第41話 けれども、ヴェインは―――
それから7年の月日が経った。
ヴェインも成長し12歳、ついに冒険者としての資格を獲得した。
学術の道に行くこともできるとパーシルは思っていたが、ヴェインいわく「こっちの方がやりたいことができるから」とのことで、パーシルは何も言わないことにした。
「パーシル、ついにヴェインの遠征依頼でしょ。いやー腕が鳴るわ~」
「目的は魔の領域の調査か」
「ああ」
合流したレインと、アーランドはいつもの調子だ。
今日はヴェインが初の遠征依頼の日ということもあり、彼らにもフォローをとパーシルは声をかけていた。
――魔の領域か、いよいよだな。
パーシルは魔の領域から戻り、肩の傷の療養をしていた時のことを思い出した。
『大活躍だったそうじゃないか! いやー、さすがは私の友人! いつかはやってくれると信じていたよ!』
『……どのようなご用事で、大統領』
フロムロイと彼の補佐であるメガネの女性、それと軍服を着たジュピテルと同じ金髪の女性がパーシルの家を訪ねてきた。
『つれないではないか! まあいい。まずはこちらのご婦人が君に会わせてほしいと私に頼んできたのでね!』
フロムロイが場所を譲り、軍服の女性がパーシルの前で一礼をした。
『このたびは私の娘を助けていただきありがとうございました』
その一言でパーシルは彼女の正体に見当が付いた。
『もしかして、カッシェルさん、ですか?』
『はい。ジュピテルの母、カッシェルと申します。それで伺いたいことがあるのですが』
そういうとカッシェルはポツリポツリとパーシルに話を始めた。
彼女はジュピテルのことを転生者であれ、我が子だと思っている。
だがジュピテルの方はカッシェルのことをいまだに母親と思っていないらしいと、彼女はパーシルに打ち明けた。
特に魔の領域から戻ってきてからは顔を合わせてくれないのだそうだ。
『それならば、心配ないですよ』
そう、パーシルはカッシェルに伝えた。
ジュピテルが誰のために危険を冒したのかを、パーシルは知っていた。
『さて! 私の方からも、いいかね! あれを』
『どうぞ』
ずいと、身を乗り出したフロムロイにメガネの女性が何かの資料を手渡す。
フロムロイその資料を一瞥だけ確認したのち、パーシルが休んでいるベッドに叩き付けた。
『耳寄りな研究結果を見つけたので、友人である君に恩を押しつけてやろうと来たってわけだ。何、私をいいように使ってくれた礼だとでも思ってくれ』
パーシルはフロムロイの下心がどこまでのモノなのかわけがわからなかったが、パーシルは渡された資料に目を通した。
それは竜の山に住むドラゴンゴブリンの事についてだった。
『なんでも、彼らは死んだところと同じところで転生するという研究結果が発表されてね!』
なんでもフロムロイは10年前にサンズライン側でドラゴンゴブリンの大討伐を行ってから、転生したドラゴンゴブリンがティルスター側ばかりに発生してしまい困っているらしい。
ただそんなことよりもパーシルが気になったのは『モンスターが転生する』ということだった。
あの時の妻の影を思い出す。
パーシルの剣に宿った力は大樹の崩壊と共に、消えてなくなってしまった。
――もしかしたら、妻にあえるのかもしれない。
パーシルはフロムロイから資料をもらうことにした。
そうして今日。
パーシルは成長したヴェインの同伴者として、再び魔の領域へと調査に向かうことになった。
パーシルは最近少し小さくした鞄を背負い、扱いやすい軽めの剣を腰に差した。
「――さてと、準備はいいか。ヴェイン」
「モチロン。それじゃ行こうか、父さん」
パーシル、ヴェイン、アーランド、レインの四人は北へ向けて進路をとり歩き出す。
世界に赤い瘴気はすでになく、古来より存在する魔物以外の魔物は現状確認されていない比較的安全な世界になった。
彼らは自分の成した報酬を確かめるように道を進んでいく。
パーシルは先を行くヴェインを眺めた。
――俺たちの息子は異世界転生者なのかもしれない。
だがもし君に逢えたらきちんと伝えたい。
けれども、ヴェインは――俺たちの息子だ、と。
終
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます