幕間 音楽人形


 明け方の閑静な住宅街のとある一軒家の一室に、二つ、人影があった。

 一つは、もうすっかりこの家に馴染み始めたダークグレイの肌に銀髪金瞳の幼女。

 もう一つは、金髪アップサイドポニーのグラマラスな体型をした美少女。

 二人は寝ている家主を起こさぬ様に、そろりそろりと、楽器のある部屋へと向かう。

 しかし我慢できなくなったのか、十代後半程度の見た目をした金髪の美少女が、明け透けに不満を口にした。ぺらぺらと流暢な早口で。

「いやー、あのカマホモ、いくら寝とるからって子供おる家に女連れ込むかぁ? フツウ? 頭になんか湧いとるんとちゃう?」

 するとそれに機嫌を害したのか、もう一人のかわいらしい銀髪の幼女が、彼女に小さな拳を向ける。

「あうっ!(ぐしっ! ぐしっ!)」

「あ、あいたァ! なにすんねんエル! ちょ、おま、やめぇや!」

「うりゅ!(びしっ! びしっ!)」

「わ、わかった、わしが悪かったて。わかったから許しい? 俊嘉はええやつや。うん。ごっつええやつ。……ただ、カマホモなだけで」

「あばっ!(べしっ! べしっ!)」

「い、いたァ! せ、せやったな。デリ呼んどるくらいやし、全然ノンケやったわ。すまん。言葉の綾ゆうやつや。やからいい加減どつくのやめてくれへん?!」

「あうー?(じとー)」

「なにを疑ごうてんねん。わしかて結果的にやけんどあいつのおかげでこうしておまんと会えて、せやってよろしく受肉出来とんねや。ちったあ感謝くらいしとるわ」

 そう、彼女のその一見意味不明な発言は全て、事実だった。

 というのも、彼女は元々、ただの美少女フィギュアだった。

 それが、数日前にエルが無意識に発動させた魔法によって等身大サイズにまで大きくなり、そして魂さえを得たのである。

 ちなみに、メンタルの弱い家主に無用なショックを与えたくないという理由で、そのことは俊嘉には当面のあいだ隠すことにしている。

「それになあ、だからこそ、こうやってあいつに内緒でおまんにギターを教えとるんやないか」

 また、彼女は元が音楽系ゲームのキャラクターフィギュアだったということもあってか、卓越した楽器の演奏スキルを持っていた。

 故にここ最近は早起きをするエルへ、俊嘉が寝ている間に内密にギターを教えているのである。

 そしてそれは、今日も同じ。

 金髪の少女は、ああでもないこうでもないと口やかましくエルを叱咤しながら、実際に自分で弾いてみせたりしつつ、彼女のギター指導を始めた――。

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