22.剣聖が思ったよりもやばいスキルな件
ミアカと戦った日の夜のことである。
テントの中で、寝転がりながら、コスモとユリは今日のことについて話す。
「いやぁ、まさか、SRランク冒険者をまたしても倒してしまうとは……! 信じていましたけど、やっぱり流石です!」
「ありがとう」
「それにしても、コスモさんは凄いですよね! 苦戦しているハズなのに、まったくその素振りを見せないんですから!」
コスモにそういう器用なマネは難しい。
実際に苦戦なんてしていなかった。
【剣聖】スキルが化物だったのだ。
「いや、苦戦はしなかったよ」
「そ、そうなんですか!?」
「うん」
「ド、ドラゴンを楽々倒していたミアカさんに楽々勝利って……やっぱり凄いです!」
「そ、そうかな?」
物凄く褒められた。
コスモは照れながら、こちらを向いたユリに、見えないようにニヤリとした。
【剣聖】を得てから、褒められてばかりだ。
そろそろ慣れてもいい頃だが、やはり褒められ慣れない。
「コスモさんは、そこまで強大な力をその身に宿していたんです! 本当に凄いですよ!」
(……強大な力)
コスモはそう言われ、冷静に考えてしまう。
(SRランク冒険者は化物級の強さを持っていると言われている。そんな人達をこんなに簡単に倒せるこの【剣聖】……少し、怖い)
コスモが表情を困らせると、ユリが首を傾げた。
「どうしたんですか?」
「いや、このスキル……これから先、私は正しく使えるのかなって。正直、強すぎて私自身も困惑しちゃうよ」
すると、ユリが優しい表情で微笑む。
「大丈夫ですよ。コスモさんなら、その力を悪いことには使わないと思います! きっと、正しく使えますよ!」
「ユリは優しいね」
「いやいや、全然!」
今度はユリがコスモに褒められ、ニヤニヤする。
コスモと違い、それを隠そうともしていない。
(ここで「世の為人の為、正しく力を使っていく、約束する」……なんて言えたら、良かったんだろうね)
何1つ取柄の無いコスモが得た才能、それがスキル【剣聖】。
(他にできることなんて、ない)
コスモが【剣聖】を積極的にいかしていきたいと考えている理由は、他にできることがない自分でも、多くの人達の中心にいられるからだ。
【剣聖】がなければ、コスモは……。
(本当にかっこ悪いな、私は……)
コスモはユリに訊いてみる。
「もしも……もしも私が剣聖じゃなかったら、ユリは私についてきてくれた?」
コスモがそう言うと、ユリは……。
「剣聖じゃなかったらですか……う~ん」
コスモにとって、あまり良くない反応だ。
「いや、別に正直でいいんだよ? スキルが私の本体みたいなものだし」
「あ、いやいや! そういうことではなくてですね! あそこでコスモさんが【剣聖】を手に入れていなかったら、もしかして私達、こうやってここまで仲良くなってなかったのかなって考えちゃったんです。戦闘用のスキルでなければ、あそこでコスモさんが私をパーティに誘うこともなかったのかもしれませんし……」
確かにユリの言う通りだ。
それに、【剣聖】でなければ、コスモはあそこでユリを救えなかっただろう。
力に余裕があったから、あんな風にユリをかばうことができたのだと、コスモは思う。
「そこだけです! 出会ってお話をするきっかけがあれば、私はコスモさんについて行ったと思います!」
「ユリ……」
本当にいい子だと思った。
じゃあ……。
「もしも……もしもだよ? 私のスキルが今ここで無くなったらどうする?」
「スキルが無くなる? 聞いたことないですよ?」
「例えばだよ、例えば」
ユリは、嬉しそうに笑う。
「その時は……ふへへ」
「な、なに?」
「なんでもないです! その時はですね! 地元の街で一緒にお店を開きたいですね! それか、移動販売もいいかもしれません!」
「何のお店?」
「手料理を売るお店です!」
「私、料理できないけど?」
「じゃあ、一緒に作りましょう! 味見係だけでも大歓迎ですよ!」
ずっと見てきて、コスモは思った。
「ユリは、料理が好きなんだね?」
「あー……確かにそうかもしれません!」
「だったら、料理人を目指すのもいいかもしれないね」
「駄目です! 私はコスモさんにお供して、手助けを……あっ、じゃあコスモさん専属の料理人にでもなりますかね?」
「あはは、嬉しいね。でも、無理はしなくてもいいんだよ? 正直、ユリの腕なら、将来的には独立できるだろうし……」
「無理じゃないですよ! コスモさんといるのが幸せなんです! ってなんか恥ずかしいですね」
ユリはコスモに恋愛感情を抱いているのかもしれない。
だが、コスモは恋愛というものが分からないので、その辺りは触れないでいた。
が、今回は思い切って、遠回しに訊いてみた。
「ユリは、誰かとの子供を欲しいと思ったことはあるかな?」
「へ? へへへへへへ? えええええ!?」
ユリは顔を真っ赤にして、恥ずかしがる。
「ま、まぁ、あるかなー……なんて?」
ユリは正直だった。
(私もいつかは真剣に気持ちを受け止めた方がいいのかもしれない。けど……ユリとは私もずっと一緒にはいたい。どんな形でもね)
コスモは訊く。
「ユリは、その人と子供を作るって選択でいいの?」
「え?」
「好きな人とは一緒にいたいのか、それとも子供を欲しいのか……どっちなのかなって」
それを言うと、ユリはかたまる。
「そ、それは……」
そう、人間はエルフやドワーフとは違う。
ユリの反応から、それはユリ自身も分かっているようだ。
「ごめん、答えなくても大丈夫だよ。私も何が正しいのか分からないし」
と、ユリの顔を見ると。
「寝てる……」
疲れがたまっていたのだろう。
スヤスヤと眠っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます