炎の大魔導師はそれを揉みたい -5-

「おれ、全然知らなかったペン。この山が、そんなことになってたなんて」


 トビーは呆然としたように立ち竦んでいます。


「しょうがないじゃん。子供には恐怖を感じさせたりしないよう、伸び伸び育ってほしい。それが大人の望みじゃん」


「嫌われたわけじゃなかったペンね。よかった。あんなに、みんなやさしかったのに、急に怖い顔で追い出されたから、本当に悲しかったペン。フレデリックに会うまで、毎日涙が止まらなかったペン。心細くて、寂しかったペン」


「うぅ、ごめんじゃん、トビー」


 イワトビーたちがトビーを取り囲んで、盛大に泣いています。


 チッチッチッ。


 チッチッチッ。


 チッチッチッ。


「トビー! これからはまた一緒に暮らそうじゃん! フレデリックとかいう魔導師のことは忘れて、ブラックペギーを怒らせないよう、この山で細々とやっていこうじゃーー」


「チッ! あなたたち、いつまでも長々と、くだらないことでメソメソするのはやめなさい。これ以上は時間の無駄です腸を引きずり出して揉みますよ


「えっ? 今、チッて鳴らしたのはミリアおばはん!? さっきからチッチッ鳴ってたのは、魔道腕時計の秒針じゃなく、ミリアおばはんの舌打ちペン!?」


「あなたたち、今誰と、共にいるのか、理解していますか」


「誰って、ミリアおば…い、いえ、ミリアお姉さんペン」


 トビーはわたしを振り返ると、キリリ眉に緊張を走らしたあと、言い直しました。


「ちょ、ちょっと変わった、眼鏡フレームだけかけた、鬼畜道のお姉さんじゃん……?」


 イワトビーBは、唇をわなわなと震わしています。


「チッ。正しいようで、まちがっています。わたしはお姉さんでありながら、大陸に名の知れた炎の大魔導師です。敵はヒョウザリン山に住みつくブラックペギー、つまりは黒いただの多少は魔力のあるペンギンなのですよね。あなたたち同族が相手をするならば、強敵かもしれませんがーー」


「あ、炎魔法の前では、激弱、かも、ペン?」


「チッ。人の言葉を途中で遮ってはいけません。恥を知りなさい腸を揉みますよ。ですが、そういうことです」


「ーー……なるほど〜ペン〜。ミリアお姉さんは、頼りになるペンね〜。でも……」


「でも、なんです?」


「まるでミリアおばはんのほうが、ラスボス感出てるペン。山の仲間が怖がって泣いちゃうから、イキルのはそれくらいにして欲しいペン」


 イキル? なんのことでしょう。


 理解不能です。


 ふと、イワトビーCに目をやると、怯えた顔をし、尿を漏らしながら、泣きじゃくっています。


 なにか、怖いことでもあったのでしょうか。



 








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