俺の部屋のベランダはどうやら異世界の姫様の寝室に繋がっているらしい 〜えっちでヤンデレな姫様は俺を離してはくれない〜

エリザベス

『異世界のお姫様が部屋まで押しかけてきた』編

第1話 どうやら、俺の部屋のベランダは異世界に繋がったらしい

「や、やめろ……!!」


 この声は、先日友達から借りたR18のPCゲーム―――『くっ殺の姫騎士は恥辱の白〇液に塗れるまで〜III』のヒロインのものではない。

 そんな「や、やめろ……!!」というセリフで人気を博し、シリーズ化までしたアダルトゲームの姫騎士のものでは決してない。


 そう、この声は俺から発せられたものだ。


 抵抗しようとしたが、アネラさんは上げられた俺の手首を自分の手で押さえ込んで、じゅるじゅるといやらしい音を立てながら、俺の首筋をぺろぺろと舐めまわしている。

 俺の膝の上にある彼女の股間はすでに濡れていて、淫靡な匂いを漂わせる。銀色の髪からふわっと立ち込めるラベンダーの香りをなまめかしいものに変えていく。


「やめて差し上げません♡」


 アネラさんはうっとりとした水色の瞳で、虎視眈々こしたんたんと俺を見つめていた……。




 星を見たくなったのが全ての始まりだった。


 夏の大三角ってほんとはどんな形をしているのか、そんな高校生に突発的にやってくる好奇心にあらがえず、自室のカーテンを左右に開いたら、雲一つない夏の空が瞳に映った。

 まばらな街灯よりずっと眩しい空を直接見たくて、俺は窓をそっと開けて、ベランダに足を踏み入れる。


 そこには先客がいた。


 夜風に銀色の髪をたなびかせ、水色の瞳を輝かせるワンピースに似た白いネグリジェを身にまとった可愛らしい女の子。

 夏だからか、五歩くらい離れたこの場所にも、彼女のものと思えるラベンダーの香りが届いていた。それは優しくめまいを誘うようなこうばしすぎる匂い。


 だから、俺はこう言ってやった。


「不法侵入なので、出ていって貰えますか?」


 コスプレイヤーだかなんだか知らないけど、明らかに不法侵入なのだ。


 もしかして、不審がられないように敢えてコスプレをしているのだろうか?

 その格好でいるのも、家の人にバレた時、「コスプレの撮影です」と誤魔化すためなのだろう。


「あなた、だれ……?」


 あくまで知らぬ存ぜぬで通す気か……このコスプレ空き巣美少女めっ。


「ここに来たのは不運だと思いますよ? うち、こう見えてもローンがまだ32年分残ってますし、金庫とか構えてないし、貴金属の類いは敢えて挙げると、お母さんの婚約指輪だけだけど、それもちょっとケチられたものだって最近お母さんぼやいてたよね」

「はあ……」

「まだ諦めないつもりですか? 良かろう、うちはいかに普通なご家庭なのかをこの際じっくり教えてやろう。いいか、俺のお弁当はね、ステーキをお母さんにねだったら、豆腐ステーキというものを入れられてしまうほど豪華なものじゃないし、ハーゲン〇ッツが食べたいといったら、スーパーのセールで売っている300円で1キロはあるバニラアイスを買ってこられるほど家計もよろしくないわけで」

「ハーゲン〇ッツ?」

「うん、ハーゲン〇ッツはこの家にないから、空き巣するならよそに行きな?」


 とにかく、俺は騙されない。


 そのお化けを見たような目で、ぷるぷると震えていても、目の前の美少女は日本語を話せる時点でただのコスプレイヤーでしかない。

 その目的が空き巣なら、諦めて貰うだけだ。


「なんで殿方が私の寝室のベランダに? ここは男子禁制のはずですよ?」

「またまた……」


 まだとぼけるんですか? と思った瞬間、気づいてはならないことに気がついてしまった……。

 疎らな街灯と言っても、外ってこんなに暗かったっけ? あとうちのコンクリート製の柵はいつの間にか石造りにリフォームされたっけ?


 おずおずと下を見渡してみると、二階とは思えない高さからアニメでよく見かけるヨーロッパ中世のような城下町が見える。

 とりあえず、確認しておこうか……。


「えっと、すみません……ここって日本ですよね?」

「二本? 殿方には一本しか付いてないと聞いたことがありますが……」


 はい、アウト……ここは日本じゃないみたいだし、目の前の美少女はコスプレイヤーではなく、ただのムッツリドスケベ痴女らしい。


「お邪魔しました。帰らせて頂きます」


 賭けではあったのだが、俺は後ずさってベランダから自分の部屋に戻ろうとした。もしかしたら、帰れるかもしれない。

 そして案の定、安心する我が部屋の風景が目に入った。


 がしかし……。


「なんで付いてきてるんですか!?」

「なんとなく?」

「付いてくるな!!」


 銀色の髪をした少女はナチュラルに俺に付いて部屋まで入ってきたのだ。


「その言い方はなんですか? 私はエメラルドリア王国第一王女ですよ?」

「この部屋に入ってきた瞬間、お前はただの無戸籍者だよ!」

「ムコセキシャ? 私の名前はアネラ・エイチ・エメラルドですよ?」

「自己紹介どうも、あっ、俺、院瀬見いせみしゅんと言います」

「しゅん?」


 どうやら異世界の第一王女様であらせられるらしいアネラさんは噛み締めるように俺の名前を復唱する。その様子は少し心をくすぐってくる。


「というわけで、自己紹介もお互い済んだことだし、今夜も遅いから、どうぞお帰りください」


 アネラさんの肩に両手を置いて強制的に方向転換させ、そのまま背中を押して彼女をベランダの向こう側へと返す。

 

 これで彼女が帰ったら、窓の向こうはいつものベランダに戻るだろうと俺は信じていた。

 あとは、キッチンに行って冷蔵庫の中に入っている牛乳を直飲みして、程よい眠気に包まれながら寝るだけだ。


 なのに、アネラさんがベランダに戻って行ったのに、景色が変わらない……窓の向こうは石塀いしべいに囲まれたままだ。


 そして、アネラさんはきびすを返して、つかつかとまた俺の部屋に入ってくる。


「私決めました! ここを私の秘密基地にします!」

「いや、帰れ!!」

「そして、あなたは私の夜のお相手にしてさしあげます!」

「だから、帰れ!!」


 俺の抵抗は次の瞬間、アネラさんの行動によってむなしいものになってしまった。


「私の胸を揉んでください♡」


 俺の手を掴んで、アネラさんは自分の胸にそれを当てた。

 俺の手の方が溶けそうな柔らかさと温かさに、意識が朦朧もうろうとする。


「いままで王宮の中で殿方と接することを禁じられてきたから、この機会を逃してたまるものですか!」


 どうやら、彼女はコスプレイヤーでも、空き巣でも、まして二階にあるベランダに一飛びで来れるようなスパイ〇ーマンでもなく、ただの欲求不満なムッツリでドスケベな異世界のお姫様だったらしい。


 星を見たくなったのは、俺の日常の終わりの始まりだった……。


―――――――――――――――――――――

気分転換に、『電車の中で肩を貸したら、人形姫と添い寝するようになりました』第2章の連載の合間に、この作品を書いてみたりしました。

https://kakuyomu.jp/works/16817330653526538659

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