第2話 治療

りんよ。ベッドにこしかけてこちらをきなさい。」


食事しょくじえ、しばらくしてロジャーは、りんをベッドにけさせた。


いまから、おぬし治療ちりょうおこなう。本来ほんらいくすりんだばかりのいまのおぬしおこな必要ひつようはないのだが、地球ちきゅうもどったおぬし必要ひつよう治療ちりょうなのだ。ちち手伝てつだってもらってお主が自分で行うのだぞ。」


「…。」


りんは、すこ不安ふあんそうな顔で聞いている。


「少しは、目に見えるほどの効果こうかがあるはずだ。そして、15さいまで生きびろ。さすれば、お主の病気は完治かんちするはずだ。」


「15さいにならないとなおらないの?」


「早ければ、明日、なおるかもしれぬ。しかし、大きな回路かいろであればあるほど成熟せいじゅくするのに時間がかかる。そして、魔力病まりょくびょうわずらうものは、大きな回路かいろの者が多いのだ。」


回路きいろ回路かいろって何?」


「お主の魔術まじゅつ発動はつどうする魔力まりょくの通り道じゃよ。下腹部かふくぶ-へその下あたりにきざまれておる。目には見えないがな。そこに魔力まりょくの通り道ができてくるのじゃ。複雑ふくざつな通り道でな…。その形でどのような魔術まじゅつが使えるのか決まる。」


「その通り道のせいで魔力病になったの?その通り道を手術で取り出してしまえば、魔力病が治るんじゃないの?」


手術しゅじゅつと言うのが良く分からないが、魔術回路まじゅつかいろは、肉体にくたいきざまれるが、どこかの臓器ぞうきふくまれているわけではない。もし、臓器ぞうきを取り出したとしても回路かいろを取り出すことはできぬと思うぞ。」


「じゃあ、どうしたら良いの?15さいまでずっと、こんなに苦しいの?こっちの世界でしか、美味おいしいごはんを食べられないの?そんなのいやだよ。父さんや母さんと遊びに行ったり、学校に行って、友だちと遊びたいよ…。」


なみだを流し、き始めたりんの頭をロジャーは、やさしくなでてやった。


くな。いても病気は治らぬ。今からの治療ちりょうを行えば、きっとこうでもめしったり、あそびに行ったりすることができるようになる。さっき言ったであろう。目に見える効果こうかが表れるはずだと。」


りんは、顔に流れるなみだを右手でぬぐい、ロジャーの顔を見た。


「本当?本当に遊びに行けるようになる?学校にも行ける?」


「きっと、行けるようになるであろうよ。今から行う治療ちりょうで、魔力回路まりょくかいろ成熟せいじゅくした時には、回路かいろ魔力まりょくを流すことができるようになるはずだからな。そうなれば、完治かんちじゃ。15さいにならぬとも完治かんちできる。だから、頑張がんばるのじゃ。いな。」


「分かった。頑張がんばるよ。頑張がんばる。」


「では、始めよう。わしの右手を左手でけよ。右手は、わしの左手にせるのじゃ。」


りんは、言われたようにロジャーと手をつないだ。


「おっと、確認おくにんしておらんだった。おぬし右利みぎききか?」


「うん?ボールげたり、字を書いたりするのは右だよ。」


「ならばこのままで良い。わしが、今からお主に無属性むぞくせい魔力まりょくを流し込む。わしの右手からお主の左手にだ。何か感じたらすぐに伝えよ。良いな。それと、感じなくなった時も伝えるのだぞ。」


「あっ。今、あたたかいものが左手につたわって来た。あれ?今来なくなった?」


「うまいぞ。お主、すじが良い。では、次だ。今度は、もらった暖かい物をおぬしの右手からわしかえすのだ。どこを通してかえしているのかわしに伝えながらだぞ。できるな。」


「分かった。やってみる。ええっと…、あっ、今、暖かいものが左手に来た。左腕ひだりうでから左肩ひだりかたくびの下を通って、右肩みぎかたに来た。右手の上の方からずうっと下に行って、わたすよ。ずっと同じように続けて来てるよ。」


「そう。うまくわたすことができているぞ。その調子ちょうしだ。上手じょうずかえしてるぞ。次は、あたたかいものをもっと下の方を通してわしに返してくれ。左肩ひだりかたからおなかの方を通してだやってみろ。」


「分かった。やってみるね。暖かい物を左肩ひだりかたから下に下ろすよ。りて行った。今おなかなかあたり、そこから右肩みぎかたの方にのぼって右手からおじさんにできたよ。」


「もう少ししたまでろせぬか?おへそのしたまでろすことができればいのじゃな…。」


「やってみる。もっと下。おへその下までりて…、なんかカクカク引っかかる感じがする。でもそこをとおすよ。よし、とおった。カクカクしてるけどおへその下をとおって来たよ。右手からおじさんに返すね。」


「いいぞ。上手だ。そのまま魔力を循環させるんだ。しばらく魔力を流して魔力の動かし方を覚えるのだぞ。おじさんは、もう、送り込みはしないぞ、お前が送って来たのを流すだけだ。良いな。滞らないように流し続けるのだぞ。」


「分かった。でも、これで、病気が楽になるの?」


「今は、薬のおかげでお主の魔力回路に滞っていた魔力は、流されて体に負担がかからなくなっているがな。薬を飲む前まで、お主の魔力回路には魔力が滞り、臓器に負担をかけていたのだよ。それが、魔力病なのだ。ひどい時には、臓器を腐らせ、死に至らしめることもある。そんな病気なのだ。お主の世界では、負担のかかった臓器をケアすることで魔力病に対処しているようだな。だから、15歳まで生き延びる必要があるのだ。魔力回路が成熟し、魔力の滞りを解消するためにな。」


「ええっ。じゃあ、やっぱり、ずっと苦しいままなの?15歳まで。」


「そうならないための、治療の練習なのじゃよ。いいか。今は、お主が体から出した魔力は、儂の体を通ってお主に戻っているな。」


「うん。そうだね。おへその下まで行ってぐるぐる回ってる。」


「では、儂がお主に魔力を返さなかったらどうなる?」


「僕の魔力が無くなっていく。」


「その通りじゃ。地球のお主の体は、今、魔力の通り道になっているおへその辺りに魔力が滞っておるのじゃ。その滞りを解消し、不必要な魔力を体の外に出すことができるようになるための練習で、不要な魔力を外に出すことができれば、魔力病は楽になるということなんじゃよ。」


「でも、地球におじさんはいないよ。誰と魔力を回す治療をやればいいのさ。」


「お主の父のができる可能性が最も高い。その次がお主の母親じゃ。まずは、父に治療の相手をしてもらうのじゃ。お主が右手から出した魔力を感じ取ってくれるはずじゃ。そして、お主の左手、父の右手から戻してもらう。父には、へその下まで魔力を回してもらう必要はないぞ。ただ、お主に返してもらえばよい。一番最初に、儂とお主がやったようにな。」


「でも、それじゃあ、僕の魔力は減らないよ。回るだけなんでしょう。」


「魔力を回すことができる様になったら、父の右手を離してもらえ。父に魔力が移るが、父の調子が良くなるくらいしか影響はないだろうよ。肩こりが良くなったと喜んでくれるのではないか。試してみろ。お主も、父も体調が良くなる治療法じゃ。」


「こうやって、父さんの右手を話すんだね。」


凜は、ロジャーの右手を振り払ってしまった。


「馬鹿者、急に離すのではない。お主は、魔力が滞ってはおらんのじゃ、急に話すと残り少ない魔力が…。」


ロジャーが言い終わる前に、凜は、気を失ってしまった。


「なくなって、意識を失ってしまうではないか。」


聞こえていない凜に向かって、話しかけるロジャーだった。

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