第2話 断りたかっただけなのに・・・②
そんな言葉を聞いた俺は、頭の中をフル回転させる。
なぜなら振り向く前から、声の特徴から話しかけてきた人が女子であるということを確信したためである。
わざわざ女子が俺に何の用なのだと、緊張と焦りが俺の頭の中を駆け巡る。
(落ち着くんだ俺、なんてことはない。当たり前のように振り返ってどうしたのと聞くだけじゃないか。大丈夫だ、だいじょーぶ、頑張れ俺!)
俺はそう覚悟を決め、強い期待を抱きながらばっと振り向くと、そこにいたのは先ほど述べた、俺とは性格が真逆と言っていいあゆみであった。
あゆみの顔を見た瞬間、俺の中にいた期待の感情は一瞬で消え去り、落胆の感情に書き換えられる。
「ねぇ、私の顔を見た瞬間、急に嫌な顔になるのやめてくれない?」
「あ、出てた?」
なんでわざわざ俺とは相容れなそうなあゆみが俺に話しかけてきたんだか。
俺とは全然違う生き方をしていそうなあゆみが俺に話しかけてきた時点で俺の気持ちは完全にクールダウンしてしまっていた。
「まぁいいや。それでさ、一つケンジにお願いがあるんだけど…」
しかしあゆみは急に話題を切り替え、すぐさま本題に入ろうとする。
「おいちょっと待て、一人で勝手に話進めるのやめてくれよ。俺ら話すのめちゃくちゃ久しぶりじゃねーか」
「えぇ~いいじゃん。私たち幼なじみなんだしさっ!」
「は?幼なじみ?」
すると俺はあゆみの放った幼なじみという発言に非常に敏感に反応する。
「お前ふざけんなよ。本当に俺に幼なじみがいればどれほどよかったか。お前が自由気ままに俺に心をえぐってくるんじゃねぇよ」
「え~、何言ってるの?私がいるじゃん、私が」
「はぁ?中学時代ほとんど俺に話しかけてこなかったお前が幼なじみ?ふざけるのも大概にしろよ?」
するとあゆみは、そんな俺の態度に困惑してしまったのか、戸惑った表情をしながら
「まっ、そりゃそうだよね」
と、すこしきまり悪そうにそう答える。
「で?俺とまったく関わりのなかったお前が、何の用だよ?」
俺は気まずくなってしまった空気を少しでも変えようと、俺の方から話を変えようと試みる。
「あぁ、そうだった、あのねケンジ。実は一つケンジにお願いがあってさ」
「お願い?」
「そう、この高校ってさ、あと三週間後に中間テストがあるじゃん?」
中間テスト、俺たちにとっては高校初めてとなる定期テストである。
俺たちのクラスでも高校生活初ということもあり、身構えてしまっている人が結構いるらしい。
「あぁ、あるな。それがどうしたんだよ?」
しかし、俺としては、さほど気にすることなく話を進めていく。
しかしそのあと、彼女は俺にとってとんでもないことを口にする。
「あの、それまでケンジに勉強を見てもらいたいなぁ、なんて…」
「はぁ?」
その言葉を聞いた瞬間、俺は自分の耳を疑った。
今までの話を聞いて分かると思うが、実際俺とあゆみは本当にそこまで仲良くない。
小学校低学年の頃に多少交流はあったものの、小学校高学年、中学校の間の数年間ほとんど話すこともなく、お互い不干渉の間柄であった。
ましてや勉強を教えるなんてもってのほかである。
なぜ今さらそんなことを言ってきたのやら。
「なんで俺にそんなことを言い出すんだよ?俺らそこまで仲良くないだろ?女子の友達にでも見てもらえればいいじゃね~か!」
俺は思わずこう叫ぶのだが、あゆみはそんな俺に対して、こう言い返してくる。
「でもケンジ、入学したばかりの時の実力テスト二番だっていうじゃん?」
「ま、まぁそうだけど…そんなこと何で知ってるんだよ?」
そう、今まで俺は自分の欠点しか話してこなかったが、実は俺には別にちょっとした長所がある。
それは、勉強ができるという点だ。
自分の通う学校が進学校ではないというのもあるとは思うが、今までどんなテストも十番以下にはなったことはないし、そこまで勉強面で困ったということはない。
まぁ、今では友達作りという点で困ってしまってはいるのだが…
「今日廊下を歩いていた時にクラスの男子たちが言ってたよ。テストの結果を後ろから覗いてみたけどケンジっていう人、2位だったよって」
「...なんだよ。クラスの奴ら、俺に興味があるんだったら話しかけてくれたらいいじゃね~かよ...」
俺はあゆみの発言を聞いた瞬間、俺はクラス内でこそこそされている現実を知り、少し寂しくなる。
「いいじゃんいいじゃん、興味持たれてるってことなんだからさっ!」
「全然よくね~よ...で?だからお前は俺に勉強を教えてほしいと?」
正直、現時点で俺はすでに家に帰って引きこもりたい一心であったが、
「うん、そういうことなんだ、だからさっ、お願いっ!」
どうやらあゆみは俺を家に帰してくれそうにはない。
あゆみは俺に手を合わせながらそうお願いしてくるが、現時点で俺のやる気は地の底であった。
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