第2話 芳醇ホワイト
気がついたら、明彦さんのことが好きになってた。
明彦さんは俺がバイトしているカフェバーのオーナーシェフで、海外で何年も経験を積んだ後、この店を開いたらしい。
入社したての頃の俺は明彦さんに嫌われていて、ほとんど口を聞いてもらえない状態だった。それが半年ほど経った昨年の秋、あることがきっかけで急激に距離が近くなったんだ。
明彦さんは、俺の恋愛対象が男だってこと、知ってる。たぶん、俺の気持ちにも気づいてる。
だから、バレンタインデーに思い切って告白した。差し出したチョコレートは受け取ってもらえたけど、いい返事はもらえなかった。
期待はしてなかった。しないようにしてた。拒否されなかっただけマシだとは思うけど、悲しい気持ちになるのは当然なわけで……。気まずさもあってバイトやめようかと思ったけど、この店は好きだし、できる事が増えて働くの楽しくなってきてるし、何より明彦さんに会えなくなるのがイヤだった。
だから、今日も元気に開店前の掃除を頑張っている。
表の掃除を終わらせて店内に戻ると、カウンター席の向こうにある厨房から美味しそうな匂いが漂ってきた。ランチ用のデザートでも作っているのか、小麦粉に卵や砂糖が合わさった甘い匂い。それに釣られて厨房の入り口から中を覗くと、明彦さんが一人で作業をしていた。コックコートは着ていない、着古したTシャツ姿だけど、それでもカッコよくて、俺は自分の気持ちを再認識した。
(仕事に戻ろう……)
そう思った俺は、仕事の続きに取り掛かった。
店内の掃除が終わると、それを待っていたかのように明彦さんが俺を呼び、カウンター席に座るよう言った。
指示された席にあったのは淹れたてのコーヒーと、貝の形をしたマドレーヌが盛られた皿だった。
「これも追加」
そう言って明彦さんが置いた皿には、ピンクのマカロンが乗っていた。
「これは一体……」
戸惑っていると、明彦さんがぶっきらぼうに答えた。
「先月の返事だ」
マドレーヌとマカロン、その意味を思い出すと、俺は嬉しくて泣きそうになった。
「遅くなってすまない」
「ううん、俺のほうこそ、ありがとう明彦さん」
大好きだよ、って言いたかったけど、明彦さんに塞がれて声に出すことはできなかった。
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