花火
神田 真
花火
石階段を登ると、もう始まっていた。
幽かな軌跡を残して昇り、そして大輪は咲く。
その幻想的な光景に息をのんだ。
後ろから下駄の音。振り返れば君がいた。歩きにくいと呟く君の浴衣は、性格を表すような元気な黄色の花がちりばめられ、姿をいっそう美しく見せた。
歩くのが速いよと怒る君。だって早くここを見せたかったんだ。僕たちのほかに誰もいない、空一面に光輝く二人きりの花火会場。
ここで僕は君に伝えたい。小さな頃から抱いたこの想いを。
もう一つ、風を切り音をたて昇る
「君のことが、ずっと…
視界が眩く輝いた。
凄まじい爆音と、じりじりと焼ける熱い奔流に背中を押され体が浮かぶ。
半ば飛ばされるように塹壕に飛び込んだ。
「伏せろ!」
上官の誰かが叫んだ。
衝撃で、口の中に鉄の嫌な味が広がった。
爆撃を受けたらしい。まだ身体に馴染んでいない軍服の背中一面が黒ずんでいた事が物語っている。
明らかに大きいヘルメットを被り直し、僕は揺れる脳でようやく思い出す。
どうやらあの日の夢を見ていたようだ。
落ちていた銃を掴み、味方だったものから、銃弾を拝借する。
ほんの一年前、色々なものが変わりすぎた一年。
国の誰もがこんなことは予想しなかった。
銃を構え、狙いを定める。
僕は勝たなければいけない。
愛する君のもとへ帰らなければならない。
そう覚悟して、僕は引き金を引いた。
花火 神田 真 @wakana0624
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