六人の悪役令嬢! 悪役令嬢が多すぎる不発乙女ゲームに転生したので羽目を外して魔王に愛されます。

佐藤うわ。

短編 六人の悪役令嬢! 悪役令嬢が多すぎる不発乙女ゲームに転生したので羽目を外して魔王に愛されます。

「ちょっとアンタ生意気なのよっ」


 ドンッ

 儚げな少女が数人の性格悪そうな女達に囲まれ、大きな木の幹に押し付けられ、壁ドン? 幹ドン?? されていた。その少女は質素な身なりにも関わらず、その場に居た誰よりも気高く美しく見えた。


「……貴方達何をしてらっしゃるの? 私の目に見える範囲で勝手な振る舞いは許しませんわよ!」

「はぁ? 誰だお前……」

「げっ伯爵令嬢のキャスリーヌ様だっ」

「ひっ、申し訳ありません、行くよ」


 少女を取り囲んでいた女達はバツが悪そうにそそくさと何処かに消えた。


「……あ、ありがとう御座います。わ、わたし身分違いにも関わらず王立魔導学園に入学出来る事になって……それで……」

「ふんっそんな態度だからあんなのに囲まれるのよ、もっと堂々となさいっ! 同じ学校よ、取り敢えず一緒に参りましょう」

「はいっ!! 私ラフィエラ・アロミエルと言いますっ!」

「あ、そう」


 私は早速手に入れた友達兼、身の回りの世話係りを引き連れ王立魔導学園の門を潜る。異世界にも桜は咲く。門から広大な校庭のあちこちに満開の桜が咲いていた。……異世界って何だ?

 校舎の前で最愛の許嫁である背が高く目立つランフェルートが軽く手を振って笑顔で待っていた。周囲に居る者達は全て私達カップル二人をおとぎ話の住人でも見るかの様にぽうっと羨望の眼差しで眺めている。私は軽くラフィエラを紹介してやると一緒に校舎に入って行った。


 

 だが一年後。


 ……何ていう事だろう、私伯爵令嬢キャスリーヌ・ヴァイセンフェルトは幼い頃から許嫁として長い時間を共に過ごし、相思相愛だと信じ込んでいた王国の第二王子アルカジア・ランフェルートから、お城の大広間で舞踏会に集まった人々の冷たい視線の中、突然の婚約破棄を突きつけられてしまった。とんだ大恥をかかされた。


「貴様……敵国の王子と結託し、国軍の機密情報を流出させ、さらには悪の貴族達を扇動しこの国に革命を起こそうとしていた事、ここにいるラフィエラ・アロミエルから全て聞いたぞ。相違無いな?」

「友達だと……思っていたのに……今でも信じられません……私怖い……」


 愛しのランフェルートの横に居る、ラフィエラはわざとらしく薄っすらと涙なんかを浮かべながら、きっちりと私に指を差し全くの真っ赤な嘘のでっち上げを告げ口している。

 ラフィエラ・アロミエルは貧しい庶民の出ながら貴族や裕福な家庭の子息が通う王立魔導学院に入学して来た草の根的エリート美少女。私はいじめられていた彼女を何かに付けて助けて来てあげたはずだが、何でそんな嘘を付いちゃうの?? ……まあ軽く小間使いには使ってしまったが。しかもランフェルートってばそんな告げ口一つで嘘を信用してしまって、貴様とか言っちゃうなんて変過ぎるわよ。


「ラフィエラは優しいな。しかし悪は悪だ。かつての許嫁だとしても許す事は出来ない」


 等と言いながらランフェルートは彼女の頭を軽く撫で、二人はしっかり手を握り合っていた。何時の間に!?


「そ、そんなの全てその女のでっち上げの嘘ですわっ、何か証拠がありますの? 私を信じてランフェルート」

「ええい貴様まだ言うかっ! これが証拠の敵国王子への手紙だ! 筆跡鑑定も済んでいるぞ!!」

「そ、そんな……筆跡鑑定だなんて……この世界にあるの……」

「本来なら断頭台に行くべき重罪、しかし長い間一緒に居ながら罪を見抜けなかった僕の落ち度でもある……そこでキャスリーヌ・ヴァイセンフェルトを国外永久追放とする!!」


 がーーん、そんな事って……これからどうして生きて行けばいいの? という不安感と恐怖心の他に私はおかしな既視感に襲われていた。あれ、これ何か見た事ある、凄い見た事ある!! と。単なるデジャヴュ? いや違う思い出した、これは前世で私が寝食も勉強も忘れて熱中した乙女ゲームの一場面にそっくりである事に。そう『ヴァイセンフェルトは振り向かない! 魔王に見初められし悪役令嬢』がそのゲームだ。

 このゲームは悪役令嬢ブームに便乗して、悪役令嬢モノに出て来る様な令嬢が出て来る乙女ゲームは実際には存在しないというユーザーの不満に対応し、小説の物語中に出て来る様な架空の乙女ゲームを実際に制作したら? というコンセプトのもとに作られた物だった。ゲームは一週目は実際に悪役令嬢小説に出て来る様な悪の悪役令嬢をプレイヤーが操作し、ヒロインつまりラフィエラに数々の意地悪を連発して陥れ他にも悪事を為し、それが発覚して最後は国外追放や断頭台に登る的な数種のバッドエンディングを迎える。所謂ハッピーエンドは無い。そして二週目、ようやく今度は改心した悪役令嬢モノとしてゲーム内でループ転生しテンプレよろしくヒロインを助け下僕を増やし、特定の相手と結ばれたり逆ハーレムに貴族や王子をはべらせたりしてエンディングを迎える。

 でも残念ながらやっぱりコンセプトが良く分からないという理由で発売三か月後には1,980円でワゴン行きとなったが、どうしてだか私は度ハマリして寝食を忘れてプレイしていたのだ。

 ……いやちょっと待て、私達は出会いからしていじめられてるラフィエラを助けてたじゃないか、つまりそれは私の他に新たなる雑魚悪役令嬢が発生している二週目のストーリーで、私は一年目でいきなり国外追放なんてされる訳が無いのに。ちゃんとラフィエラとも友情を育み、そもそもヒロインが実は転生者で悪役令嬢化する……なんてストーリーも無かったはずだが。


「……こんな時に何を長時間ぼーっとしている? この者を捕縛せよっ!!」


 このゲームが現実なら現実を忘れ物思いに耽る私に向けて縄を持った城兵が迫って来る。

 ドドーーーン! バリーーーン!

と、突然お城の大広間の壁と窓が爆発し吹き飛び、妖しい蝶のマスクを付けた謎の集団が押し入って来る。


「きゃーーーっ」

「何なに? 何が起こっているの?」

「ええい、これしきで動揺するな、賊を逃がすな!!」


 ランフェルートが城兵に向かって叫び、人々が逃げ惑い大騒ぎする混乱の中、私の腕をガッと力強く掴む者が。


「助けに来た、一緒に来い!!」


 この声には聞き覚えが……二週目で仲間となり私を何かに付けて助けてくれる魔王のエルメリッヒだ。つまりこの世界はやはり二週目なのか。



 ―魔王城。


「気が付いたか?」


 ふと目を覚ますとエルメリッヒの魔王城の一室で眠っていた。いろいろな事が起こり過ぎてショックで眠ってしまっていたのだろう。


「此処は何処?」


 私は知っているが一応聞いてみた。


「魔王城だ。驚いただろうが聞いて欲しい。この世界はゲームという物の中の世界らしい」


 ええ、知っていますとも。しかし魔王は何故その事を知っているのだろうか??


「何故その事を?」

「実は……全て彼女らから聞いた。入って来て良いぞ」


 彼女ら? 誰??

するとドアを開けてまず若い女性が一人入って来た。その姿は見るからに悪役令嬢然とした高貴で冷たそうでツンとした美女だった。


「初めまして……わたくしは氷の悪役令嬢、ナターシャ・アリエナですわ、よろしくね」


 え、そんなキャラ知らない……しかしそんな顔色を読んだ様にナターシャが言った。


「貴方が知らなくとも当然よ、私はダウンロード特典で手に入る三週目のプレイヤー悪役令嬢なの」


 三週目? ダウンロード特典?? 全然知らない。どういう事なの。


「良く分からないわ」

「実は貴方が事故で死亡した5年後、突如このゲームが再ブームとなって、続編に近い程の超ボリュームの新たなるシナリオとプレイヤーキャラが有償ダウンロードで入手出来る事になったの……だから貴方は何も知らないのよ」


 がーーーん、私事故で死んでたのかっ!! 私の全く知らない物語に人物……ていうか不発のクソゲー扱いだったのだから、再ブームて言葉おかしくない?


「貴方の正体は誰なの? それに私はどうなるの??」


 本来であれば、ゲームの知識を生かして無双したり破滅を防いだりするのだが、いきなりもう既に破滅してしまったので、今後どうすれば良いのか迷ってしまう。思いの丈を素直に聞いてみた。


「実は私は……貴方と全然関係無い赤の他人の転生者なの。だから貴方を導く事は出来ないわ」

「全然関係無い赤の他人の転生者なんだー」


 てっきりクラスメイトとか兄とかゲームを売りつけた店員とかゲーム開発者とか何か深い因縁があると思ってしまった。この子との前世の因縁で何かしら展開があるのかと思ったが何も無かった……


「でも何故私が転生者だと?」

「それは……残りの彼女達に聞いてくれれば分かりますわっ」

「彼女達??」


 そう言われて見ると部屋の中に新たに四人の若い女性が入って来た。


「私は極貧の中でも輝く華、ライフハックならおまかせっ貧乏悪役令嬢のデイジー!」


 デイジー……急に名前が手抜きに!? 貧乏な時点で令嬢じゃ無くない!?


「私は毒物と黒魔術ならお任せ、ヤンデレ悪役令嬢のクロミザよ……うふふふ」


 クロミザってモロに名前が黒い頭巾をかぶった可愛い生物のアレっぽくてヤバイですわよ。


「くくく、悪の華を見せてやるよ……徹頭徹尾悪、三週目ですら反省しない絶対悪のシャレにならん悪役令嬢、マーガレッティ!! よろしくな」


 ……絶対友達になりたくなーーい。


「ヒロインは仮の姿……影の支配者的悪役令嬢、ラフィエラ・アロミエル……よ」


 最後に入って来た子を見て驚いた、ラフィエラだった。


「ちょ、ちょっと貴方、どういうおつもり!? 私を陥れてぬけぬけと……」

「待ちたまえ、この子はあの城に居たラフィエラでは無い。三週目で悪役令嬢として出現するパターンのラフィエラなのだよ。君を陥れる数々の捏造と陰謀は本来はこの影のラフィエラの仕業なのだが、今回はこの子のやった事では無い。全て心変わりしたランフェルートの単独犯だ」


 食って掛かる私を魔王が優しく制止した。しかし私を陥れたのが愛する許嫁のランフェルートだとはっ。


「私ラフィエラと城に居たラフィエラは本来同時に存在しては駄目なバグ。あの子と私が出会うと対消滅反応を起こしてしまうの……最終兵器として使って下さい」


 ……使わないわよ! 何よ対消滅反応って怖すぎでしょっ。


「そ、それでこの子達がどうしたって言うのよ?」

「つまりこの子達は全て熱心なゲームのプレイヤーであり、彼女達の元が何等かの理由で死亡した後に、生前最も愛した自分のプレイヤーキャラに転生したのだ。私はその事に気付き、彼女達を救って回って保護していたのだよ……」


 ああ、エルメリッヒはこの壊れた世界でもプレイヤーの悪役令嬢を助けてくれる優しい役割なのね。


「一週目が正悪役令嬢として破滅、二週目が反省悪役令嬢としてハッピーエンド、なら三週目はどんな展開ですの? 私プレイする前に死んでしまったみたいで分かりません……」


 私の素朴で簡単な質問に何故かエルメリッヒは黙り込んだ。


「ど、どうしたんですの? 教えて下さいっ!!」

「…………………………………………百合になる」


 魔王エルメリッヒはぼそっと小声で言った。続けて氷の悪役令嬢ナターシャ・アリエナが教えてくれる。


「製作者が迷走して……普通のイケメンを取りあう乙女ゲームから、百合に路線変更したの……うふふ、つまり此処に居る私達は全て百合ゲームと化してから入ったプレイヤーなのですわっ。魔導学園の生徒も複数の魅力的な美少女が新たに編入されていますの……」


 あ、ああーーーーー製作者の人、折角再ブームの最中に迷いに迷って百合に走った……。私は額に手を当ててくらくらした。でも私は百合じゃない……どうすれば……出来れば此処にいる魔王様と仲良くしたい。何故なら本当は私は許嫁として結ばれる攻略キャラのランフェルートや他のイケメン連中よりも、決して攻略出来ないがサポートキャラとして常に助言して手助けしてくれる魔王様が一番好きだったのだ。こうなった以上は前向きに思いを遂げるしか無かった。



 その夜。


「魔王さま、私達どの様にすれば良いと思いますの?」


 私は一人魔王の書斎に入り、今後の身の振り方を相談する振りをして魔王様に接近した。


「……詳しい彼女達の話によると、百合ゲームと化した物語ではプレイヤー以外の悪役令嬢も攻略対象となる。つまり彼女達にとって君も攻略対象足りえるのだ。しかし二週目しかプレイ経験していない君にはその話は苦痛であろう……私もどうしてやれば良いか悩んでいるのだ」


 魔王様の話を総合的に判断して考えると、彼女達は三週目の百合ゲームと化した世界のプレイヤーキャラクターだが、この世界、私がさっきまで過ごしていた世界自体はノーマルな乙女ゲームの二週目に相当する……つまり彼女達は生まれ来る世界を間違えてしまった様だ。いや……私もか。


「魔王様……此処に居るラフィエラと、都に居るラフィエラを出会わせて対消滅反応を起こしてしまったらどうなるのかしら?」


 私は思わず最大の疑問を投げ掛けた。


「……それは私にも分からない。この世界が正常に戻るか……はたまた無に帰すか……全く想像も出来ない」


 魔王はまつ毛の長い瞳を閉じてゆっくりと首を振った。魔王様にも分からないだなんて……しかし私は何故か好奇心に歯止めが効かなかった。


「……魔王さま、私どうしてもどうなるか見てみたいの」

「君はそれで良いのかい? 私の力があれば君を振った王子にざまぁ出来たり、取り敢えず適当なイケメンを連れて来てそれなりの幸せにしてあげる事も出来るのだよ」


 魔王の言う事も最もだった。ゲームのキャラならゲームの世界設定に与えられた小さな幸せを追求するのも一つくらいなら正しい道とも言える。


「そうですわね、じゃあ軽く私を振った王子にざまぁするのを手助けして頂けますでしょうか? でも私……ゲームとして一番好きなのは二週目で仲間になって助けてくれる魔王様、貴方が一番好きなんです。だから王子にざまぁするのは約二年後、ゲームのプレイ期間である残り二年間、幸せに二人で暮らして頂けませんか? その後にざまぁして二人のラフィエラを出会わせたい……」


 私は勇気を振り絞って本心を打ち明けた。


「……実は……我も其方を一目見てから心から好きになってしまった。其方たちが言うゲームのプログラム、設定なのかも知れないが、もはやそんな事はどうでも良い。我も其方と残り二年間一緒に暮らしたいと思う。その後にそなたの願いを全て叶えよう」


 そう言って美しい魔王様は私を優しく抱き締めてくれる。凄く嬉しい。





 私達二人はそれから二年間という物、とても幸せに暮らした。残りの悪役令嬢たちも街から可愛い女の子を連れて来たり、自分達で愛し合ったりあまり深く関わらない様にはしていたが、それなりに幸せに暮らしていた様だ。


「魔王様……どうしましょう……とうとうプレイ期間である三年間が迫っています」


 私は立派な椅子に座る魔王の体に横から抱き着きながら訴えた。


「とうとうか……それで三年が過ぎるとどうなるのだ?」

「三年を過ぎても特定の相手の好感度が上がらず個別エンディングが見れていないと強制バッドエンディングが起こって、全てゼロに戻ってスタート地点に還ってしまうのです。私は魔王様を選んでしまった以上、特定のエンディングには辿り着けません。どうなるのか分からないの」


 私は目を閉じて眉間にしわを寄せて苦しみながら言った。この幸せを失いたく無かった。


「そうか……魔王エンディングというのは無いのだな?」

「はい……魔王様は色々とサポートしてくれて助けてくれるけど、最終的に結ばれるのは人間の男性のみ。魔王様は攻略対象では無く、私の魂を食べる為、悪の本性を現し最後は王子達に討伐されてしまうの……」


 私はさらに強く魔王を抱き締めた。この魔王はそんな事は決してしないだろう。


「……それは悲しい別れだな」

「タイトルに魔王って書いてるのに攻略対象じゃないなんて詐欺だーって小さい騒ぎになって」


 魔王様も暗い将来に声が小さくなってしまった。


「だから、このまま……じっとして消えてしまうのは嫌です……駄目元で、どうなるのか分からないけど、ラフィエラ同士を鉢合わせて対消滅反応を起こしたいの……一緒にやって下さい……」


 私は半分心中に近い気持ちで訴えた。


「良いだろう……一緒にやってみようじゃないか。君となら思い残す事は無い」


 私達二人は夜の書斎で体を寄せ合った。



 私達二人は遂にラフィエラ同士を鉢合わせる為に、まずは影のラフィエラに協力を依頼し、私を振った王子に街の正ラフィエラの振りをして壮大に振ってもらう事にした。


「うふふ、面白そうね。やってみるわ……庭園に入って王子を呼び出すのね」


 影のラフィエラはあっさりと協力を受け入れ、ランフェルートを呼び出してくれた。愛するラフィエラと逢引き出来ると期待して、王子が鼻の下を伸ばして庭園にほいほいやって来た。


「来てくれたのね! うふふふ、これを見て……」

「ああ……こんな所に呼び出して何かな……え?」


 ランフェルートは愛しのラフィエラを一目見て驚愕の顔をする。彼女は魔王の腕を強く抱きしめ不敵な笑みを浮かべていた。


「だ、誰だその男は!?」

「魔王様よ、ごめんね貴方のバカ面にはもう随分前から飽きちゃっていたの……あんまり可哀そうになって来たからもうここらへんで、真実を明かして上げようと思っちゃって~~」


 金髪の王子の美形の顔が崩れ、高いプライドを砕かれて自尊心が深く傷付けられ屈辱に頬がぴくぴく動く。


「も、もしかして二股掛けてたのか? ゆ、許さんぞ……」


 そのまま激昂して剣を抜こうとする。


「あっら~~そんな事してて良いのかしら? 貴方がキャスリーヌ様を陥れた捏造の数々、今頃お城の中で協力者諸共お縄にして張り紙してありますわよ!!」

「……いい気味だわ……振られるのはどんなお気持ちかしら王子??」


 私は王子の前に腰に手を当てて立ちはだかった。


「キャスリーヌ生きていたのか?」


 呆然自失とする王子を見て私は少々清々しかった。演技とは言え、魔王様に他の女が抱き着いている事以外は。


「お、覚えていろっ! 城の騒ぎを収めたら、必ずお前らを捕縛してやる!!」


 なんだか安っぽい悪役の様な台詞を吐いて王子は城に走って行く。しかしこの後の対消滅反応でこの世界はどうなるか分からない。城の騒ぎなどもはや小さな事だった。


「ラフィエラ……もう一人お客が来るの此処で待ってて」


 走り去る王子を見送ると、影のラフィエラから魔王様を奪い、腕を組んで次の招待者を待った。




「……こんな所に本当に行方不明のキャスリーヌが居るのかしら? あれから二年、何をしていたのかしら?」


 一応正ヒロインのラフィエラが手紙を持ち庭園をキョロキョロしながら歩いて来る。彼女は王子の捏造も何も知らず少し可哀そうな気もするが、全てが無に帰すなら彼女も巻き込まれるのだ。可能性に掛けるのは彼女の為でもある。


「……あの遠くにいるのが別バージョンの私、ふふ不思議な物だな」


 まだ具体的に私達二人の真の目的を聞かされていない影のラフィエラが、遠くから近付く人影を眺めた。


「待て――――――!! その女、そこで止まれーーーーーー!!」


 残りの令嬢達だった。それぞれ自前の武器を持ち、魔法を放ち二人の対面を阻止しようとする。

 バチバチバチ!!

 ガキーーーン!!

 カキーーーーーーーーん!!


 魔王様もこうなる事をあらかじめ予想し、準備していた禍々しい剣と魔法で保護していた彼女らと激しい攻防を繰り返した。


「な、何なの!? 何が起こっているの!?」


 カキーーーン

 バチーーーーーン

 お城の近くの街で普通に暮らしていた正ヒロインのラフィエラが、まばゆい閃光の中で繰り広げられる激しいバトルの攻防に腰を抜かしておののく。


「魔王さま! どうしましょう、急がないと騒ぎで正ラフィエラに逃げられてしまうわっ!」

「仕方ない……例え一度は保護した彼女らを殺しても、無理やりにでも二人のラフィエラを遭わせる、其方の望みの為にっ!!」

「魔王さま……」


 私はたとえ結果がどうなろうと嬉しかった。


「分かったわ……私を街のラフィエラに会わせようとしてるのね?」

「くっ」


 追加悪役令嬢の彼女達と魔王様の激しい戦闘を何も出来ず眺める私の横に、同じ様に立っていた影のラフィエラが突然武器を取り出し迫って来た。特に戦闘力が強い訳でも無い私は突然の事だが死ぬ事を覚悟した。


「怖がらなくていいのよ。私の最後の望みを聞いて……そうしたら、街のラフィエラに会ってあげるわ」


 突然の言葉に驚く私。


「望みって何かしら? 命とか??」


 その言葉を聞いて悪役令嬢と化した側のラフィエラが悲し気ににっこり笑った。


「……私が一番好きなキャラ、それは貴方なのよ。キャスリーヌ・ヴァイセンフェルト、悪役令嬢の貴方が一番好きなの。最後にキスをして、それであの子、ラフィエラに遭ってあげるわ」


 私は絶句した。いくら攻略対象と化していたとは言え、本当にそんな気持ちを抱いていたなんて全く気付かなかった。でも迷いは無かった。


「ええ、いいわよ。ごめんね……でも私は魔王様が好き」

「それでいいのよ」


 そう言うと、ラフィエラは激しい戦闘が繰り広げられる前で私の唇に軽く口付けをした。当然女の子相手なんて初めてだった。だが悪い気はしなかった……


「じゃ、ね、出来ればまた会えることを願って!」


 少し手を振ると悪役令嬢と化した側のラフィエラはたたっと軽やかに走って行き、戦闘の間近で腰を抜かしている同じ姿をした街のラフィエラに抱き着いた。目を見開き驚く正ラフィエラ。


「貴方誰!?」

「貴方よ」

「??」


 カッッ!!!

その直後、抱き合う二人を中心に白い光が広がって行く。


「駄目ーーーーーーー消えたくない!!」

「一体どうなるの私達!!」

「もっと……」


 他の悪役令嬢たちが恐怖に叫び声を上げる。


「魔王様っ!」

「ヴァイセンフェルトッ!!」


 一瞬で私の元に戻って来てくれた魔王様と私も強く抱き合ったまま白い光に包まれた。





「寝てたぁーーーーーー!!」


 寒い冬の夜、コタツに突っ伏してた私はがばあっと飛び起きる。ずっと度ハマリしている不発乙女ゲームをしたまま寝てしまっていたのだ。


「あ……れ? 生き返った???」


 私は煌びやかなドレス姿では無い、ださいジャージ姿の全身を見て驚いた。


「夢……夢オチ?」


 ふぅーーーっと溜息を付きながら思わず『ヴァイセンフェルトは振り向かない! 魔王に見初められし悪役令嬢』のパッケージを見る。


「ふむふむ……パート2では新たに魔王も攻略可能に……ふーん」

 

 え? 


「パート2?? 魔王も攻略可能に??」


 私は見覚えの無いゲーム内容に再び寝食を忘れてゲームをプレイした。その所為で実際に事故にあうはずだった日にも外出せず、事故にも遭う事無く普通に生き延びた。



「はぁはぁ根性で魔王様攻略したった……素晴らしいエンディングだ」


 私は深夜、軽くハイになりながらエンディング映像を観続けた。最後にヒロインである私の分身と魔王が抱き合った画像でおしまいとなった。


『……あの光の中、これが精一杯だ……其方とその世界で再会する力は無かった。いつの日かまた会える日を……』


 突然静止画像に噴き出しが付き、ぽつぽつと文字がたどたどしく浮かんだ。


「あああ」


 私は画面に両手を置いて涙を流し続けた。ありがとう生き返らせてくれて。




 ……あれからどれ程の時が経ったのだろう。私は普通に結婚し子供を産み、孫が生まれ地味な人生を送っていたはずだが……


「ヴァイセンフェルト何をしている? ラフィエラがお茶を入れてくれたぞ、ぼーっとしていると冷めてしまうぞ。ふふ」


 ふと前を見ると、色とりどりの花々が咲き誇る立派な庭園で白い椅子に白いテーブルにお菓子とお茶が。なによりも愛しの魔王様が微笑み普通に一緒にお茶を飲んでいる。


「何か思い出していた様な気がするの」

「何を思い出していたのかな?」


 何故かすーっと涙が出ていたので、魔王様が優しくそれを拭ってくれた。


「お嬢様、きっと悪い夢を見ていたのですね」


 侍女姿のラフィエラが冷めたお茶を取り換えてくれる。


「ありがとうラフィエラ。決して悪い夢を見ていたのじゃないのよ。全て私の人生だもの。ね、魔王様」

「そうだな」


 しばし私と魔王様は笑顔で見つめ合った。きっとまたお茶が冷めてしまうだろう。

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