「……なにこれ?」


それはウイルスバスターのソフトが邪魔をして見えなったのだろう。画面いっぱいに広がるソフトが隠して存在に気づけなかったのだ。


「……きみは、だれ?」


私の小さくも、しかし確かに紡いだその声に反応するようにその少年は目を開く。


体の大きさはデスクトップの半分ほど。綺麗な白髪で目は少し垂れ気味。白の長袖に白のズボン。画面の背景がもし白ならば顔しか見えなくなるほど真っ白な美少年だ。


その画面に映された白髪の少年は不安げに目をあっちこっちに泳がせ、そして必然と目の前に立っている私に向いた。

そして私の問いに答えるためか口を小さく開けようとして、


そのまま倒れた。


(え……?)


死、という文字が脳裏をよぎるがしかし画面の彼は肩を上下させている。息はあるようだ。

その後私は恐る恐る画面に耳を近づける。


『すぅ……すぅ……』


片耳にカワショタの寝息が入り鼻血が出そうになるのを寸でで画面から離れ止めた。

しかしこれで状況を把握出来た。


(寝たーーー!? え、このタイミングで寝ちゃったの?)


確かに私はショタコンという病を患っている。今日の夕方のほたるんの時もそうだが可愛いショタが目の前にいると感情が抑えられないほどだ。


しかし今はどうだろう。急にエラーが起こったと思ったら画面からまるで天使のようなショタが現れた。なんだかこの展開に着いていけず口を半開きでもう十秒ほどたってしまっている。

そんな私を相手にせずその天使はまるで泣き疲れた赤子のように眠ってしまった。


(え、どうしよ………とりあえずTwatterでエゴサしてみる? いやまずはGeogleで調べるのが先?)


急に画面から少年が出てきた。どうしたらいい、と。


あ、知恵袋に同じ内容で困ってる人がいる!えーと返答は、まず家族に相談した後に精神科へ行かれてはどうですか?ってなにこれ!


エゴサエゴサ。絶対私以外にもこんな変な状況になった人がいるはず!


……………………………


もう!全部アニメの話じゃん!

えぇ……どうしよ……


私は携帯から顔を外しパソコンの画面を見る。そこには体を丸め「すぅ…」と寝息を立てる美少年がいた。


(くっ……なんて破壊力!)


しかしこのままではいけない。まず届いたこの黒い箱自体何なのだろう。もう疑問しか積もらないがその疑問に答えてくれそうな唯一の人物?は眠ってしまっている。


0:38


ふと見た時計が既に4月を終わらし5月に入っていると気付かされる。

明日も学校があるというのに、この問題をどうしたらいいのか、と頭を抱え、


(うん、私だけじゃどうしようもないな。とりあえずこの事は明日にでも考えよう。いや、もう今日か。まあパソコン部にでも聞けば何かわかるだろうし)


とりあえずもう遅いし寝よう。

嫌なものから目をそらすように思考をまとめて、ハードディスク?のコードだけ抜いておいた。


そう考えると体は疲れていたのかとてつもない眠気が真昼を襲ってくる。

それでもまだ倒れる訳にはいかない。今ではもう必需品となり、女子高生にとっては生命線となっているスマホを充電しなければ。

私はとぎれとぎれの意識の中なんとか充電ケーブルにスマホをさして布団へ倒れる。柔らかな布団に包まれ真昼の意識は刈り取られた。

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