千春の春は、出会いの春。

大創 淳

第一回 レッツ・迷い子。ファンタスティックな世界へ。


 ……そう。


 どうやらウチは、迷子になったようなの。


 デパートとかテーマパークとかではなく、見慣れた風景や、今いる場所だって……何もかもが違っている。お家とも学校とも、パパもママも、皆が皆いなくなって、何処まで歩いたらいいのだろう? 見渡せど見渡せど、知っている景色なんて現れない。


 グスッ……


 こんなことなら、家出するんじゃなかった……


 家出といっても、プチ家出。お金だって多少は。すぐ帰るつもりだった。補導される前に。……でも、ウチには行く当てがなかった。お友達もいないボッチだから。皆がウチと関わろうとしない。一人称が『ウチ』なのも、この格好だって女の子みたいだけれど、


 ――ウチは男の子。


 松崎まつざき千春ちはる。この春から小学六年生になる。


 でも、男の子と一緒に遊ぶこともままならないほど、ウチは運動音痴。体育の時間でも皆の足を引っ張る程。女の子にだって相手にされない。無視されているから。ウチは何かしたの? と問いたくなる程。だけど、それを訊く勇気は、持ち合わせていなかった。


 だからボッチ。


 あることが原因で、ウチは籠るようになった。お家に、お部屋に。籠ってゲームをしていた。ゲームといっても瞬発力のいるシューティングやアクション系は苦手。テーブルなどのシミレーションも難しく、格闘ゲームやRPGなら、ウチでもできたから、そのジャンルに固定している。アウトドアなのはゲームの世界だけ。ウチは元々がインドア派。


 すると、するとね、蘇ってくるの、パパの言葉。


 ――でも、消える。そこから向こうを知ることができない。


 パパの言葉が思い出せない。その場面、その時の言葉……


 現状は変わらない。歩いても歩いても、見知らぬ景色……でも、何処かおかしい? 見渡す限りの建物は、現代のものではないような気がする。例えば、そうねえ……



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