第27話 世界の危機はまだ先かもしれない
後日、パーシルがもたらした情報はテステが共和国軍上層部に持ち込んだ。
すぐさま、共和国と王国は連合で部隊を派遣し、アイフィリア教団の調査に乗り出した。
結果として、ティルスター王国のアイフィリア教団は壊滅した。
その波及として、10名の貴族の嫡子ならび、30名の庶子が処罰を受けることになり、王国は大きく揺れることとなった。
彼らは口をそろえて「自分たちよりも転生者を優遇した」と家の方針を動機としていたが、それに対して国からの酌量の余地はなかった。
ただ、それは些細なことだった。
アイフィリア教団解体がもたらしたのは『赤い瘴気』に対する危険性と、この世界の危機的現状であった。
『赤い瘴気は人さえも魔物に変えてしまう』
誰もが知ろうとしなかった現実の前に人々は恐怖し、国を捨て南に逃げる者が相次いだ。
その事態を受け、ようやく王国、共和国、帝国はそれぞれが対処に動き始めた。
それは『赤い瘴気』の観測からちょうど60年目のことであった。
「……で、どうしてよその国の代表様が俺のうちに来るんですか」
「まあまあ、そんなに警戒しなくてもいいではないか!」
自宅のテーブルに座る茶髪の男とメガネの女性にパーシルはお茶を差し出した。
フロムロイはカラカラと笑い、差し出されたお茶をすすった。
「君に一つ、聞きたいことがあってね」
アイフィリア教団との一件が片付き、パーシルとヴェインは自宅に戻ることにした。
だが、自宅は一年以上手が入っていないためか、それともアイフィリア教団の何者かか、はたまた空き巣が侵入したのかかなり荒れていた。
パーシルとヴェインはとにかく部屋の整理を始め、元の生活ができるように家を手入れすることにした。
そうして一週間後。
彼の家を訪れたのは、サンズライン共和国代表フロムロイと、その補佐をしているだろうメガネの女性であった。
「はぁ、それでなんですか?」
「実は20年ほど前、どういういきさつかは知らないが、この国で魔の領域の調査があったようなんだ。かなりの金が動いた話らしくて、王国にも資料があった」
「話が見えませんが」
「その依頼を受けた冒険者の中に、ジニスという冒険者がいた。覚えがあるのではないか?」
「……ジニスは俺の父です」
パーシルは久しぶりに聞いた父の名前を苦々しく思った。
さらにはあまり話をしたくない相手の口から出てきたのだからなおのことだ。
フロムロイはぽんと手を叩いた。
「それは好都合だ! もし、君がジニスから魔の領域の情報を聞いているのなら、その情報を売ってはくれないか?」
「残念ですが、俺の父親は何も言わずに出ていきました。それきり帰ってこないので、俺には何も……」
「そうかね……なるほど。それでは帰るよ! また会おう」
「……はぁ」
怒涛の勢いで家を出ていくフロムロイにパーシルはあっけにとられながら見送るしかできなかった。
――父は魔の領域の調査に行っていたのか。
パーシルはふと家の窓から北側の空を見上げた。
かすかに見える巨大な樹木、その方向に父親がいるのかもしれない。
――だた、俺はあの人みたいにはならないと決めたんだ。
「ヴェイン、昼飯にしようか」
「わかった」
時刻もちょうど良いということで、ヴェインを呼び、パーシルは昼飯をとるにした。
世界の危機はまだ少し先のことだった。
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