47.惑星
「大量絶滅……?」
「そうだ。そこに生息する全ての恐ろしき竜……そうだな、恐竜とでも呼ぼうか」
魔王は顎に手を当てながら言う。
「それらを全て消し去る。そこの惑星を完全に俺達の世界に変えるのだ」
惑星とは……?
いや、それよりもだ。
自分達になんの害も与えて来ないような生物を大量に殺すだって……?
メアの体は怒りで震えた。
「そんなヒドイこと、できるわけないだろ! 一体、何百の命を奪う気だ!」
「何百……? ははははっ! そんなもんじゃない、もっと多くだ」
もっと多く……一体どのような規模なのだろうか?
「例えば、君達の世界も全て含めたこの世界はどのような構造になっているか、分からないよね?」
「そんなことどうだっていいだろ!」
「いや、良くないね。まず最初にそれを知る必要がある。そうしないと、規模の大きさが分からないからね」
メアの世界と、魔族の世界の構造とは……?
「いいかい? 君達の世界と俺達の世界は、1つの球体……惑星なんだ。
丸い1つの惑星上に、俺達は住んでいるんだよ」
「は?」
一体この魔王は、なにを言っているのだ。
この世界が球体であれば、地面が平たく続いていることに説明がつかないではないか。
「ま、君には理解できないと思うけどね。ちなみにこれも一握りのトップ魔族しか知らない情報だからさ。良かったね、得しちゃったよ?」
だからなんだというのだ。
「で、俺達の惑星の4倍の大きさがあるのが、恐竜の住んでいる惑星なんだ。
だから、恐竜以外にも、とんでもない数の生物を消すことになるね」
4倍……狂っている。
技術が今よりも発展すれば、確かに様々な効果を持った装備を作れるだろう。
生活も楽になるだろう。
だが、そんなことの為に、自分達に無関係で害のない生物を大量に殺すだなんて、そんなの間違っている。
「そもそも、0から文明を始める……? お前の寿命も持たないハズだ」
例えエルフ並に寿命が長いとしても、0から始めるとなると、相当の年数が必要なハズだ。
となると、魔王の寿命も尽きてしまうだろう。
「それは心配ないよ。俺の子供達にそれは任せるよ」
「子供達に任せる……?」
意外な答えだった。
「お前は……お前自身はいいのか?」
「俺は死後の世界から見守ることにするよ」
死後の世界、それはメアの世界でも、ほとんどの者が知っている概念である。
死んだ者は、その名の通り、そこに行くと言われている。
その存在は立証されていないが、とても幸せな所だと言われている。
なんでも願いが叶うような、優しい世界とも言われている。
だが……。
「お前は、それでいいのか?」
「どういう意味だ?」
魔王は確かにメアの敵だろう。
だが、どうしても引っ掛かったのだ。
「お前自身が、夢を叶えなくていいのか? 結果を見届けなくていいのか?」
「どれだけ時間がかかろうと、俺の意志を継ぐ者がいれば、別に構わない。
そうすれば、俺も安らかに、死後の世界で暮らせるからな」
「嘘だ……」
「なにがだ?」
「お前は嘘つきだ。楽に生きる為に、自分に嘘をついてるんだ」
「どういうことだ?」
「お前は本当は、死後の世界を信じてない。
もし本当に信じているなら、ここの世界の全員を殺して、その幸せな世界で夢を叶えればいいはず。
それをしないってことは、お前だってきっと本当は、死んだ後はなにもないって分かってるんだ。
でも、自分が生きている間に夢は叶わない。
だから、夢を誰かに託すことで、満足しようと思ってるんだ」
「は? 黙れよ」
「皆、なんらかの形で死んでも人生が続くと思ってる。
けど、皆本当はそんなものないって、無意識下で分かってるんだ。
だから死ぬのは怖いし、今を精一杯生きてるんだ」
「黙れガキがああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
「ぐっ……!」
魔王は動けないメアの腹に、思いきり蹴りを入れた。
先程の表情から一変、魔王の表情は怒りに満ちていた。
「ふざけるなよ? 俺が優しいからってよぉ!!」
「むぅっ……!」
再び、メアの腹に蹴りが入る。
「いいか? 誰かに託すってのは、別に悪いことじゃない。
全ての生き物はな、そうやって生きて来たんだ。分かれよ」
メアは呼吸も困難になりながら、言う。
「た……例えそうだとしても……今のお前自身はここにいる1人しかいない……
そ、れに……このままだと……大量絶滅の罪を他の誰かに継がせることになる」
「罪を継がせるだって? それは問題ない。
俺が責任を持って、死後の世界でそいつらに謝るからな。
恐竜は俺達のような言葉は喋らないが、死後の世界だったら言葉も通じるだろう」
そうか、だから……。
「そう信てる……いや、そう信じたいから、だからお前は、大量絶滅に躊躇がないんだな」
魔王は舌打ちをする。
「お前みたいな馬鹿と話していると疲れる。お前はもう自分の世界に帰れ」
魔王は、ポケットから転移クリスタルを取り出した。
「これは俺専用の特別なものだ。今からお前を元の世界に送り届けてやる。
だが忘れるな? お前らはいずれ、俺の計画に嫌でも協力することになる」
そうか、帰れるのか。
だが、これだけは言っておかなくてはならない。
「お前、自分で言っていたけど優しいな。
後……俺の計画って言ってたけど、本当は違うんだろ?
お前だって本当は……」
その後、視界が白く光ると、メアは元の世界の王都の前に転がっていた。
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