Alice×Alice

犬養

第1話

『どうしてあたしと鈴菜は姉妹なんだろうね。』

そう私に言う姉の、悲しみか怒りか分からないが

真っ直ぐと澄んでいる瞳が私をじっと見つめていた______________________

「鈴菜、

お父さん夕方には来るって言ってたから、」

そう言うスーツ姿の母の前には玄関に座り

靴を履いている三つ編みの少女がいた。

『お花、鈴蘭で良いんだっけ?』

『うん、よろしくね』

鈴菜は下駄箱の上の小さい鏡で、自分の三つ編みが変になっていないかを確認した。

『じゃあ、行ってきます。』


いつもならこのまま真っ直ぐ学校へ向かうが、鈴菜は自分と同じ制服を着た子達が向かう方向とは逆の方向へと歩いていき、そのまま花屋へと向かった。

鈴菜は花屋で姉が好きだったという、

鈴蘭と好きだった色の花を適当に見繕ってもらった。

鈴蘭の花を1本取りだしクルクルと回しながら。

とぼとぼとまた何処かへ向かっていく。

やがて鈴菜は町でいちばん大きな橋の上にたどり着きふと1つため息をつき


買ってきた花束を川へと投げ捨てた。


花束はバラバラと1本1本の花へと別れていく。

「はぁ…靴とか靴下とか脱いだ方がいいよね…。」

そう言うと鈴菜は靴を脱ぎ、脱いだ靴下は丁寧に畳み靴の中に入れた。

「よしっ…と」

鈴菜は橋の手すりの上に立った。

「はは、やっぱりちょっと怖いかも」

上から眺める川は昨日の大雨で水かさが倍に増えていた。

神様の悪戯なのだろうか、

タイミングよくぽつ…ぽつ…と雨が降り始める。

ズルっっと滑り落ちそうになり思わず

鈴菜はしゃがみこみ手すりに掴まった。

鈴菜はしばらく蹲り震えていた。

「はぁ……お姉ちゃん、私ね、14歳、14歳になったよ…お姉ちゃんが死んじゃった歳まで頑張って生きてきたよ。後はこの身体お姉ちゃんの好きに使っていいからね。ごめんねお姉ちゃん嫌いなんて言って…ごめんね…。」

雨は次第に強くなっていった

鈴菜は意を決して再び橋の上に立ち

鈴菜はゆっくりと目を閉じ川の中へと倒れ込むように落ちていった。

その時だった。

グンと鈴菜の服を誰かが引っ張った

「えっ?!」

「ここで死んでも姉への罪滅ぼしにはならないぜ。」

有り得ない状況だった。

鈴菜の服を掴んで、いや噛んでいるのは

鈴菜よりもはるかに身体の小さい

緑色の目をした黒猫だった━━━━━━━━━


いつの思い出なのかは分からなかった。

小さな子供部屋に鈴菜と芹がいる

「鈴菜、おいで、」

床に寝そべり、グリグリと絵を描いている

鈴菜を姉の芹が自分の膝へポンポンと手招きする。鈴菜は嬉しそうにとてとてと歩いていき

芹の膝に頭を乗せ、自分の顔の横に垂れている三つ編みをいじくる。

「いいなーおねーちゃん、みつあみできてー

鈴菜、髪短いからおねーちゃんみたいに、三つ編み出来ないもん。」

「そんなことないよ、

鈴菜の髪でも出来るよ、お姉ちゃんやってあげる。ちょっと目閉じててね」

芹は寝ている鈴菜をきちんと自分の膝に座らせ、黙々と鈴菜の髪を編んでいく。

「はい、出来たよ」

鈴菜が目を開くと

芹が目の前に出してくれている手鏡には見事に

おさげの三つ編みになっている鈴菜が映っていた。

「おぉー…」

鈴菜は嬉しそうに芹の周りでクルクルと踊る。

「すごーい!!すごい!!すごい!!!お姉ちゃんと一緒だーー!」

「おかーさーん見てー!」

鈴菜は階段を駆け下り、ダイニングのテーブルで書き物をしている母に見せに行った━━━━━━━━━


わっ!わっ!何?!何?!」

「あんまり暴れると流石の俺様でも落っことしてしまうぜ」

「あ、…は、はい。」

処理するべき問題があまりにも多すぎるが、

謎の喋る猫に言われるがままに

鈴菜は大人しくした。


猫が鈴菜に傘を差す。そんな状況

未だ鈴菜の脳みそはパニック状態だった。

まるでエメラルドが丸々埋め込まれているようなその猫の瞳が鈴菜を真っ直ぐと見つめている。

「うわなにこいつの目ん玉、気持ち悪…と思ってるか?」

「い、いえ、…!」

鈴菜は思わずピシッと背を正す。


「お前、今自殺しようと思っていたんだろ?」

「え?なんで…」

「ふっ猫はいつでも色んなやつを見てるし、色んな事を知ってるんだぜ、まぁ俺様はその中でも特に特別な猫だがなケッケッケ…」

黒猫はくしくしと自分の顔を毛繕いする。

「だが何故だ?何故そんな親より先に死ぬなんて親不孝な事をしようとした?」


「それは…

私がお姉ちゃんを殺したから…」


「ほーう…それそれは…」


小さい時の自分の記憶は、大人になるに連れて消えていってしまうものだが、鈴菜には朧気ながらも記憶に残っているものがあった。

ダイニングで何か激しく口論をしている、

父と母

姉の芹は鈴菜にそれを見せないよう必死に鈴菜と遊んでいた。突然父が鈴菜の手を思い切り引っ張った、あまりに突然の事に鈴菜は思い切り泣きじゃくった。母は父から鈴菜を引き剥がそうとする

その時だった、

ドンッと鈴菜は急に誰かに押し飛ばされた。

ニヤッと笑顔を鈴菜に見せる芹がそこにいた。

芹は父親の腕を取り、やがて一言二言何か話した後に3人は大人しくなった。

それから幾つか経ってのことだろうか、

鈴菜と芹2人の部屋、芹は鈴菜に目もくれず、自分の荷物をせっせと詰めていく。

「おねーちゃん見てー、お姉ちゃん描いたよー

ねぇ~おねえちゃーん」何度肩をゆすぶっても

芹は振り向こうとはしなかったぇ~おねーちゃーん」

呆れたため息を着きながら芹は振り向くと鈴菜に言った。

「邪魔よ」

芹は一言そう言い

そのまま荷物を背負い部屋を出ていこうとする芹。

鈴菜はあまりの出来事に呆然とした

あの優しかった姉は一体どこへ行ってしまったのだろうか、鈴菜は次第に涙がポロポロと流れ始め

大声で泣きじゃくりこういった。

「お姉ちゃんなんか大っっ嫌い!!!!!」

芹が一瞬振り向く

その顔は悲しみか怒りか、今のとめどなく溢れる涙で前が見えない鈴菜には分かるはずが無かった。

また幾つか経った日のこと

次に鈴菜が会った芹はかつてのあの日のように優しく微笑みながら静かに眠っていた。

何の因果か

芹を最初に橋の下で見つけたのは鈴菜だった。

きっとそれだけでは無いのだろうが、

あの時の鈴菜は芹を殺してしまったのは

自分が最後に言った「嫌い」という一言だったのだろうと思い込んでしまった。


「私、お姉ちゃんの人生を14歳で終わらせてしまったのだから私にきっとお姉ちゃん以上の人生を生きる資格は無い私の残りの人生はお姉ちゃんにあげようと思ったの。もしも生まれ変わった時もっと倍の人生を生きられるようにって…」

「しかしそんなことをしても姉は戻ってこないことはとても賢いお前には分かっているんだろう?」

「…うん…」鈴菜はコクンと静かに頷く

「だがそんなとても賢い鈴菜ちゃんに朗報だ、

姉を生き返えさせる確実な方法があるぜ。」

「え、何…それ?」

「俺様の首輪に着いてるものを取れ、」

言われるがまま黒猫の首筋を見ると、

首輪の真ん中にクローバーの形の小さい硝子が着いていた、硝子のクローバーの葉はそれぞれ子の猫の瞳のように緑色の光を放ちキラキラと光っている。

「綺麗…」

鈴菜は思わず魅入ってしまい、

何気なく硝子を触る

「痛っっ」その瞬間、硝子で切った鈴菜の血が、硝子のクローバーにまるで葉脈の様に広がっていく。

「よしっ鈴菜、これで今日からお前は魔法使いだ」「え?魔法使い??なに?」

その時だった黒猫は鈴菜の服を咥えて

さっきとは逆に鈴菜を川へと勢いよく投げ込んだ

バシャーーンっと大きく水飛沫をあげながら

沈んでいき、そのまま死ぬんだなと鈴菜は思った。

「ごめんねお姉ちゃん」


しばらくして鈴菜は目を覚ました。

「あれ…足…着いてる…」

いやだが…と鈴菜は頬をつねる

「いひゃっ…え」

頬をつね、確かに痛みを感じると、思いながら、

何気なく上を見上げると、そこには自分よりはるかに巨大なロボットが自分を見下ろしていた━━━━━━━━━

「…どゆこと?」はるか頭上のロボットの瞳が鈴菜を見下ろしている。


「死んでお姉ちゃんに身体を返す、なんてそんなおとぎ話みたいなことある訳が無い、が、姉の人生を取り戻すことは出来る、こいつとこれからお前にやってもらうゲームでな。」後ろから、黒猫の声が聞こえてきた。鈴菜は思わず振り返えった。そこに、あの黒猫は姿は見えず。そこには真っ黒な燕尾服に身を包んだオールバックの男性が立っていた。「あんた、誰という感じだな、そうだなこれで分からないか?」男は自分の目を指さす。「えっ?えっ?」黒猫は腕を組みふふんと得意げに鼻を鳴らす「特別な俺様の事はおいおいじっくりと教えてやるよ。今大事なのはこれからお前にやってもらう事の説明だ。」


  「お前はさっきの硝子のクローバーに血を流すことで晴れて【 魔法使い⠀】となった。」「なにそれ…そんなの聞いてない」黒猫はずいっと鈴菜に顔を近づける。「まぁ聞けって、」黒猫は両腕を広げて、鈴菜の周りをクルクルと歩き出す。 「魔法使いとしてのお前の役目は、この世界からお前たちの住む世界に侵攻しようとしてくる【⠀ジェミニ⠀】を食い止め、あるいは殺すことだ。」「ジェミニ…?えっていうかここって…?」「この世界の事なんて別に知らなくてもいい。大事なのここだ。ジェミニは幸せが欠落した不完全な存在だ。故に自分たちに無いものを持っているお前たちを、妬み滅ぼさんとしようとしている。言わばそんな悪い怪物から世界を守る正義の魔法使いが、お前というわけだ。」鈴菜はしばらく黙り込む一言言う。 「…やっぱり私死んでるんだ…。」「はぁ…こんなに説明してもまだ信じていないのか…」その時だった。遠くの方から静かに、重々しい足音を響かせながら、何かが近づいてきていた。「…来たな…鈴菜、今すぐ「箒」に乗れ。」「え?!ほ、箒って?!そんなの何処に…」黒猫は頭上を指さした。「箒ってこれ?!でもどうやって?!」「クローバーをそいつに掲げろ。」「く、クローバー…クローバー…」ふと鈴菜は首元を見ると、あの硝子のクローバーはいつの間にか鈴菜の首にネックレスとして掛かっていた。「か、掲げるって…」鈴菜はとりあえず目の前の箒と呼ばれたロボットに向かって、硝子のクローバーを掲げた。その時だった。真っ黒だった箒の瞳がギャンッと赤く光り出した。   巨大な 駆動音を発しながら。箒の手のひらが鈴菜の前に差し出される。「乗れって…?」ぴょんっと鈴菜は手のひらに乗った。エレベーターのように腕は上がりそして鈴菜は箒の胸の中心にグッと押し込まれた。「わっっっぷっっっ」鈴菜は思わず目をつぶってしまった。しばらくして鈴菜が恐る恐る目を開くと、鈴菜はステンドグラスが張り巡らされた部屋の中でコクピットに座っていた。鈴菜はぺたぺたと硝子を触る。「わぁ〜…」「来るぞ。」思わず周りのものに見とれてしまう鈴菜を遮るように黒猫が鈴菜に言う。鈴菜とコクピットを囲っているステンドグラス全てに真っ黒な身体ののっぺらぼうのような何かがが写った。「な、何こいつ……」「言ったろ?そいつがジェミニだ。じっとしてると殺られるぞ。」その瞬間、何も無いと思っていたジェミニの顔に1本の亀裂が入り、まるでジッパーのようにそれは開いていき、見るからにおぞましい歯並びの口が現れた。恐怖を感じたのも束の間、ブンッッッと空を切り裂くような音が一瞬鈴菜の耳に響いたと思えば。鈴菜の乗っている箒はジェミニのパンチによって上空へと吹き飛ばされていった。グンッッッッと臓器が潰されるような衝撃が鈴菜に掛かる。勢いを止めることなく鈴菜の箒は上へと上昇していく。「おいおい反撃は無しか?このままじゃ今度は、……」「わ、分かってる……!けど!!!」ジェミニは真下から箒へとまるでロケットのように向かってきた。鈴菜はなにか使えるものは無いかとカチカチと両手のコントローラーのスイッチを手当たり次第に触っていく。その時、ひとつのボタンを押した瞬間、背中からカシュッと何かが一瞬噴射したような音がした。「これか……!」ジェミニは既に箒の目と鼻の先だった。その時鈴菜は箒のジェットパックを一瞬だけ噴射させた。すると箒は宙を一回転し、突き出した右脚のかかと落としがジェミニの頭部に炸裂した。ジェミニは勢いよく下へと落ちていく。   「気持ち悪っ……」鈴菜はまるでジェットコースターで360°回転した時の感覚に陥っていた。いつの間にか猫に戻り、肩に乗っかていた黒猫が喋り出す。「ちなみに安心しているようだがまだジェミニは死んだわけじゃないぜ、コアを潰さないとな。」「コア……?」寝そべっているジェミニの胸部から確かにコアが露出していた。鈴菜の箒はコアを掴んだ。ドクンッドクンッとそれは心臓のように脈を打っている。「さっさとしないとまた起き上がって来ちまうぜ。」「う、うん……」鈴菜はコントローラーを強く握りしめるギチ、ギチとコアが音を立てていく感覚が鈴菜にコントーラー越しに伝わってくる。そしてコアは果物のようにパシュッッと潰れた。刹那その時だった。キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァガラスの破片のように鋭い耳を劈くような断末魔が鈴菜の脳内に響き渡った「な、なにこれ……!!!!やめて!!止めて!!」鈴菜は思わず自分の頭を、握りつぶす勢いで両耳を抑える。やがて音は鳴りやんだ。鈴菜は身体中にびっしりと汗をかいた。「はぁ……はぁ……何今の……」黒猫は毛繕いをしながら答える「まぁ生き物を殺すっていうのはそういうもんさ。」━━━━━━━━━


         「夢中になってて全然聞けなかったんだけど、これで私の人生をお姉ちゃんに返すこと出来るの?」「あぁ勿論さ無論この1回だけでという訳じゃないがな、戦い続けそして守り続けていれば、いつか必ずお前はお望み通り姉に人生を返せるさ。」「いつかって……曖昧すぎ。でも、そうなんだ……」答えとしては曖昧だが、何故か確かな確証を得たと鈴菜はその時感じた。「それじゃぁ今日はお疲れさん。」黒猫が前足で鈴菜の瞼を閉じると鈴菜はそのまま気絶した。気がつくと鈴菜は橋の上に寝転がっていた。「夢だったのかな……。」そうは思ったが、鈴菜がふと自分の胸元を触ると確かにあの硝子のクローバーは鈴菜の首元に掛かっていた。「夢……じゃないんだ。」「あ、……花……どうしよう……」既に日が暮れ当たりは真っ暗になっていた。


    「ただいま。」玄関を開けると朝とは違い嬉しそうな母の顔が飛び込んできた。「おかえりなさい!あれ……?芹は?お姉ちゃんは……?あとから来るの?……」「お姉ちゃんはもう死んだでしょ。」

鈴菜は軽くあしらい階段をのぼり自分の部屋へと向かおうとした。その時だった。グンッッッッと母は鈴菜の腕を掴んだ。

そして、母の平手が鈴菜の頬を赤く染める。

母は鈴菜の肩を大きく揺さぶる。

「どうして!!!どうして!!!そんなにお姉ちゃんのことが嫌いなの?!!私は貴方達2人ともこんなに愛してるじゃない!!どうしてそんな死んだなんて言うの!!!」

鈴菜は下を向いていた。

「ちゃんと、お母さんの目を見なさい!!!」

強引に鈴菜の顔が持ち上げられた。その時、後ろから玄関のドアが開く音がした。「貴方、芹がね……芹が、帰ってこないの……おかしいわそんな子じゃないのに……早く探しに行ってあげないと……きっと寂しがってるわ……。」母は私を振り払い父に泣きついた。「お父さんごめん、私お花買い忘れちゃって。」父は優しく私に答える。「大丈夫だよ、部屋に戻ってなさい。」


言われた通り鈴菜は部屋に戻ったが母の泣き声は二階の部屋まで響き渡っていた。


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