ふたりの大魔導師はペットのために最善をつくす -5-
おそらく、すでに十メートル先を走って行ったのでしょう。フレデリック君のぼんやりシルエットも風景と同化してしまい、もはや目で追うことはかないません。
「……」
このまま、かえーー……。
「なにしてんだよ! まさか、この豪雪の中、ド近眼のミリアおばさんが山の入り口まで一人で下山する気? 死ぬつもりなの? 馬鹿なの? いくら、炎の大魔導師とはいえ、そんな状態で生きて帰れるわけでないでしょ? 大人ならそれくらいわかるよね? 死にたくなかったら、這いつくばってでもぼくのあと追ってきなよ。声のするほうをたどれば、そんな見当違いの方向行かずにすむでしょ、おばさん!」
なんとも減らず口です。しかし、概ね言っている内容は正しいでしょう。すでにヒョウザリン山の中腹までたどり着いています。眼鏡を割り、視力を失った今、己のみで下山を試みるのは愚の骨頂かもしれません。
どうやら、ここはフレデリック君に従うほか、選択肢はないようです。
ああ、せっかくDLしたのに。眼鏡さえ割れなければ、思う存分に狩れたものを。
「それから、ミリア! ミリアがウォークでフレンドになってる中に、“氷の宰相”っていなかった?」
? 言われてみれば、そのようなアカウント名のフレンドもいたような気がします。くるもの拒まず、去るもの追わず。申請されたフレンドはたいてい受け入れています。
「いたかと記憶しています。えっ? まさか……?」
「あれ、ぼくだから! 気づいてなかった? 当然、
いまだ、フレデリック君の姿は見えません。声だけが、豪雪の前方から響いてきます。
「その話、乗ります」
“氷の宰相”というネーミングセンスは少々疑問ですが、そこは不問にしてあげます。
「そうこなくっちゃ。はあ、軽い気持ちでフレンド申請したけど、まさかミリアがガチ勢で、こんなときに使えるなんてね。女性って難しいな」
なにやら、フレデリック君がボソボソ言っているようですが、声を張ってくれないとまったく聞き取れません。
「なにか言いましたか?」
「なんでもないよ! さあ、こっちだよ、ミリアおばさん! 手の鳴る方へ!」
パンパンと両掌を叩く音が聞こえてきます。それでは、声と音のするほうへ歩いて行くことにしましょう。ウォークと、トビーのために。
しかしその前に、訂正をひとつ。
「おばさんではありません。ミリアお姉さんです!」
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