第11話 夜更かしをしたそのあとで

 大型連休の初日。ビルの間の狭い路地から見上げると、雲のない真っ青な空が見えた。肌に当たる空気が【ザ・休日】って感じで、それはいつもの週末よりも強いような気がした。

(まあ、俺個人には関係ねえけどな)

 仕入れたばかりの野菜を抱え、裏口から厨房に入ると、あちらこちらから挨拶の声が聞こえてきた。指示を出しながらホールを覗くと、いつもならとっくにいるはずの男の姿が見当たらない。

 この店【バル・チリエージョ】は俺の店で、俺はここのオーナーシェフだ。そして今俺が探している男はバイトの大学生で、俺の大切な恋人でもある。

「ねえ明彦、綾介くんがまだ来てないんだけど」

 モップ片手にそう話しかけてきたのは、この店で酒とドリンク全般を任せている麻紘という名の男だ。大学の頃に知り合って、かれこれ10年。俺と綾介の関係を知っている、数少ない人間の一人だ。

「もしかして、まだ上?」

 麻紘が天井を指差して言った。

「ああ、多分な」

 店の上には、試作の時に使う小さな厨房と事務所が、さらにその上には俺が住んでいる部屋がある。

 昨日は俺の公休日で、綾介も授業がなく、久しぶりに丸一日一緒に過ごすことができた。たまの休日なのだから、どこかに連れて行ってやりたいとも思ったが、俺も綾介も気持ちのブレーキが効かなくて、結局ずっとベッドの上で過ごした。

 かなり無理をさせた自覚があるので、今朝は無理に起こさないでおいたのだ。

 まだ降りてきていないということは、まだ夢の中をたゆたっているか、起きたくても起きられない状態なのだろう。

(もしくはその両方か)

 上の階へ続く階段を上がろうとした時、麻紘が俺の肩に腕をのせ、そっと耳元で囁いた。

「30分だ。30分だけ待ってやる。それ以上かかったらドア壊してでも乱入するから、さっさと済ませてこい」

 そう言って俺の背中をバンッと叩くと、麻紘は仕事に戻っていった。

 麻紘の言葉の意味を理解した俺は、心の中で礼を言いつつ、恋人を迎えに寝室へ向かった。

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