天までとどけ!

白羽 卯鳥

第1話

全国にリサイクルショップを展開している会社に入社し2年目僕「木野キノ タダシ」は先ほど異動を命じられた。今は異動先へと向かっている所だ。


異動となった経緯といえば、入社して研修が終わり、店舗へと配属になったのを境に店舗兼職場にいると、どこからともなく声が聞こえるのです……。


何度か直接の上司へとその事を伝えてみるものの…



などと言われて、まったく相手にされませんでした。しばらく耐えていたのですが、この謎の現象により精神的に参ってしまった僕は、退職届を懐に入れクビを覚悟で直接上の本部へと伝えてみると……。クビではなく異動を命じられてしましました。



そして今に至る。


「やっと指定された住所へと辿り着いた」


辺りを見回してみると周囲は広々とした立地にいろいろな物が置いてあった。物が沢山置いてあるが手が行き届いていて、整っている。乱雑な感じはしなかった。


入り口を見ると僕が勤めている会社の名前の下に「九十九課ツクモ」と、書かれていたのでノックをして入室許可を得ることにした。。


「コンコン」


中から「どうぞ~」と柔らかな女性の声が聞こえた。


「失礼します。本日よりこちらの部署でお世話になります。入社 2年目の 木野 正と申します。宜しくお願いします」


挨拶を終え顔を上げてみると、メガネをしたエプロン姿の女性が出迎えてくれた。そして、ふんわりと笑顔で迎えてくれた。


「あらあら。良く来てくれました。私の名前は 「清水シミズ ヒビキ」と言います。この課には私一人しかいなかったから、男手が欲しいと思ったの。来てくれてとっても嬉しいわ。」


「はい。こちらこそ宜しくお願いします」


はい。宜しくね!本部の鈴木君から話は聞いているから、一緒に頑張りましょうね。まずは立ち話もなんなんで入って。


「それではそれでは入室させて頂きます。。」


奥の部屋へと案内されている間に先ほどの話を思い出さしてみる。

(本部の鈴木さんって、俺が直訴したかなりの上役だったような…。君付けって…。)


応接室のような部屋で話をすることになった。


清水課長。先ほど仰っていた「事情は聞いている」とは、どのような話を…?」


「木野君………。聴こえるんでしょ?」


「!?」

「…はい。なかなか信じて貰えませんが職場にいると、よく聞こえてくるんです。でも何を言っているのか分からなくて、ただ何かが聞こえるとしか…」


「そっか~。それは大変だったね…。」


それはたぶんあれだわ…。


あれ!?。


……まあ聞いて欲しいな。簡単に説明するとね、人が長期間物を大事に使用していると魂が宿るって言われているのね。それは知ってるかな?


ええ。聞いたことがあります。


「そう。それが付喪神で、木野君が聞こえているのは彼(彼女)達の願いかな…。」


願いですか?



願いよ。ただ声を聞いて欲しい、生前使わていた持ち主の願いを叶えたいという願いや、もっと使って欲しかった等色々あるけど、大切にしていた物程、彼(彼女)達は意識を強く持っているのよ。


それじゃ最初のお仕事は物の声を聞き分ける所から始めましょうか。

よし、着いてきてくれるかな?


連れてこられた場所は広々とした作業場のような場所であった。



よーしじゃあ、ちょっとまっててね。よいしょっと。

なにやら清水課長は台車で何かを持ってきた。


「これは蓄音機なんだ。前の持ち主さん蔵に大切にしまてっいた大事な音響機器なんだよ」


ちなみに、木野君はこの子の声が聞こえるかな?


「さじゃ@:gらrじゃがk、あdfghyじゅk」


何かノイズのような音が聞こえます。



「……。そう、それが彼の声だよ。もっと集中して!それはお願いなんだ!受け入れてあげないと!少しでもいいんだ。受け入れてあげてくれ!」


「音さがが」あ@おあrmが音jぱが:」


何か「音」がどうとか言っているのが聞こえます



そっか~。そうか~。うん。うん。木野君は物の心が分かるようだね~。


次は私が見てみるね


清水課長は蓄音機に額を寄せ、半眼となり、少し経ってから、呟いた。


「ふむふむ。なるほどね。よーし作業開始しましょうか!」


「はい。わかりました!」


「清水課長も物の声が聞こえている!?僕は内心で驚いていた。物を大切にする心を持つと、人と物はここまで心を通じ合わせる事ができると言うことを…。

今まで考えたこともなかった。これからはどんどん清水課長のやり方を覚えて物と心を通じ合わせなければ!


よ~し。始めましょうか!では最初はこの蓄音機のメンテナンスからね。


内部は私が調整するから、木野君はホーンの部分の金属を綺麗に磨いてあげてね。


大事に磨いてあげると、きっと声がもっと聞こえるかも?


「はい!わかりました」


よーし。やるぞお!まずは、埃を払う所から初めて、その後は少量の液体金属磨きを付けて磨いていくぞ!


心を込めて、彼の声が聞こ受け止めて、優しく丁寧に作業を続けていると、段々声が鮮明に聞こえてくるようになってきた。



「お前が今何を言っているか、わかるようになってきたぞ!そうだ音を出したいなよね!先に逝ってしまった爺さんに届けたいんだよな?」



しばらく磨いていると蓄音機からの声が染み込んでくるように聞こえて来た。



「私は前の持ち主に大事に扱われてな、一緒に音を楽しんだんだ。持ち主の爺さんが逝ってしまってからは、なかなか使ってもらえずに埃が被ったままだったが、お前が私をまた甦らせてくれるんだな?爺さんの元へ音を届けてくれるんだな?」



清水課長!また…。また声が!どんどん声が聞こえてくるんです!


うん。うん。そっか~!凄いね木野君は私は吃驚だよ。


清水課長は笑顔で褒めてくれた。



しばらくすると、清水課長から声が掛かった。


「木野君そっちはどうかな?こっちは内部の状態がよかったから消耗品交換と軽く清掃するだけで行けそうよ」


「こちらもOKです。ピカピカに磨いてみました!」


あら!すごいじゃない。綺麗に磨くと味がでていい感じになるのよね~。

ふふふ。じゃあレコードを置いてと


木野君、横についている取ってを回してもらってもいいかな?


わかりました。それでは回します!


「♪♪♪♪~♪♪♪~♪♪♪♪~」


しばらく蓄音機からの音を静かに聞いてから清水課長に声を掛けた


清水課長!再生しましたね!


これでこの蓄音機も音を鳴らせたので、お爺さんにこの音と届きましたかね!?


「え?」



「?????」


木野君いったい何の話をしているの?お爺さん?」


「いや、この蓄音機が言ってましたよ。お前が蘇らせてくれるんだな!とか!それに清水課長も先ほど額を蓄音機に当てて会話をしてましたよね?」


いや、私は蓄音機の内部を覗いてただけなんだけど……。それにこの蓄音機レプリカだからそんな古くないんだけど!?



「…え?」


清水課長は諭すように僕に伝えた。


たぶん…「


名前と同じで「木野正きのせい」ですね!


僕は一旦瞳を閉じ、心を整え懐に手を入れた。そして入れたままにしていた退職願いを手に持ちを空に向かって投げつけた!




「天までとどけ!」



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