首相秘書・野見山正 (2)

 総理大臣である伯父が死んだ後の手際が良かったとは言えない。

 しかし、情状酌量の余地は大いに有る。

 「暗殺された総理大臣の秘書が何をすべきか」の手本やマニュアルなど、存在していないのだから。

 地元の与党県連の建物内で、ようやく、仮眠を取れそうになった時には、伯父にして首相の死から二四時間以上が経っていた。

 警察関係者からの事情聴取。何回も何回も何回もスマホが鳴り、与党の県連の重鎮達と話しをし……でも何を話したかは記憶から消えていて……どうやら、故首相の夫人と母親が葬儀の事でもめているらしく……。

 更に、総理大臣が任期中に死亡した場合、野党第一党の党首が国会で追悼演説をやるのが慣例らしいのだが……それに対して与野党両方の関係者がいい顔をしていないし、本人も乗り気ではないようだ。

「えっと……正ちゃんさ……。こんな時に、こんな話するのもすっとも何だけどさ……」

 今、何時ごろで、いつ目が覚めて、さっきまで何をやってたのかさえ曖昧だ。

「は……はい……?」

 正は、祖母にして大伯母に答えた。

 正の父親は、死んだ総理大臣の弟だったが、子供の頃に母親の実家の跡継ぎとして養子に行かされた。

 それなので……目の前に居る総理大臣の母親は……血縁上は祖母だが、戸籍上は大伯母だ。

「死んだ、あの子の代りに……国会議員になってくれんね?」

「え……」

 これは……現実なのか?

 一体、どうなっている?

「正ちゃんも知っとるやろ? あの子には……子供が無かったからけん、あんた跡継ぎにするすっつもりやったとよ。補欠選挙までには、あたしらで手続しとくからけん

「は……はい……」

 悪い……悪い冗談だ……。

 いや……待てよ……これで……誰にも言えなかった、ある問題が解決するかも知れない……。

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