第2話 ここから運命が変わるのでは⁉
そして翌日。
今日こそお菓子を渡すぞ! 別に一緒に食べらなくてもいい。とりあえず一口でも食べてもらって、私が理由なく毒を盛るような人間じゃないってことをわかってもらえれば!
だから朝から、私はターゲットを探す。
誰がいいかな……群れになるとまわりに合わせるけど、一人だと私に同情的な目を向けてくれる人も結構いるんだよね。そういう人が、一人の時を狙って……。
などと、廊下の真ん中で得物を物色していた時だった。
「ずいぶん美味しそうなものを持っているね?」
私の上から誰かが話しかけてくる。
近寄ってくる気配は感じていたけど……別に男の人だったからまるで気にしていなかった。殺気はなかったし、私が欲しいのは男友達ではなく、女友達だから。
だけど、銀髪に青い目をした美形面に思わず「ひゅっ」と喉が鳴ってしまう。
だってその
たしかに同じ学校に通っている情報は仕入れてますが。
学年も違うし、そもそも私が話しかけていい相手ではない。前に仕事で護衛した時も陰から見守っていただけだもの。父様にも『残念なことがバレるから話しかけられないように気配を消せ』と命じられていたくらいだし。
そんな殿下がとても人懐っこい笑みで見下ろしてくる。
「俺、クッキー好きなんだよね。良ければ俺にも貰えないかな?」
「だ、ダメです……」
「えっ?」
「これは、女の子にあげるために作ってきたんですうううううう!」
男は嫌だ! 好きなんて嘘に決まっている!
どうせ『菓子なんて無駄な成分が多い』だの『体重が増えた分だけ刺客の首を落とし損ねる』だの、そんな物騒なことしか言わないんだから!
お菓子には夢と希望と幸せが詰まってるんだあああああいっ!
だから、私は逃げ出した。
その後も殿下は予鈴が鳴るまで私を探していたようだけど、一度気配を消してしまえば、私を捜し出すのは兄弟でも無理である。かくれんぼ(命がけ)なら負けたことがない。
「しかし、なんで殿下がいきなり……?」
まったくもって脈絡がわからない。
強いてあげるならば、父様が何か根回しでもしたのだろうか? あれかな。私の学校生活を調査した結果ずっとぼっちで惨めだったから、国王陛下に頼んで王太子殿下に動いてもらったとか?
うわ~、ありえる。
だって実は、父様と国王陛下は月に一度は夜な夜な二人きりで飲み明かすくらいに仲良しだもの。酔っぱらった父様の迎えに何度深夜城に呼び出されたのか数えきれない。醜態を誰にも晒したくないからと、子供たちに仕込んだ暗殺技術の無駄遣いをしないでほしい。酔っていても父様は怖いから、そんな文句を一度も言えたことはないけれど。
ともあれ、もし私の予測が当たっていたのなら……。
「ほんと~~に、凹むなぁ……」
落ち込んでいても、時は誰しも平等に進んでいく。
だから気を改めて、お昼休憩時に改めてターゲットを探しているも。
「あら、ミーリャ=フォン=デイバッハさん?」
「ふぇっ⁉」
今度話しかけてきてくれたのは、紛れもない女性の声だった。
鈴の鳴るような清らかな声に振り返れば、そこにはまさにキラキラふわふわなご令嬢。彼女を囲んでいる令嬢たちはみんな私を睨みつけていたり「どうして悪魔令嬢なんかに⁉」と怯えていたりするけれど。
その中心で一番キラキラしているセレニカ=フォン=コンスタンチェさん。調書によればお家も由緒ある公爵家。友好関係も幅広く、暇さえあれば慈善活動にも勤しんでいるような心も綺麗な方である。
友達もいない、家族全員物騒極まった『悪魔令嬢』な私と別世界のキラキラ令嬢セレニカさんが優美に微笑みかけてくる。
「さっきからキョロキョロして、誰かお探しなのかしら? もしよければお相手を教えてもらっても?」
はうわっ、眩しい……。
あまりの輝きに悪魔は浄化されそうである。ていうか浄化してください。そして私もその取り巻きの中に入れてください後生ですから!
「あああ、あああああ、あの……」
「ふふっ、落ち着いてからでいいですわよ?」
うぅ~、や~さ~し~い~~~~!
これが女の子。これこそ女の子オブ女の子っ‼
「あの……もし宜しければ、これ……」
「あら、わたくしに?」
コクコクと何度も頷く。もう私の首なんて取れたっていい。
「嬉しいわ、ありがとう。あとでいただくわね」
その笑みの向こう側に花が咲き乱れているように見えた。
もちろん、私の幻覚なのだけど。
それでも、私もようやくお友達ができるかも。
しかも一番すてきなお友達ができるかも! と興奮でその後一日中にやけっぱなしだった。そのため『クラスのほぼ全員の余命があと100日だ』とお葬式のような空気になっていたが……100日後にみんな元気でその噂もデマだった証明できたらいいな、と前向きに考えておく。
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